僕が学校帰りに毎日ナオさんの家に寄るようになって早2週間。
今日も学校から家に帰る前に、ナオさんのところへ行った。
時が経つのは早いなあ。
こう思いながら、ドアノブを捻る。
ナオさんは自分が家に居るときは勿論、居ないときにもドアに鍵
を掛けない。
随分不用心だけど、ナオさんはまったく気にしてないらしい。
「だって、鍵の開け閉めって面倒やろ?」
あっさりこう云われた時は、開いた口がふさがらなかった。
ものぐさもここまでこれば大したもんだ。
ナオさんはものすごーくものぐさのめんどくさがりだ。
その結果、部屋がとんでもないことになったりするんだけど。

ナオさんがめんどくさがらないことは僅かに三つ。
一つ目が勉強。
ほんの2週間の付き合いだけで、ナオさんがどんなに勉強熱心
かはよく分かった。大学生は勉強しないなんて云うけど、これは
ナオさんには当てはまらない。僕も見習わなきゃ。
二つ目が折り紙。
勉強して脳が疲れたりすると(僕にはこんな経験は無いけど)
息抜きに折り紙を始める。ナオさんは膨大な量の折り紙を持って
いて、次から次へといろんなものを折り散らかしている。何十個も
パーツが必要な立体なんかも熱心に作っていて、僕は端で見てる
だけでうんざりするのだけど、当の本人は楽しそうだ。
そして、三つ目が・・・・・えっち。
もう、泣けてくるくらい時間をかけて丁寧にヤってくれる。
2週間前までは、キスだってろくにしたことのない僕だったのに、
今ではその面影もない。
僕は自分がこんなにやらしいだなんて、思ってもみなかった。

鍵の掛かっていないドアを開けて、
「ただいまぁ」
と声を掛けたが部屋は静まりかえっていた。
足許を見ると靴がない。
今日は金曜日だよね?
頭の中でナオさんの時間割を確認する。
たしか金曜日は午前中だけの授業の筈なのになあ。
僕は部屋にあがりこんで待つことにした。
たった一日目を離しただけで、散らかりかけている部屋を整えて
フローリングの上に寝そべる。
ひんやりした感触が頬に心地よかった。
なんか・・・・こうしてると・・・眠気が・・・・
朝からあった英語のテスト勉強のせいで、昨日はロクに寝ていない。
僕はとろとろと眠りに落ちた。

あ、なんかあったかい・・・
身体を包む暖かい感触で眠りから引き戻される。
まだはっきりしない頭のままで身体を捩ると、目の前にナオさんの
顔のどアップが見えた。
びっくりして完全に目が醒める。
ナオさんは、僕を抱きしめるような形で、すかーすかーと盛大な寝息を
立てて寝入っている。
部屋の中は既に薄暗く、僕は慌てて時計を見る。
時計の針は6時半を指している。
2時間も寝ちゃったや・・・
僕はナオさんの腕のなかからもぞもぞと這いだした。
薄暗がりの中、眠るナオさんを見つめる。
ナオさんはとても平和な顔をして眠る。
僕はなんだか愛しくてたまらなくなって、身を屈めるとそっとナオさんの
唇に唇を寄せた。
ほんの数秒押しつけて、そっと離す。
ナオさんは相変わらず眠ったままだった。

電気をつけたら目を覚ますかも。
そう思って身体を起こそうとしたとたん、頭を強い力で引き寄せられた。
思わずナオさんの胸に倒れ込む。
びっくりして見上げると、ナオさんのにやにや顔が見えた。
「おはよ〜」
ナオさんは云いながらぎゅうぎゅう僕を抱きしめる。
「おはようって、もう6時半だよ?」
僕が苦笑まじりに起きあがろうとすると、ナオさんは素早く身体を
入れ替えて僕を下に組み敷いてしまった。
「目覚めの挨拶はいつだっておはよう、なの」
ナオさんは僕の上で楽しそうに云う。
「・・・・・お腹空かない?」
上になったナオさんの顔に手を伸ばす。
「めっちゃ空いた」
ナオさんはこう云うと、僕の手を取りちゅっと口付けた。
「んじゃ、ご飯作るから。ね?」
この体勢では、油断するとそのまま事に及びそうだ。
僕は用心して、ナオさんの空腹に訴える事にした。
「ん〜、今日の夕飯は何?」
ナオさんは云いながら僕の指を口に含む。
僕は手を引っ込めようとしたけれど、ナオさんはそれを許さなかった。
「な、何でも良いよ? 挽肉あるから、ハンバーグとか肉団子とかは
どう?ナオさん肉好きでしょう?」
内心焦っているのか、早口になってしまう。
僕の指は、相変わらずナオさんの口の中にあって、ナオさんの舌が
絡んだり離れたりしていた。

ちゅっ、ちゅっとナオさんが僕の指をしゃぶる音が薄暗い部屋に響く。
上に乗ったナオさんの重みとぬくもり、指を吸われる感覚、部屋に響く
濡れた音・・・
だんだん僕のほうがヘンな気分になってくる。
「ナオさん・・・・・・」
呼びかけた声がみっともなく掠れていて、なんとなく恥ずかしくなる。
「ん?」
ナオさんが僕の指から口を離して、顔をあげた。
「なに?」
ナオさんは濡れた唇を舐めながら云う。
その仕草はちょっといやらしくて、僕はちらりとのぞく濡れた舌を思わず
じっと見つめてしまった。
ナオさんはそんな僕を見つめ返してにやりと笑う。
心を見透かされた気がして、僕は赤くなって目を逸らした。
「ん、ん〜?何を赤くなってるのかな?」
ナオさんが楽しそうに僕の染まった頬を撫でる。
「な、何でもないっ!」
僕はムキになってナオさんを押しのけようとした。
胸を押す僕の手をあっさり掴んで、ナオさんは床に縫い止める。
「ホントになんでも無いの?」
ナオさんは僕の耳にわざと息を吹きかけながら、囁いたりする。
僕が聴覚刺激に弱いって、知りながらやってるんだからタチが悪い。
「んっ・・・」
僕は思わず顔を背けて身を震わせた。
「何でもないなら、良いけどさ〜」
ナオさんは歌うように云って、僕から身体を起こす。
・・・・・こーいう時のナオさんってホントに意地悪だ・・・・
僕が半泣きで睨み付けると、ナオさんはそっぽを向いてわざとらしく
口笛を吹いてみせた。
「・・・・いじわる」
白々しい態度に思わず本音が漏れる。
「ん?僕はいじわるやよ?」
ナオさんはあっさりと認めると僕の唇にちゅっとキスを落とした。
触れるだけで離れそうになった唇に、慌てて僕はナオさんの首に
しがみついた。
自分から顔をあげてキスをねだる。
ナオさんは笑って僕の頬を両手で掴むと深く口づけてくれた。
口の中に忍び込む熱い舌に、うっとりしながら自分の舌を絡める。
絡めた舌をきつく吸われて、僕は身体を強張らせた。
気持ちよすぎて、何も考えられなくなる。
僕は夢中で口を開き、ナオさんの舌を受け入れた。
ナオさんの舌先が僕の口中をくまなく探り、くすぐったいような感触に
しがみつく僕の力が強くなる。
たっぷりと唾液を絡めて口づけられて、飲みきれない分が口の端から
零れる。
好きな人の唾液は甘いってほんとだよね・・・
僕はぼんやりこんな事を思う。
随分前に、クラスの女の子が話していたことで、そのときはちょっと
気持ち悪いなぁなんて思っていたのに、今ではこの様だ。

「は〜・・・・・」
ナオさんは僕に思う様口付けて、満足したように口を離した。
口からこぼれた唾液を指先で掬って僕の口に戻す。
僕は音をたててナオさんの指に口付けた。
「まさか、キスで終わりにするつもりじゃ無いよね?」
ナオさんはにっこり笑顔で僕の髪を撫でる。
僕は頷くより他になかった。
「ていうか、お腹空いてるんじゃ無かったの?」
服をたくし上げるナオさんに尋ねると、きっぱりと答えが返ってきた。
「今は食欲より性欲を満たしたい」
「・・・・・・・・・・・」
ナオさんってほんとに正直ものだ。
僕はちょっと苦笑して、ナオさんの手に身を任せた。

 

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