がっこう
校長室
昼休みのざわついた教室に、チャイムの音が響き、校内放送が流れた。
「高等部一年一組の三浦悠さん。職員室まで来て下さい」
繰り返されるアナウンスを聞きながら、机に伏せていた悠は、のろのろと身体を起こした。一つため息をつき、立ち上がる。
急がないと。
悠は、足早に教室を出ると、人混みを縫って廊下を歩いていった。階段を駆け下り、一階の廊下の突き当たりを目指す。
喧噪に満ちた学校の中で、この廊下だけはいつも異空間のように、妙に静まりかえっていて、悠はその静けさが嫌だった。
扉をノックする前に、ちらりと廊下の時計を見る。昼休みは残り一五分ほど。
何をされるにせよ、一五分で終わるのだから。
悠は自分に言い聞かせると、深呼吸をして校長室の扉をノックした。
「どうぞ」
部屋の中から聞こえる声に、失礼します、と声を掛けて中に入る。
「待ってたよ」
大きな机の向こうに、ふんぞり返って座っているのは、この学校のワンマン校長の赤松で、悠を呼び出した張本人だった。
「こっちへ」
呼ばれるまま、机を回り、赤松の側へ寄る。
「脱いで」
言われた言葉に、悠は無表情のまま、上着に手を掛けた。
「あぁ、下だけで良い」
言われるがまま、下着ごとズボンを下ろす。
「伏せて」
短い命令は、今までにも何度か経験のある言葉で。悠は大人しく机に上半身を預けた。
赤松の目の前に、悠の白い尻が晒される。かさついた手がゆっくりと撫で回すのに、悠は息を詰めて、ぎゅっと目を閉じた。
耐えるしかない。
校長の玩具となってまだ一月。先は果てしなく長かった。
「時間が無い。力を抜きなさい」
ぺちりと尻を叩かれ、なんとか身体の力を抜こうと、浅く息を継ぐ。
「うぅっ」
力任せにねじ込まれる張り型に、悠は低く呻いて、つるつるした机の表面に爪を立てた。
「このまま、五六時間目の授業に出なさい」
身体を内から抉られる苦しさに、意識を支配されていた悠は、すぐに校長の言葉が理解できなかった。数瞬の後、耳に届いた言葉を理解して、青ざめる。
張り型はそれほど大きくないものの、苦痛には変わりなく、こんなモノを身体に入れたまま授業を受けるなど、考えるだけで気が遠くなった。
「張り型をくわえ込んだまま、教室に戻るのはイヤか?」
張り型の先端を握り、ゆっくりと引き出しながら校長が甘ったるい声で問いかける。
内壁を擦りながらゆっくりと引き出されるモノに、悠は身体を震わせながら、「イヤです」と小さな声で訴えた。
「イヤなら」
先端だけを悠の身体の中に収め、浅く抜き差しを繰り返しながら赤松が言う。
「しょうがない。授業に出る代わりに、私が二時間たっぷり可愛がってやっても良いんだが」
赤松は手を止めると、蒼白になった悠の顔を覗き込み、その耳許に囁いた。
「どうするかね」
張り型を突っ込まれたまま、教室に戻り、それから二時間の授業を受けるなど、死ぬほど嫌だったが、赤松に抱かれるのも同じくらい嫌だった。それに、五.六時間目は、古典、物理と好きな授業が続くのだ。
悠は、覚悟を決めると、震える唇を開いた。
「授、業に出ます」
掠れた悠の声に赤松は笑って手の中の張り型を一気に根元までねじ込んだ。
「あぁあっ」
悠が悲鳴をあげて仰け反る。
「三浦は真面目なイイ子だから、きっとそう言うと思ったよ」
赤松は笑って悠から離れると、腕時計に目を落として言った。
「早く制服を着なさい。じきチャイムが鳴る」
教室に戻るのも、一苦労だった。かろうじてチャイムが鳴るまでにたどり着けたが、そろそろと席に着く頃には、悠はすっかり疲労困憊していた。
じっとしていれば、身体の中の張り型は幾分か身体に馴染んで、それほど辛くはなかったが、少しでも身動きすると、息の詰まるような苦痛が悠を襲う。シャーペンを持つ手がぶるぶると震え、満足にノートも取ることができなかった。
どうして、こんな目に遭わなきゃならないんだ。情けなくて、涙が出そうになる。
自分で選んだ事とはいえ、毎日のように校長にいたぶられ、言い様に玩具にされる境遇はあまりにつらくて、悠は心身ともに疲れ果てていた。
こんな生活が、最低でもあと四年。中二の弟が高校を卒業するまで続くのだ。
永遠にも感じられた授業がようやく終わる。
悠は、おぼつかない足取りで、よろよろと校長室へ向かった。今日ばかりは、掃除当番でなくて良かったと心から思う。
歩くたびに、身体の中で動く張り型に、悠は汗を浮かべながら、何度も立ち止まって小さく喘いだ。
やっとの思いで校長室にたどり着き、震える手で扉をノックする。
「入りなさい」
悠は、なんとかドアを開けると、よろめくように校長室の中へ入った。
「授業はどうだったかね?」
青ざめ、汗にまみれた悠の顔を見て、赤松が校長先生の顔をして問いかける。
「あまり、集、中できませんでした…」
悠は、うわずった声で正直に答えると、細く息をついて、赤松を見つめた。
「私は少し仕事が残っているから、少しそこで待っていなさい」
言われるがまま、大人しく壁際に立って待つ。
じっと立っていると、心臓の鼓動と共に、張り型をくわえ込んだ後ろが、びくびくと脈打つのが分かった。
他事を考えて気を紛らわせようとしても、意識が散漫として、何も考えられない。結局最後に残るのは、身体の中のモノを早く出したい、ただそれだけで。
悠は小さく喘ぎながら、いつしか縋るような目つきで、赤松を見つめていた。
不意に鳴った机の上の電話に、悠がびくりと身を竦ませる。
「はい、校長室です。あぁ、応接室にお通しして…」
電話の内容に、知らず知らず耳を傾ける。
お客が来たのだろうか。これ以上、放っておかれてはたまらない。
不安げな顔をする悠を前に、赤松は受話器を置くと、立ち上がった。
「服を脱ぎなさい」
いつもなら、苦痛の始まりであるこの命令も、今ばかりは救いに思える。
悠は、ほっと息をつくと、精一杯手早くベルトを外した。
「全部だ。上も。あぁ、下着はそのままでいい」
「え?」
思わず悠の手が止まる。下着はそのままでいいってどういう事だろう。コレを取って貰えるんじゃないんだろうか?
おどおどしながらも、取り敢えず学ランとシャツを脱ぎ、ズボンを下ろす。下着一枚の、情けない格好になった悠を、赤松は上から下まで睨め回した。
「君は小柄だな」
たしかに悠は小柄だ。身長は一六五センチくらいしかないし、細身で、華奢な体つきをしている。だけど、今更それが何だって言うんだろう…。
言葉の意図が分からずに、悠はただ赤松の前で身体を縮めていた。
「これを着て」
机の上に出された服に、悠の目が見開かれる。
「きっと似合う」
深い藍色のセーラー服。濃いえんじのスカーフ。紛れもなくそれはこの学校の制服…女子の…で、あまりのことに動けないでいる悠に、赤松は苛立ったように声を荒げた。
「早くしなさい。時間がない」
胸元に放られたセーラー服を、慌てて抱き留める。射るような視線に、泣きたい気持ちで、悠はそれを頭から被った。
素肌に裏地がひんやりと冷たく、思わず鳥肌が立つ。
「スカートも」
おずおずと渡されたスカートを手にして、それが意外に重いことに少し驚く。
もたもたとスカートを履き、脇のホックを止め、ファスナーをあげると、赤松は満足げに頷いた。
後ろに張り型を銜え込んだまま、セーラー服まで着せられて。これじゃまるきり変態だ。
俯いて身体を震わせる悠の背中を、校長が軽く叩く。
「さ、行くよ」
どこへ?
聞き返す間もなく、腕を掴まれ、部屋の外へと引きずり出される。こんな格好で、部屋を出て、もし誰かに見られたら…!
抵抗しようとした途端、赤松がすぐ隣のドアを開け、悠を中へ押し込む。
校長室のすぐ隣、応接室のドアが、静かに閉められた。