義兄弟

第七章

 (たすけて!たすけて!)
 心の中で、必死に助けを求めつつも、実際誰かが来てしまったらどうしようと、恐怖に戦く。
 なんとか手をはずせないかと藻掻いたが、がっちりとくくりつけられた拘束はきつく、どうにもならなかった。
 身体を動かすと、内部の異物がより強く感じられて、腹を食い破られるのではないかと、そんなことまで考えてしまう。
 どうして、どうして俺がこんな目に遭わなきゃならないんだ。
 くやしくて、情けなくて、涙が出る。
 その時、トイレに入ってくる足音が聞こえて、俺は身体を竦ませた。
 一気に心拍数があがり、体内を蠢く振動音と共に、心臓の音が全身にこだまする。
 じょぼじょぼと放尿する音が聞こえ、俺は息を殺しながらも、少し身体の力を抜いた。
 個室さえ、開けられなければいいのだ。
 そう思った時、いきなり扉が開けられた。
「うおっ」
 驚いたように声をあげる男と、ばっちり視線が合う。
 俺は半ばパニックになって、男から逃れようと藻掻き、視線を迷わせた。
 そんな俺を見て、男は個室に入ってきた。
 黒づくめの服に大柄な身を包み、夜だというのにサングラスで目を隠した男が、恐ろしくてたまらない。
「お前、何してんだ?こーゆープレイの最中か?」
 楽しげな声と共に、男の手が頬に触れ、俺はびくりと戦いた。
「ん?何だコレは」
 俺のシャツの胸ポケットから、飛び出していた白い紙を、男の手が取り上げる。
「お好きにお使い下さい…ねえ」
 男の言葉に目を見開く俺の目の前に、男はチラシを差し出した。
 入り口で配られたチラシの白い裏面に、見覚えのあるタクの字で、男の言葉通りの文句が書かれている。
 「しょうがない。使ってやるか」
 ふふっと低い声で笑う男に、俺はごくりと唾を飲み込んだ。
 男の手が、ウエストに掛かり、トイレの床にズボンが落ちる。
 固い音と共に、ズボンのポケットから、プラスチックの小瓶が飛び出して、男は身を屈めると、それを拾い上げ、小さく口笛を吹いた。
「気が利いてるな。ローション付きかよ」
 ポケットにそんな物が入れられていたことなど、まるで知らなかった。
 胸ポケットのチラシにも、まるで気づかなかったくらいだ。
 本当に、誰に犯されても構わないと、自分を置いていったのだろうか。
 改めて、背筋がぞっとする。
「ふにゃふにゃ」
 トランクスを引きずり下ろし、恐怖に萎えた俺のモノを、からかうように指先で弄ぶと、男はフックに手を伸ばし、俺の拘束を一旦解いた。
 長い間、手を上げたつらい姿勢から解放されて、一息つく間もなく、すぐに壁向きにひっくり返され、再び同じように拘束される。
 冷たいトイレの壁に額を押しつけられて、くやしさと嫌悪感に目から涙が溢れてきた。
「うわ、エロ…っ」
 後腔に埋められたローターを見つけ、男がごくりと唾を飲み込む。
「ん、んぅっ、うぅーっ」
 ずるりとコードが引かれる感触に、俺は猿ぐつわの下で、くぐもった声をあげ、自由にならない身体を捩った。
「キモチイイの?」
 後ろから囁くように男が言い、俺の耳をべろりと舐め上げる。
 首筋に生暖かい吐息が掛かり、おぞましさに鳥肌が立った。
 ブーンと低い音を立て、細かく振動するローターを、抜け落ちそうなほど、引っ張り出し、入り口近くで一頻り遊ばせる。
 男は再び指先で奥へと押し込むと、中を探るようにソレを蠢かせた。
「んんっ、ん、ん…っ」
 男の指と異物が、内部を掻き回す感覚に、思わず拘束された手をぎゅっと握りしめる。
 いつしか、自身がゆるりと勃ちあがっていた。
 恐ろしくてたまらないのに、死にたくなるほど嫌なのに、後ろで快楽を感じることを、覚え込まされた身体は、悲しくなるほど、素直に反応する。
「へへ、まさかこんなトコで、犯れるとはな」
 男はスイッチを切ると、一気にローターを引きずりだした。
「んんーっ」
 衝撃に身体が跳ね、ゆるく勃ちあがった自身から、ぽたりと雫がこぼれ落ちる。
「大人しそうな顔の割に、やらしい穴だ。物欲しげにヒクヒクしてるぜ」
 ローションに濡らされた男の指が、二本まとめてねじ込まれる。
 道具によって、拡張されていたソコは、それすらも嬉々として飲み込んだ。
「もう良さそうだな」
 ぐいぐいと俺の中を掻き回し、男は指を引き抜くと、はぁはぁ、と荒い息と共に、双丘の狭間に熱くぬめったモノを擦り付けた。 
 見知らぬ男に犯される恐怖に、身体が震える。
「んんんっ」
 悲鳴は、猿ぐつわに飲み込まれた。
 衝撃に見開いた目の端から、涙が幾筋も溢れて頬を伝う。
 男がぐいぐい腰を使うたび、俺の身体はトイレの壁にぶつかって、鈍い音を立てた。
「すっげ…、たまんね」
 一旦動きを止め、男が吐息と共に言う。
 俺はただ、早く終わって解放されること、それだけを願って、身体を震わせていた。
 片手で俺の腰を抱き、ゆったりと突き上げながら、男がごそごそとしている。
「あ、オレオレ。今どこ?あ、丁度良かった。映画館来ない?そう。イヤ、違うけど。トイレトイレ。うん、そうそう。分かった、じゃな」
 背中から聞こえる言葉に、戦慄する。
 仲間を呼ぶ気だろうか。
「あれ?ビビっちゃった?すっげ締まる」
 恐怖に強張る俺の身体に、男は返って喜んで、俺の腰骨を両手で掴むと、激しく腰を打ち付けてきた。
 トイレに響く、肉のぶつかる乾いた音に、誰かが入ってきたら…と、冷や汗ばかりが滲み出る。
「ん、いいぜ…。イイ締め付けだ…っ」
 男は酔ったように呟きながら、ぶるりと腰を震わせて、俺の中に全てを放った。
 ゆっくりと男が離れていくのと同時に、膝が砕けて、吊られた両手に全体重が掛かる。
「おいおい。ぐったりすんのはまだ早いぜ」
 俺の尻を、男はぺちりと叩いて言い、その時トイレに人が入ってくる足音が聞こえた。
「おーい」
「そこか」
 トイレの中から男が呼び、別の男の声が答える。
 ドアが開けられ、狭い個室に、男が入ってきた。
「一発済んだとこ?」
「そうそう」
「何コレ。お前の?」
「ちゃうちゃう。ココに捨ててあった」
「へえ」
 声と共に、俺の身体に手が伸びてきた。
 拘束されていた手を自由にし、俺を便座に座らせる。
 今度の男は、痩せ型で眼鏡をかけた、サラリーマン風の男だった。
 怯えた俺の視線を捉え、口元だけでふっと笑う。
「おい。猿ぐつわ取ってやれよ」
「声出されたらどうすんだ」
「だーいじょうぶ」
 リーマン風の男は、俺の頭に手を掛けて、優しく微笑んだ。
「声を出したりしないよな?ん?」
 ぺち、と頬に押し当てられた物に、身体が竦む。
 いつの間に出したのか、そこにはナイフの刃が、ぎらりと光を放っていた。
 一見、普通のサラリーマンに見えた男が、垣間見せた凶暴性に、俺はすっかり怯えきって、返事を促されるがまま、こくこくと何度も頷いた。
「いい子だ」
 すっとナイフを仕舞って男は言い、サングラスの男が、俺の猿ぐつわを解く。
「床に跪け」
 男の声は、ぞっとするほど冷たかった。
 タクの声も、時に酷く冷淡だが、この男のように冷酷ではない。
 俺は逆らう気すら起こせずに、トイレの床に膝をつくと、当然のように鼻先に突きつけられたモノに、躊躇なく唇を寄せた。
 恐怖は、人を従順にさせる。
 リーマンが、俺の喉を容赦なく犯している間、グラサンは手持ちぶさたに俺の胸や前を弄った。
「ふん。なかなか上手いじゃないか」
 半ば必死で、男のモノに舌を這わせ、じゅるじゅると音を立てて、しゃぶりたてる俺の行為は、リーマンのお気に召したらしい。
 何しろこっちは必死だった。
 男の機嫌を損ねれば、ナイフでブスリとされるかもしれない。
 恐怖感に煽られるようにして、俺は頭を押さえつけられるがまま、喉奥まで剛直を飲み込み、舌を蠢かせて、男の射精を促した。
「出すぞ。零さずに飲め」
 零したら殺すぞ。
 そんな言葉が裏に秘められている気がして、俺はびゅくびゅくと溢れ出す白濁を、喉を鳴らして飲み込んだ。
 ずるりと男が逸物を引き出し、「口を開けろ」と俺に言う。
 俺は、咽せそうになるのをなんとか堪えて、男の前で口を開けて見せた。
「よし、ちゃんと飲んだみたいだな」
 どうやら、殺されることはなさそうだ。
 ほっと息をついていると、横からグラサンが言った。
「こいつ、お前のモノ銜えながら、ギンギンに勃たせてたぜ」
「はは、相当のスキモノだな」
 嘲るような声に、かっと頬に血が昇る。
 たしかに、俺のモノは、今にも弾けそうなほど、反り返って、だらだらと雫を零していた。
「どうする?今度お前後ろ使う?」
「お前のザーメンまみれの穴なんてヤダよ。お前もっかいすれば?」
「そうするかな」
 俺の意志などまるで無視して、男達の話はまとまったようだ。
 グラサンは、立ち上がると、跪いたままの俺の口元に、残滓がまとわりついたままのモノを押し付けた。
 こみあげる吐き気と涙をぐっと堪え、浄めるように舌をまとわりつかせていく。
「くそ、狭いな」
 リーマンは、ぶつぶつ言いながら俺の背後に回ると、後ろから汗ばんだおれの首筋を撫でたり、服の下に手を差し入れて、乳首を捻り潰したりした。
「も、いいや」
 髪を掴んでいた手を離し、グラサンが便座に腰を下ろす。
「ほれ。乗んな」
 ねこの子でも抱き上げるように、俺の脇の下を持ち、グラサンは俺を膝の上に乗せた。
 勿論、そこには俺の唾液に濡れそぼった男の肉棒が待ちかまえている。
 前からリーマンが、俺の片膝を抱え上げ、男の挿入を助けた。
 ぬるつく先端が、入り口を撫で、先端が僅かに埋められる。
「うぁ、あ…っ」
 ねじ込まれる男のモノに、俺は切れ切れの声を漏らした。
「ほら、一気にいけ」
 リーマンが俺をぐいと押し、グラサンが俺の腰を掴んで引き下ろす。
「ひ…っ」
 一気に根元まで男のモノを飲み込まされて、俺は引きつった悲鳴をあげた。
「よく見ると、カワイイ顔してるなあ」
 リーマンが、汗や涙に濡れた俺の頬を撫でる。
「コレ、貰って帰る?」
 男の言葉に、俺はぎょっとして瞑っていた目を開いた。
 男を見上げる俺の視線を捉えて、リーマンがにやりと笑う。
「そんな怯えた顔しなくても、俺達優しいぜ?」
 くしゃくしゃと俺の髪を撫でるリーマンに、グラサンは後ろで忍び笑いを漏らした。
「ちょっと縛ったり、鞭で叩いたり、踏んだり蹴ったりするだけだよな」
 グラサンは言いながら俺をゆさゆさと揺さぶり、リーマンも「そうそう」と笑って引きつった俺の頬に触れた。
 本当に、連れて行かれたらどうしよう。
 一気に心拍数があがり、冷や汗が吹き出す。
「どうしよっかな〜。持って帰るか、おいてくか」
 リーマンははだけた俺の胸元を撫で回し、爪を立てて乳首を摘んだ。
「はは、すっげえ締め付け」
 俺をゆさゆさ揺さぶりながらグラサンが言い、後ろから俺の耳を噛む。
「調教して欲しいの?ん?」
 低い声と、身体中を這い回る手に、ぞっと鳥肌が立つ。
「Mッ気はありそうだけどね」
 リーマンは、俺の膝を掴んで割広げると、中心で勃ちあがったモノに、ふふんと鼻を鳴らした。
「便所ん中で、見知らぬ男に犯されるのが、そんなに嬉しいか?こんなビンビンに勃たせちゃって」
「ち、ちが…」
 無意識に、否定の言葉が唇から洩れる。
 が、実際俺のモノは、腹に付きそうなほど反り上がって、滲み出す先走りに先端を濡らしていた。
「じゃ、こうしよっか。イかずに我慢できたら、これでおしまい」
 くちゅ、と水音を立てて、リーマンの指がくるりと先端を撫で、俺はぶるっと腰を震わせた。
「我慢できなかったら…」
「仲間集めて、回そうぜ。公開調教」
「そうするか」
 言葉が終わるやいなや、グラサンは勢いをつけて俺を上下させた。
 リーマンは、それに手を貸しながら、ぬかりなく俺のモノを扱き上げる。
 ほんの数分も保たなかった。
 固い先端が、奥にめり込み、リーマンの指先が鈴口をくじる。
「うぁ、あ、やだっ、あ、あぁあっ」
 手足をばたつかせ、首を振って堪えようとしたが無駄だった。
 ぴっと白濁が飛び散り、胸元にまで飛ぶ。
「はい、終わり〜」
 リーマンは、笑いながら、濡れた手を俺の頬になすりつけた。
「んじゃ、俺もおわろっと」
 びくびくと震える俺の身体を押さえつけるようにして、男も最奥に放つ。
 その時、リーマンのポケットから、着信音が聞こえてきた。
 リーマンが携帯を取り出しながら、個室から出ていく。
「お、お疲れ〜。今?すっげいいことしてる。なんなら来る?」
 聞こえよがしの大声を、扉越しに聞いて、俺は半分泣き出していた。
「あの調子だと、あと何人くるかわかんないぜ」
 俺を膝の上から押しのけて、グラサンは言い、床に放り出された俺は、尻を出したまま、へたりこんで嗚咽を漏らした。
「なに泣いてんだよ。気持ちイイことして貰ってんのに」
 俺の髪を掴み、当然のように残滓に汚れたモノを口元に擦り付けてくる。
 俺は泣きながら、仕方なしにそれを舐めしゃぶった。
「これから二人くるってよ」
 そんな声が聞こえたら、ますます涙が溢れてくる。
 グラサンは、嗚咽にひくつく喉奥の粘膜を楽しむように、容赦なく喉を犯し、俺は涙と汗で顔をぐちゃぐちゃにしながら、ひたすら男が終わることを祈った。
「くっ、出すぞ。飲めっ」
 喉奥に放たれた迸りを、吐き気を堪えて飲み下す。
 それと同時に、トイレに入ってくる足音が聞こえた。
「おーす」
 リーマンの声がする。
「ほら、次が来たぜ」
 ぐい、と俺の髪を掴み、扉の方を向かせる。
 ドアが開き、二人の男の影が見えた。