義兄弟
第四章
飴と鞭、とでも言うのだろうか。
兄弟は、俺を手酷く犯す割に、それ以外の時は、割とまっとうに扱ってくれた。
家事も、ほとんどはヒロがする。
初めて、ヒロがご飯を作ってくれた時、思わず「料理できるんだ」と呟いた俺に、ヒロは火がついたように怒って、ごはんの入った茶碗ごと、俺に投げつけた。
「お前はお袋の手料理食って育ったのかも知れねえが、俺達は違うんだよ!」
顔を真っ赤にして怒鳴り、俺に殴りかかってきた。
その時は、途中でタクが止めに入って、鼻血が出ただけで済んだけれど、その後滅茶苦茶に犯られた。
とはいえ、事情を知れば、俺の言動も軽率だった。
父親は、愛人の家…つまり俺の家の事だ…に入り浸り、家にロクに金もいれない。
母親は、そんな父親に、頭を悩まし、心を痛め、もともと丈夫でなかった事もあり、兄弟が幼い頃から、入退院を繰り返す。
兄弟は、そんな生活の中、家事を手伝い、母親の看病をし、小遣いはバイトで稼いで、助け合ってここまで来たのだという。
「さっきはごめん」
俺の謝罪に、ヒロはふてくされたように黙っていたが、それからもちゃんとご飯は作ってくれた。
この兄弟と、時を過ごせば過ごすほど、俺は分からなくなる。
俺を憎み、犯す彼らを、俺も憎み返せたら、簡単なのだけど。
俺は、彼らを憎みきれなかった。
彼らの不幸の源は、自分だという負い目もあったし、タクが時折見せる優しさが、ヒロが毎日作ってくれるごはんが、俺の気持ちを鈍らせる。
勿論、彼らが俺にしていることは、許せない。
あの苦痛を、屈辱を、意に染まぬ快楽を、しょうがないと受け入れる事もできない。
だけど…。
自分で自分が、分からなかった。
「たまには買い物にでも行こうか」
日曜の昼過ぎ、ベッドで昼寝をしていると、笑顔でタクが誘いに来た。
「ユウにも何か買ってやるよ。ユウが稼いだ金だし」
言いながら、ひらひらと手に持った万札を振る。
ここ一月、週に二、三度の割合で、俺は『仕事』をさせられていた。
相手は一人の時もあり、複数の時もあり、一時間で終わることもあれば、一晩中の事もある。
タクとヒロは細かく値段表を作っているらしく、結構な額を客から受け取っていた。
「いい。行きたくない」
正直、何も欲しくないし、こうして寝ている方がずっといい。
が、結局の所、俺の意志など、兄弟には関係ないのだった。