義兄弟

第八章

 「いい子にしてたか?」
「…タク」
 リーマンの横から中を覗き込んでいたのは、タクだった。
 呆然と呟く俺の前に、ヒロもひょこりと顔を出す。
「あれ、泣いてんの?」
「ヒロ!」
 自分をこんな目に遭わせた張本人達だというのに、こんなにも嬉しい。
 思わず俺は、握っていたグラサンのモノを放り出すと、二人の足元に縋って泣いた。
「はは。面白かったか?」
「俺らは楽しかったよ。イイ暇つぶしんなった」
 リーマンとグラサンは、タクと気安く会話を交わして、「じゃあな」と帰っていき、トイレには兄弟と俺が残された。
「さ、帰るか」
「ほら、ちゃんとパンツ履け」
 二人に抱え上げられるようにして立ち上がり、身なりを整える間中、俺はぐずぐず泣いていた。
「怖かったか?」
 頷く。
「俺らが来て、安心した?」
 うんうん頷きながら、手の甲で涙を拭う。
 タクは、黙ったまま、ハンカチで俺の顔をごしごしと拭き、肩を抱いて促した。
「帰るぞ」

 帰りの電車の中、俺は二人に挟まれて、とろとろと眠っていた。
 タクの肩に凭れても、タクは何も言わない。
 二人の体温が、ひどく温かかった。
 

     

「タク!ユウ!起きろ」
 大声に目を覚ますと、ノックもなしにドアが開けられ、ヒロが顔を出した。
 ずかずかと部屋に入り込み、ベッドの布団を乱暴に剥ぐ。
 その下では、俺とタクが裸で抱き合っていた。
「飯だぞ!」
 大声に、タクが身動ぎ目を開ける。
「…おはよう」
「早くシャワー浴びてこい。何回ヤったんだよ。シーツがドロドロじゃねえか」
 ヒロは呆れたように言いながら、俺の前に手を伸ばしてきた。
 無造作に僅かに膨らんだ自身を掴み、軽く扱き上げてくる。
「あ、や、めろよっ」
「やらしい声出すな。犯りたくなるだろうが。クソっ、後でしゃぶれよ。タク起こして、シャワー連れてけ。スープが煮詰まっちまう」
 ヒロは忙しなくまくしたてると、どたどたと階段を駆け下りて言った。
「タク、タク起きて」
 ゆさゆさと身体を揺さぶると、タクが眉間に皺を寄せて、唸りながら目を開く。
 タクはちょっと寝起きが悪い。
「なんだよ」
「もう朝だよ。朝ご飯できてるって」
「そうか」
 タクは目を瞑ったまま俺の首を抱き寄せると、頬に軽く口付けてきた。
「シャワー行こうか」
「ん。行こう」
 起き上がろうとしたが、タクの腕ががっちりと絡んで身動きがとれない。
「タク」
 タクを押しのけようとした途端、タクがのそりと起きあがり、俺をベッドに押しつけた。
「どうせシャワー浴びるんだし、目覚ましに、ヤろう」
「ダメだよ。ヒロが朝ご飯…んっ」
 タクの唇が、ぺろりと胸を舐めあげ、言葉が途切れる。
「いいさ。待たせておけば」
「んあっ」
 ほぼ毎日のように、兄弟に抱かれている後ろは、無造作に突きたてられた指をずぶずぶと飲み込んだ。
「あ、あん…っ」
 いつしか、俺達の間から確執が消えていた。
 彼らは俺を憎むのを諦め、俺も自分にされたことを忘れた。
 今はただ、互いに身体を貪りあう、そんな関係になっていた。
 タクに突かれるのに合わせて、俺の唇から甘ったるい嬌声が洩れる。
「ん、んーっ」
 喘ぐ唇を塞がれて、絡みついてくる舌を吸い返し、タクの腰に足を回して、ぐっと自分に引き寄せる。
「いっつまでサカってんだ!飯が冷めるだろうが」
 怒鳴り込んできたヒロの声につられるように、タクが腰を震わせ、俺の中に全てを放つ。
「今行くよ」
 タクはさっさと引き抜くと、スッキリとした顔で、ベッドから降りた。
「シャワー浴びてくる」
 仁王立ちになっているヒロの脇をすり抜け、タクは部屋を出て行った。
「ごめん。今行く…」
 べたつく身体に閉口しながら、起き上がろうとすると、ヒロが覆い被さってくる。
「あっ、朝ご飯…」
「あとだ」
「もうお腹空いたよ」
「あーと」
 俺の胸の上にのしかかるようにして、ヒロが口元にすっかり勃ちあがったモノを突きつける。
「ね、今日朝ご飯なに?」
 それを手に握り、唇を寄せながら、俺はヒロを見上げた。
「ピザトースト。あとミネストローネ」
「うまそう」
 俺は舌なめずりをせんばかりに、ヒロのモノを舐めしゃぶり、先端を啜りながら、くぐもった声で聞く。
「たまごは?」
「ゆで卵。お前が好きなとろっとろの半熟」
「あ、も、早く食べたい」
「先にこっちに食わしてやるよ」
 ヒロは俺の口から、自身を引き抜くと、たっぷりと注ぎ込まれたタクの白濁が、溢れ出している場所へ、先端を押しつけた。
「いただきますは?」
 物欲しげにひくひくと蠢き、吸い付くように先端をくわえ込む俺に、冗談めかして拓が言う。
「早く、早く来て…っ」
「しょうがねえな」
 俺のせっぱ詰まった声に、ヒロは低く笑うと、一気に俺を貫いた。
「あっ、あぁっ」
 膝を胸につきそうなほど深く折り曲げ、上からのし掛かるようにして、腰を突きたててくる。
 抜き差しする度、ぐちゅぬちゅと卑猥な音が響き、それに身体のぶつかる乾いた音が混じる。
「うわ。なにヤってんの?」
「食事前の運動」
「お前らが終わるまで、朝飯待つのか」
 髪を拭きながら不満げに言うタクに、ヒロは振り向いて叫んだ。
「トースターと鍋の中!あっためて食っといて」
「分かったよ」
 部屋を出ていくタクに、ヒロのモノを飲み込んだままの俺の腹が、ぐうっと音を立てる。
「ヒロ、俺も腹減った」
「あーとーで」
 
 いつしか、こんな乱れた朝が、当たり前となり、それでいいと思う自分がいる。
 今は、これが俺の日常だった。
 


おわり