がっこう
体育倉庫
「先生!早く、こっちこっち!」
「ちょ、ちょっと待って…」
両腕を生徒に引っ張られ、川原は転びそうになりながらグラウンドを突っ切っていた。
暮れなずむ空の下、ユニフォーム姿の二人に挟まれて、白衣の川原が砂埃をあげて走っていく。
友達が大けがをした!緊急事態だ!と血相を変えて飛び込んできた二人の生徒に急かされて、慌てて救急箱をひっつかんで保健室を出てきたものの、保健室からグラウンドまではなかなかに遠く、日頃、運動不足な川原は、息を切らしながら、半ば引きずられるようにして、グラウンドの隅の体育倉庫まで連れてこられた。
「この中?」
「そうです」
薄暗く埃っぽい体育倉庫の中に一歩足を踏み入れ、中を見回した途端、ゴン!と後頭部に衝撃が走る。
川原は、そのまま意識を失って、どさりと床に倒れ込んだ。
「あ、起きた」
「せんせーい。平気?」
ぼんやりと目を開け、覗き込む顔を見上げる。頭を起こすと、ズキズキという鈍痛と共に、目眩がした。
「悪ぃ。手加減したつもりだったんだけど」
木製バッドを手にした生徒が、笑いながら川原を見下ろす。
その笑みにイヤなものを感じて、起きあがろうとした川原は、自分の身の異常に気づいた。
服を、着ていない。
その上、後ろ手に拘束されていて、羽織っていた白衣が、身体の下に敷かれている。
「お、前ら…」
声が震える。それが、怒りのせいなのか、それとも恐怖のせいなのかは、川原にも分からなかった。
「先生ってさ、キレーだよね」
ユニフォーム姿の生徒が、しゃがみこみ川原の顔に手を伸ばす。
「嘘、ついたのかっ」
その手を払いのけながら、川原は声を荒げた。
「あぁ、ゴメン。呼び出す口実が見つからなくてさあ」
あっけらかんと言う生徒に、頭に血が昇るのを感じながら、立ち上がろうとした時、複数の手が川原の身体を押さえつけた。
「は、なせっ」
闇雲に暴れる川原の腹に、革靴の先がめり込む。
「暴れんないでよ、先生」
「ぐっ…」
腹を押さえ、苦痛に呻く川原を見下ろし、だらしなくブレザーの制服を着た大柄の生徒が冷たい声で言った。
「俺達、ただあんたをヤりたいだけなんだ。大人しくしてりゃあんま酷いコトしねえから、ちっと我慢してよ」
「お前、大津だな」
口で息をしながら、睨み上げて言う川原に、大津と呼ばれた生徒の眉がぴくりと上がる。
「俺の名前知ってんの?」
川原は、まだこの学校に赴任してきたばかりの保険医だ。まともに顔を合わせた事など一度も無いはずなのに、名前を呼ばれて、大津は内心驚いていた。
「この学校に来てすぐ、お前に殴られたと言って、保健室に来た生徒がいてな」
名前を聞き出し、顔をクラス写真でチェックして、担任にも伝えたが、担任は「またアイツか」と苦々しげに舌打ちしただけで、それ以上の事はしなかった。
「スゲーな。大津、有名人じゃん」
「まぁな」
のんきに笑う大津を押しのけるようにして、ユニフォーム姿の小柄な生徒…川原を呼びに来たうちの一人…が顔を出す。
「先生、オレは?オレの名前知ってる?」
「知るわけねえって」
「オレ以外、知らないだろ?先生」
自分をハダカにして縛り上げたとは思えないほど、屈託なく話しかけてくる彼らに、川原はとまどいを隠せなかった。
「先生なら、生徒の名前は覚えておかなきゃいけねえよなあ」
大津は、一人でうんうん頷くと、川原に一人一人紹介しはじめた。
「そのちっこいのが木元、隣のユニフォームが川上。サッカー部一年のバカコンビ」
川原を呼びに来た二人をそれぞれ指さし言う大津に、二人が口々に文句を言う。
「バカっていうなバカ」
「ちっこいって言わないでよ」
大津は、喚く二人をまるで無視して、それからね、と紹介を続けた。
「その眼鏡が田坂で、デカイのが池山。こいつらは二年。オレもね」
川原は、ぽかんとしてその紹介を聞いていたが、はっと我に返ると、自分を見下ろす面々を睨み付けた。
「名前を言うとは…イイ度胸だな。お前達の顔と名前、しっかり覚えたぞ」
川原は、勿論脅しのつもりで言ったのだが、彼らにそれは通用しなかった。
「もう覚えたの?さすが先生」
木元は無邪気に喜び、あとは低く笑いを漏らしている。
「先生、イマイチ自分の立場分かってないみたいだね」
川上が、同情するように言い、それに続いて、田坂も口を開いた。
「俺達には、何もコワイものなんかないんだよ?」
川原の頬を撫で、田坂が意味深な言葉を囁く。
「…や、やめろっ」
それを問いただす間もなく、複数の手が、川原の肌に伸ばされ、川原はそれから逃れようと、声をあげて身体を捩った。
「肌、キレイだな」
「すげえ白い」
感嘆の声をあげる生徒達に、川原が激しく首を振る。
「ねえ!コレ面白いよ」
木元の声に、川原は閉じていた目を開けた。
川原の持ってきた救急箱の蓋を開け、木元がごそごそと中を物色している。
「へ〜。救急箱っていろんなモン入ってるんだな」
「コレ何だ?」
「汚い手で触るな!」
思わず喚く、川原の言うことを彼らが聞くはずもなく。
「先生、うるさい」
「口、塞いじゃえよ」
田坂と大津によって、無理矢理口に分厚いガーゼが押し込まれた。
「うぅっ、うぅっ」
苦しげに呻く川原をよそに、救急箱のチェックは続く。
「あ、聴診器だ!オレ、触んの初めて」
「オレも。なんだ。けっこうちゃっちいんだ」
蓋側に収納されていた聴診器を見つけだし、木元と川上は、はしゃいでそれを弄くり回した。
「おいおい。先生ほったらかしかよ」
「コレだからお子さまは…」
救急箱に夢中な一年をよそに、二年の三人は、川原の身体をじっくりと検分するように、撫で回している。
「田坂、こういうの似合いそうじゃない?」
木元に聴診器を差し出され、田坂はこうか?と聴診器を首に掛けた。
わざとらしく咳払いをしながら、医者のまねをして、木元の胸に振動板を押し当てる。
「ぎゃはは!うさんくせ〜」
「でも、やっぱ似合うね」
川上と木元は白衣姿の田坂に、腹を抱えて笑った。
「どうせなら、白衣も着たら?」
のんびりと言いながら、池山が川原の下に敷いてあった白衣をぐいと引っ張る。
その勢いで、川原は地面へと投げ出され、白い素肌が赤っぽい砂で汚れた。
バサバサと砂だらけの白衣を払い、田坂がさっそうとそれを身につける。
「おぉ!センセイっぽい!」
長身で、すらりとした田坂には、たしかに白衣がよく似合った。
「田坂センセイ!クランケです」
笑いながら、大津が川原を抱き起こし、大きく足を割り広げて、身体の前に抱え込む。
「んーっ!ん、んぅっ!!」
全てをさらけ出す淫らな格好に、川原が渾身の力で抵抗するが、大津の逞しい腕は、びくともしなかった。
「ふむ…」
聴診器を耳に掛け、しゃがみこんだ田坂が、丸い振動板を、ぺとりと川原の胸に付ける。
「どお?聞こえる?」
まるで指導医にまとわりつく研修医のように、田坂の後ろに控えていた木元が、田坂の顔を覗き込む。
「すっげえ。バクバク鳴ってる」
大きく上下する胸の鼓動を、聴診器で聞きながら、田坂が驚いたように呟いた。
「オレにも!オレにも聞かせて!」
「オレも!」
「お前らガキだなあ…」
競い合うようにして、聴診器に手を伸ばす二人に、大津があきれたように笑う。
大津は、川原の顔を上から覗き込むと、からかうように囁いた。
「先生、顔真っ赤だよ」
川原は、閉じていた目を開くと、ぎりりと大津を睨みつけた。
「熱でもあるんじゃない?」
川原の射るような視線を遮るように、池山の手が、額に伸びる。
「ちょっと、熱いかも」
自分の額と較べて、首を傾げる池山に、川上は救急箱をごそごそやりながら呼びかけた。
「たしか、体温計あったよ」
「お、良いね。測ろう」
見つけだされたデジタル式の体温計を、川上が嬉しげに持ってくる。
「せっかくだからケツで測るか」
ケースから体温計を出しながら言う池山に、隣で聞いていた木元が目を丸くした。
「そんなトコで測れるの?」
「どこでだって測れるさ」
割り広げられたままの、川原の足の間に、池山が体温計を近づける。
後腔に触れる冷たく丸い感触に、川原は身体を竦ませた。
「なんかイヤがってるみたい。きゅって締まっちゃったよ」
じろじろと足の間を観察していた木元が、池山の顔を見上げる。
「細いし入るだろ」
池山は手に力を込めると、ぐっと川原の体内へ体温計を挿入した。
あんなに細い体温計の先なのに、たまらない異物感がある。
「もっと奥まで入れたほうがイイのか?」
中を探るように体温計を動かされ、川原が低くうめき声を漏らした。
「なんか先生、気持ちよさそうだね」
聴診器を首にかけた田坂が、振動板の先で乳首をつつく。
いつのまにか、そこは赤くぷっくりと勃ちあがっていた。
「ケツで感じてんじゃねえ?」
「案外経験アリだったりして」
勝手な事を言いながら、田坂と大津が含み笑う。
誰がそんなトコで感じるか!
屈辱に身体を震わせ、川原は心の中で喚いた。勿論、経験だってない。
後ろに挿れられた異物は、ただただ不快なだけで。
その時、小さな電子音がして、池山の手が、体温計を引き抜いた。
「何度?」
横から体温計を覗き込み、木元が聞く。
「三十七度三分。ちょっと高いな。微熱って感じ」
池山は体温計から視線をあげると、田坂に呼びかけた。
「田坂センセイ。ちょっとお熱があるみたい」
わざと女言葉で言いながら、池山が無造作に救急箱の中へ体温計を放る。
「お前みたいなナースがいたら不気味だな」
田坂は笑いながら、川原の身体を見下ろした。
「熱かあ…。やっぱ、ココが熱いんだよね」
「うん。熱い熱い」
頷きながら、田坂と池山が、ゆるく勃ちあがりかけた川原のモノに手を伸ばす。
「んぅ、うっ、うぅっ!」
二人の手に触れられて、川原はびくびくと身体を震わせた。