義兄弟

幕開け

 高二の春、俺の人生は大きく変わった。

 今まで当たり前だと思っていた事が、一瞬にして幻になる。
 退屈で平凡な日常が、かけがえのない日々だったと知る。
「全くおめでたいとしか言い様がないな」
 見知らぬ男が嘲るように言い、俺はただ呆然としていた。
 
 自分の家族は、ごく普通だと思っていた。優しい母親と、仕事で忙しい父親。
 少々古いが、そこそこ大きな一軒家暮らしで、今まで生活に何の不自由もなく、暮らしてきた。
 つい先週まで、俺は、実に平穏な、ありふれた家族の一員だったのだ。
 その家族が、一瞬で壊れた。
 両親が、交通事故で亡くなったのだ。
 呆然とする俺の前に、二人の男がやってきたのは、そのすぐ後で、壊れた家族のかけらは、更に踏みにじられ粉々になった。

 男達は、二人とも俺と同世代に見えた。高校生か、せいぜい大学生。
 二人は細く開けた玄関のドアを押しのけるように入ってきて、俺の顔をじろじろ睨め付けた。
「あの、どちらさまですか?」
 無遠慮な視線に、たじろぎながら聞く。
「俺達のこと、知らない?」
「知りません」
 本当に、まるで見覚えがなかった。
 今までに会ったことがあるとは思えない。
「俺達は、お前のこと、ずっと前から知ってたぜ」
 ずい、と俺に顔を近づけ、年かさの男が囁くように言った。
「何しろ、兄弟だからな」

 それから、その男達に聞かされた話は、俺の想像を遙かに超えた内容だった。 
 自分がいわゆる私生児で、父親だと信じていたのは、実は名字も自分と違う、他人の父親で、更に自分は認知もされていなくて。
 この家も、財産も、貯金も何もかも、自分には何一つ残されていない、と。
 そんなことを、どうしてすぐに信じられよう。
 俺に残されたのは、自分の身一つと、それに向けられる憎悪だけだった。


 兄は拓、弟は弘、彼らが名乗った訳ではないが、互いにタク、ヒロ、と呼び合っていたのでじきに知れた。
 彼らは俺が名乗るまでもなく、俺の名前…立石由を知っていて、名前だけでなく、年齢や学校名、所属しているクラブまで、ちゃんと知っていた。

 混乱しきって、一言もしゃべれないでいる俺を前に、兄弟が口々に言う。

「いつか、殺してやろうと思ってたんだ」
「三人まとめてな」
「どーやって殺したらバレないかなーって、長年あれこれ計画を練ってたんだけど」
「神ってのはいるんだな。あっさり二人も殺ってくれて」
「ある意味理想?」
「だね」
 兄弟はにやりと笑みをかわすと、嫌な目つきで、俺を見据えた。
「お前だけは…ただ殺すんじゃ物足りないって思ってたからな」
「一緒に死んだ方がマシだった…って目に遭わせてやるよ」
「毎日な」
 そしてそれは言葉通りになった


 それから間もなく、兄弟は俺の家…正確には「俺がずっと住んでいた」家…に、二人して越してきた。
 兄のタクは大学一年、弟のヒロが高校一年、そしてその間を埋めるように、俺が高校二年。
 学校は、今まで通り通わせて貰えたが、俺の全ては彼らに支配されていた。
 同じ家に住むようになってすぐ、彼らはまず手始めとばかりに、俺を犯した。
 居心地のいい自分の部屋が、家族の思いでが残るリビングが、母がまだ居るような気がするキッチンが、お気に入りのバスルームが、悪夢の舞台となる。
 俺と俺の家族に対する彼らの憎しみは、かなり激しいものだった。
 家中に残る家族の痕跡…家族の写真や、両親の私物、揃いの茶碗や、洗面台に並ぶ歯ブラシにまで、彼らはいちいち憎しみを募らせ、その全てを、破ったり、壊したり、燃やしたりして…葬った。
 勿論、彼らの憎しみの矢面に立ったのは俺自身で、彼らは俺を徹底的に辱め、思いつく限りの陵辱を加えることによって、今まで溜まりに溜まった鬱憤を、晴らそうとしているみたいだった。
 もういっそ、両親の後を追って、死んだ方がマシじゃないか。
 そう思ったこともあったが、繰り返される行為に、肉体は慣れ、精神が麻痺してくる。
 そのころには、ようやく彼らも俺を犯すことに飽き…そして、悪夢の第二章が幕を開けた。