「わあ!」
思わず歓声が洩れる。
目の前には大きな桜の木が、満開に花を咲き誇らせて
立っていた。
「綺麗やろ〜。ここは山のてっぺんやから、一番日当たりが
良くて、一番先に満開になるんやよ」
ナオさんも目を細めて桜を見ている。
春特有の柔らかい水色の空は、雲一つなく澄んでいて、
桜の淡いピンクがよく映える。
ぽかぽかの日射し。
頬を撫でる軟風。
お花見には絶好の日和だ。
「とっておきの場所があるから、お出かけしよう!」
ナオさんがこう言い出したのは昨日の夕方。
「おべんともって、遊びに行こう!明日は晴れるって、
お天気予報も云ってるし」
さっきから、熱心に新聞を見ていると思ったら、天気予報を
見ていたらしい。
夜中の内に、お弁当の下ごしらえを済ませておいて、僕らは
次の日朝早くから、電車に乗ってお出かけした。
金曜の朝の電車は、通勤のサラリーマンでいっぱいで、ぎゅう
ぎゅうに混んでいて、それを幸いに僕らはずっと抱き合って
いた。
時折、電車の揺れに合わせて、ナオさんが僕に口づける。
それは結構楽しくて、駅三つ分は随分短く感じられた。
電車を降りて、駅から20分くらい。
手を繋いでのんびり歩いて、大きな公園まで辿り着いた。
この公園はすごく大きくて、桜と墓地で有名だ。
「とっておきの場所ってここ?」
公園の入り口でナオさんを見上げる。
ここなら、僕は何度も・・・小学校の遠足やら、社会見学やら
で遊びに来てるから、とっておき、という程の場所じゃない。
あと1週間もしたら、花見客で溢れ返るだろうけど、今はまだ
早いから、犬の散歩をしている人と、家族連れがちらほら居る
くらいで・・・。
見上げた僕を見下ろして、ナオさんは楽しげに笑った。
「ううん。ここからもちょっと歩く。平気?」
それから、ちらりほらりと咲いている桜を見上げながら、公園を
通り抜けて、怪しげな山道・・・時折へびに注意!なんて看板
が立っていて僕を驚かせる・・・を登りに登って、息が切れる頃、
ようやくナオさんの”とっておき”に辿り着いた。
ゆるやかな坂になっている桜の下に、ビニールシートを敷いて、
ちょっと早めのお弁当を食べることにする。
「まこちゃん。こっち」
お弁当を広げて、ナオさんと差し向かいに座ると、ナオさんは
何故だか手招きして僕を呼んだ。
「何?」
聞いた途端に膝の上に横抱きに抱え上げられる。
「こやって食べよう?」
「ええ?」
ナオさんは笑って僕のお腹の上に、お弁当箱をのっけてしまった。
「こんなん食べにくいよ?」
ナオさんは重いし、僕はきゅうくつだし、その上不安定な体勢に
僕は異を唱えたのだけど、ナオさんは笑って聞き流した。
「食えればええやん」
云いながら僕の口に、爪楊枝に刺した小さな肉団子を入れる。
「ナオさん足が痺れちゃうよ?」
僕はナオさんの為にそういって、ナオさんの口にも肉団子を入れた。
しょうがをきかせた和風味の肉団子は、ナオさんのお気に入りだ。
「痺れてもイイからこうして食いたい」
ナオさんが言い出したらきかない人だって事は良く知ってる。
周りにはだあれも居ないし、ナオさんが良いならそれでイイや!
僕はナオさんの膝の上に座り直した。
「次、何がイイ?」
「インゲン肉巻き」
「まこちゃんは?」
「うーん・・・たまご」
お互いに食べたいものを聞きあって、食べさせあう・・・なんていう
食べ方をしていたせいか、食べ終わるまでに随分時間がかかった。
「ん・・・・・」
食後のお茶まで口移し。
全部綺麗に食べ終えて、僕はようやくナオさんの膝から下ろされた。
「満足?」
首を傾げてきいてみる。
「大満足・・・・やけど」
ナオさんが苦しげに眉を寄せた。
「足が・・・」
「え?」
中腰になったまま、ナオさんが低く呻く。
「足が痺れたの?」
ずっと僕を膝の上に乗せていたのだから無理も無い。
僕はナオさんの足にそっと手を伸ばした。
「あっ!こら!触るなっ!!」
ナオさんがよろよろと後ずさる。
「親指引っ張ると、治るんだってば!やったげる!ね?」
僕はテレビで見たことのある、治療法を試してみたくて、ナオさんに
迫った。
「ヤダってば!いたいっ!いぃ・・・・・・っ!!」
無理矢理ナオさんの足を掴んで、思いきり親指を引っ張る。
大きな体の割に苦痛に弱いナオさんは、全身を強張らせて息を
詰める。
僕は一頻りナオさんの親指を引っ張ると、上下にぐいぐい折り曲げて
から、ナオさんの顔をのぞき込んだ。
「痺れたの治った?」
治ってなかったら、もう一回引っ張ろうと思って、手は親指を掴んだ
ままだ。
「うーーーー」
ナオさんは目を瞑ったまま、低く呻いている。
「まだダメ?」
それならもう一度、親指を引っ張ろうとしたところで、押し倒された。
「治った」
僕の肩をビニールシートに縫い止めて、ナオさんがにやりと笑う。
途端に背筋をぞくりとしたものが駆け登った。
ナオさんが、こういう顔で笑うときは、大抵なんかヘンなことを考えて
いる時で・・・。
「治療代は身体で払う・・・・OK?」
「そんなのいいったら!」
ココをどこだと思ってるんだ!
僕は慌ててぶんぶん首を横に振った。
「でも、何かしてもらったらお返しする主義やし・・・・」
ナオさんの暖かい手が、裾から中に忍び込みするりと素肌を撫でて、
僕は身体を震わせた。
「う・・・ちで返して貰っても、良いけど?」
ナオさんを見上げて、一応きいてみる。
「善は急げ」
ナオさんは訳の分からない事を云って、にやりと笑うと、ゆっくりと
僕の首筋へ顔を埋めた。
あっと言う間に服を乱されて、胸までシャツがたくし上げられる。
ナオさんは、僕の胸にくまなく口づけを落としていく。
僕はナオさんの髪に指を絡めた。
うっすらと目を開けると、満開の桜が目の前で風に揺れている。
僕はなんだか気恥ずかしくなって、ぎゅっと目を瞑ってしまった。
うすピンクの無垢な花の下で、僕らは一体なにをしてるんだろ?
ちらりとこう思ったりもしたのだけれど、ナオさんに胸を甘く噛まれて、
思考はどこかに吹っ飛んでしまった。
「あ、あっ・・・」
胸を口に含まれて、舌の先で転がされる。
その度に甘い刺激が、全身を痺れさせて、僕は小さく声をあげた。
履いていたジーンズのウエストは、いつの間にか緩められていて、
ナオさんの指先が、脇腹をなで下ろす。
「まこちゃん、春の匂いがする」
首筋に鼻を埋めたナオさんが、くんくん鼻を鳴らして云う。
「はるのにおい?」
「うん。ちょっと甘いような・・・イイ匂い」
それはきっと、僕からしてる訳じゃなくて、外に居るせいだと思うの
だけど・・・。
僕はナオさんの髪に落ちた桜の花びらを指先で摘み上げた。
淡いピンクの花びらを、なんとなく唇に押しあてる。
薄い小さな花びらは、ちょっと冷たいような感触がする。
「何してるの?」
不思議そうな声がして、ナオさんが僕の顔をのぞき込んだ。
「何でもない」
花びらをくっつけたまま、ナオさんの頬をそっと撫でると、優しい
口づけがそっと唇に落とされた。
舌先が、花びらをかすめ取る。
「食べちゃったの?」
ごっくんと動く喉を、指先で辿る。
「だって、まこの唇は僕のやし」
あっさり云って、ナオさんが笑う。
「花びらのヤツには渡さん」
僕は一瞬絶句して、それからナオさんの首に腕を絡めた。
「やっぱり・・・上に乗って」
繋がったままナオさんが僕を抱きしめて、ぐるりと身体を反転させる。
「んんっ!!」
深く繋がったままで動くのは苦しくて、僕はくぐもった声をあげた。
「大丈夫?」
優しい手が髪を撫でる。
僕は息を整えると、ナオさんの腹に手を突いて身体を起こした。
ここはゆるやかな斜面になっている上に、ビニールシートはつるつる
滑る。
その上で事に及ぶのは、大分無理があったらしい。
思うように動けないのに、二人とも焦れたあげくの体位だった。
ナオさんの手に助けられて、ゆっくりと腰を上げる。
「は・・・・・」
目の前に張り出した枝についた桜の花が、僕を見ているような気が
する。
僕は緩く目を閉じて、ゆっくりと腰を沈めていった。
熱く硬いナオさんが、僕の身体の中に吸い込まれるように消えていく。
初めはごくゆっくりと、ナオさんの手に導かれるように。
それからだんだんスピードを増して、僕だけの力で。
僕はナオさんの上で腰を揺らした。
いつもなら、僕が上に乗っている時は、腰に添えられているか、胸を
悪戯しているか、僕のモノを愛撫するかしていた、ナオさんの手が
今日はどこにも触れていない。
不思議に思って、快感にけぶる目をうっすらと開けると、ナオさんの
手は、僕の目の前の桜の枝に伸ばされていた。
ごつごつした細い枝を摘む指先。
優しく花びらを撫でる手。
「ナオさんっ!」
僕はちょっと桜に嫉妬して、小さくナオさんの名前を呼んだ。
さっきのナオさんの気持ちが・・・少し分かる。
「ん?」
僅かに細められた、優しい目が僕を見つめる。
僕はナオさんの手を取って、さっきから震えて蜜をこぼす、僕のモノへ
と導いた。
「桜じゃなくて、こっち」
掠れた声で、小さく囁く。
ナオさんは僕の手に口づけると、そっと指先で僕のモノを撫で上げた。
「ごめん。あんまり桜が綺麗なモンやから、つい・・・」
片手で僕の腰を支えながら、ナオさんが小さく下から突き上げる。
「ん・・・うわ・・・気、しないでっ・・」
ナオさんが確実に僕の弱いトコロを突き上げるのに、言葉を乱され
ながら、小さく云う。
ナオさんは、腕を伸ばして僕をぎゅっと抱きしめた。
「ああっ!ああ、んあ・・あっ」
そのまま、下からすごい勢いで突き上げられて、僕は堪えきれずに
嬌声をあげてナオさんに縋った。
両手で腰を押さえ込まれて、思いきり深く抉られる。
「んん・・・・・っっ」
目も眩むような快感に、僕は思わずナオさんの肩に歯を立てた。
「いでで」
ナオさんが痛みに呻くのにも構わずに、噛みついたまま白濁を放つ。
ぎゅうっと内部が引き絞られて、中に居るナオさんの存在をありありと
感じる。
途端にナオさんも、僕の奥へと迸りを叩きつけた。
熱い飛沫がほとばしる感覚に、ナオさんの上で小さく身体を震わせる。
僕は息を切らせながら、ナオさんの胸に口づけた。
ナオさんも荒い息を吐きながら、僕の頭を抱きしめるようにして、髪に
いくつも口づけを落とす。
僕らはしばらく、そのままじっと抱き合っていた。
春風が、素肌を柔らかく撫でる。
気持ちよくて、眠くなる。
僕はナオさんの胸の中で、うっとりと目を閉じた。
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