筆録

INDEX

「はぁっ、ん、んっ」
 背後から聞こえる、濡れた音と小さな喘ぎ。
 部屋はすっかり、淫らで濃密な空気に満たされていた。
 さらさらと万年筆を走らせる私の周りだけが、かろうじてそこから隔絶されている。
 今回、宗介に買ってきた『おみやげ』は、何の変哲もないディルドだった。
サイズは、私のものよりやや大振りで、こうしたものにありがちな、毒々しいピンク色をしている。
 今まで宗介に与えてきた道具の事を思えば、あまりに平凡すぎるかと思ったが、宗介は思いのほか気に入ったようだった。
 ベッドの上にうずくまり、両手で支えたソレを、必死に舐め回す。
 机の横に据えられた大きめの鏡が、後ろの嬌態を余すところなく映していたが、時々、振り返ってちらりと視線をくれてやると、宗介は身体を震わせて、ますます激しく水音を立てた。
 自分のしゃぶるコレは、与えられなかった私のモノだ、と必死に言い聞かせているのが、手に取るように分かる。
 宗介は、溶けて無くなるんじゃないか、と思うほど熱心にそれをしゃぶりつくした後、仰向けに横たわって、
 背を向けた私に見せつけるように、大きく足を開いた。
「先生、先生」
 呼ばれて振り向くと、胸に自分の唾液でべたべたになったディルドを抱えて、宗介が淫らに腰を揺らしている。
 その足の間のモノは、すっかり勃ちあがって天を仰ぎ、早くも先端を濡らしていた。
「入れて良いよ」
 そっけなく言い、再び背を向ける。
「ふ…ぅ、ん…っ」
 宗介は、お預けを喰らった犬のように、小さく鼻を鳴らすと、自らの手で、異物を身体に押し込みはじめた。
 後ろに何かを入れるのも、久しぶりなのだろう。
 半ばまで収めたまま、荒い呼吸を繰り返している。
「しっかり奥まで突っ込むんだ」
 背を向けたまま、命令を下すと、「んっ、んっ」と苦しげな呻き声が聞こえたが、宗介のそこはそれを根元近くまで飲み込んだ。
 白い肌を上気させ、私に見ろと言わんばかりに足を大きく広げたまま、上半身は自分で自分の身体を抱くようにしている。
 私は手を止めると、じっと鏡の中を見つめた。
 鏡越しに見ているせいか、すぐ後ろで繰り広げられているというのに、宗介の痴態はどこか遠く、まるでテレビでも見ているような気にさえなる。
 足の間から飛び出した、無機質なピンク色は、まるで何かのスイッチのようだ。
 鏡の中の宗介は、自分を抱きしめたまま、やるせなさそうに小さく身をくねらせていた。
 異物を飲み込んだその場所が、ひくつく様まで見てとれるようだ。
 私は、ゆっくりと鏡から目を逸らすと、椅子ごと後ろを向いた。
 椅子の軋む音と、浴びせられる視線に、宗介は一層足を開き、誘うように腰を揺らした。
「先生」
 細い声で私を呼ぶ。
「動かさないのかい?」
 私の一言で、宗介が動いた。
 男にしては、ずいぶんと細い指先がディルドに伸び、端を掴んで引きずり出す。
「はぁっ、あ、あ…っ」
 ぬち、と粘膜の擦れる音が聞こえ、私は萌し始めた前を隠すように足を組んだ。
 宗介は息を詰め、機械的に抜き出しては押し込み、を繰り返している。
 私に見られて緊張しているのか、その動きはひどくぎこちなかった。
 宗介の妙なところで、見てくれ見てくれと散々アピールするくせに、いざ見つめられると緊張して思うように身体が動かなくなる。
 私は苦笑すると、「まあ、ゆっくりやりなさい」と一言残して、背を向けた。
 書き物は、あと少し残っていた。
 これが終わるころには、宗介も出来上がっているだろう。
 案の定、私の視線が外れた途端、宗介の動きは滑らかになった。
乱暴とも言える手つきで、奥まで突っ込み、ぐりぐりと動かしてはひっきりなしに嬌声を漏らしている。
 下腹に付きそうな程反り返った自身から溢れ出した蜜が、茎を伝い、後ろを嬲る手までを濡らす。
 宗介は、何度も角度を変えて異物で内部を抉っては、空いた手を銜えて舐めしゃぶっていた。
「はぁっ、あっ、あぁ…っ」
 宗介の声が、だんだん余裕のないものになってくる。
 くぅっ、と小さな声がして、宗介はぶるぶると身体を震わせていた。
 ディルドから手を離し、張りつめた自身の根元をきつく戒めている。
 宗介は、私がいいと言わなければ、射精をしようとしないのだ。
 別に禁じたつもりはないが、宗介は身体を重ねた当初から、いく時には必ず私に許しを乞うた。
 今では私もそれを当たり前に思っていて、許可を与える前に宗介が達してしまうと、機嫌を損ねて罰を与える。
 宗介は、しきりに私に束縛されたがった。
 私に命令されること、何かを禁じられること、罰を与えられることを、何よりも喜び、無関心と放置を何よりも恐れる。
 今も、宗介は中途半端な私の態度に、期待と不安を綯い交ぜにしていた。
 臨界点を越えそうな快楽を、苦痛で誤魔化すつもりなのか、それとも声を堪えるためか、歯で指先をぎりぎりと噛み締めている。
 私はペンを置くと、机のライトを消して立ち上がった。
 リモコンで、部屋の灯りを数段落とす。
 薄暗くなった部屋の中で、宗介の裸体だけが白かった。
「はぁっ、あっ、せんせ…っ」
 汗ばんだ身体をくねらせ、宗介が私に手を伸差し伸べる。
 私は、ベッドの端に腰掛けると、宗介の手を取って指先に口付けた。
「名前で呼んで」
 囁くように言うと、「豊さん」と消え入りそうな声で言い、私の方へいざり寄ってくる。
 黙ってベルトを緩める私の手を払いのけるようにして、宗介が私の股間に手を伸ばした。
 もどかしげに指先を震わせながら、スラックスを脱がせ、下着を押し上げている高ぶりに顔を押し付ける。
 一時も我慢できぬ、と言った様子で、宗介は下着の上から自身を唇で食み、指先で揉んだ。
 思わず息を乱すと、宗介は身体を震わせてため息を漏らした。
 熱い吐息が、唾液で濡れた下着を通して、自身に伝わる。
 宗介は、むしゃぶりつくようにして、私の昂りを取り出すと、ためらいもなく口に含んだ。

NEXT