dark novelette

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□人研修

「へえ。んじゃフツウにお勤めするつもりが、愛人にされちゃったの?」
 おかしそうに笑う大滝さんに、僕は頷いた。 聞き上手の大滝さんに促されるままに、僕はいつの間にかここにくるまでのいきさつを話していた。
「じゃ、ほんっとにシロウトなんだ。ついこないだまで高校生?」
「はい。十日前に卒業したばかりで…」
「そりゃ、唐突だ。びっくりしたろ」
 僕の顔をまじまじと見ながら大滝さんは言い、それからちょっと声を潜めて囁いてきた。
「でもね、ある意味ラッキーよ、お前」
 どこがラッキーなんだろう?
 訝しげに大滝さんの顔を見返すと、彼はにやりと笑っていった。
「フツウのお勤めよか、キモチイイし実入りはイイし、俺みたく上客に気に入られりゃ、遊んでくらしてられるぜ」
「………」
 別に慰められている訳でもなく、彼は本気で言っているようだけれど…僕はやっぱりあまりラッキーだとは思えなかった。
「ま、そのうち分かるさ」
肩をぽん、と叩かれて、僕は「はぁ…」と曖昧に頷いた。
「んで、部長にはもう犯られたの?」
 いきなり聞かれて、慌てて首を振る。
「まだなんも?」
「あ、口、で…」
 途端に、いろいろな事を思い出して、あらためて気持ちが悪くなる。
「へえ。んで、部長はドコ行っちゃったの?フェラだけさせといて」
「仕事に戻られました」
「コレは?」
 大滝さんが、不思議そうにベッドの上に散らかった道具を指さす。
 僕は思わず赤くなりながら、それは僕が…と小さな声で言った。
「僕が、箱から出したんです。部長に…、あの、後ろを…使えるようにしておけと言われて」
 言いながら、本格的に恥ずかしくなる。
 僕は、大滝さんから視線を逸らして、火照った顔を伏せた。
「へえ。もう試した?」
 おかしそうに笑いながら、大滝さんが手近にあった道具を手に取り、スイッチを入れる。
 低く唸るモーター音と共に、それはぐにぐにと卑猥に動きだし、僕は慌てて首を振ると俯いた。
「いえ、まだ…」
「どして?コワイ?」
 怖い、と思う以前に、まだ試してみようとすらしていない。
「あの、その…道具を使う前に、洗浄、をしろといわれて」
「あぁ、そりゃしたほうが良いねえ」 
 大滝さんがうんうん頷く。
「それで、一応してみたんですが…、それだけで疲れてしまって」
「あ、それで寝てたんだ!」
 分かった!というように笑う大滝さんに、僕は小さく頷いた。
「なんか可愛いなあ。ういういしくてイイね」
 いきなり頬にちゅっとキスをされる。あんまりびっくりしたので、僕は何の反応も返せずに固まっていた。
「名前、なんだっけ。忘れちった」
 満面の笑みで、顔を覗き込まれる。
「…紺野、です」
 頬にされたキスは無かったことにして、僕は無表情に答えた
「紺野、何?」
「フウ、です」
「ふー?可愛い名前だね」
 大抵名前を言った後には、どういう字を書くのか聞かれるから、僕は「風とかいてフウです」という返事を用意していたのだけど、彼はそんなことに興味はないらしく、聞かれなかった。
 その代わりにされたのは一つの提案。
「ふーさえ良かったら、俺、手伝ったげるようか?一人ですんの心細いだろ」
 たしかに、どうやったら良いのか見当もつかないし、手伝って貰えるのはありがたい…ような気もする。
 けれど、その申し出を受けて良いものかは、僕にはちょっと判断しかねた。
「良いのでしょうか…」
 一人でしろ、とは言われていないけど、手伝って貰って良いのだろうか?
 少し悩んで呟くと、大滝さんは、勿論良いさ!と明るい声で僕の肩を抱いた。
 シャツ越しに感じる大滝さんの体温に、何故か心がほっとする。
 僕は、大滝さんの顔を見ると、お願いします、と頭を下げた。


「おいで」
 服を脱いだ大滝さんが、ベッドヘッドに凭れて座り、僕を手招きする。
 僕は、のそのそとベッドの上をいざると、大滝さんの横へ行った。
 いきなりぐいと抱き寄せられる。
 僕は、大滝さんの胸に凭れるようにして、されるがままに抱き締められていた。
「緊張してる?」
「はい」
 僕の顔を覗き込み、聞いてくる大滝さんに、がちがちになったまま頷く。
 こんな風に、誰かに抱き締められるのも、他人と素肌を合わせるのも、僕には初めての事だったから、どうしたって緊張する。
 大滝さんは、にっこり笑うと、僕の髪を優しく撫でた。
「大丈夫。俺、プロだし優しいから。きっとすぐに慣れるよ」
 大滝さんは、言いながら、僕にちゅっと口づけた。
「!」
 今度は、ほっぺたでなく、唇だ。
 びっくりして思わず大滝さんの顔を見ると、大滝さんは、形の良い唇をぺろりと舐めて、僕に囁いた。
「もしかして、ファーストキス?」
「そう、です」
 …これが僕のファーストキスなんだ。
 ぼんやり思いつつ返事をすると、大滝さんは、薄く笑って、僕の耳に唇を寄せた。
「今のはほんの味見だから。これからがホントのキスな」
 言い終わるなり、大滝さんの手が僕の顎を掴み、再び唇が塞がれる。
 ぬるり、と入り込んできた舌に、思わず身体が震えた。
 強張った僕の舌に絡みついたかと思うと、口中をくまなく舌先が辿る。
 あっという間に頭がぼうっとして、何も考えられなくなった。耳に届く濡れた音をどこか遠くに聞きながら、されるがままになっている。
 大滝さんの唇が離れる頃には、僕はすっかり放心していた。
「気持ちよかった?」
 気持ちよかった…のだろうか?気持ち悪くはなかったけれど、正直よく分からない。
 口ごもっていると、大滝さんは小さく笑って、僕の股間に手を伸ばした。
「身体は気持ちよかったってよ?」
 ゆるく勃ち上がりかけていたものを掴まれて、びくりと身体を強張らせる。
 恥ずかしくて、かぁっと身体中が熱くなった。「恥ずかしがることないよ。俺のキスが上手いだけだから。誰でもこうなる」
 自信たっぷりに言われた言葉に、僕は少し安心した。
 キスだけで勃つなんて、すごくいやらしいんじゃないかと思ったから。
「でも、思った通り」
 大滝さんは言いながら、手を上下に動かした。
 思わず声をあげそうになるのを、やっとのことで堪える。
「ふーは感度がイイね」

「やっ、やめて。手を…っ」
 大滝さんの手の中で、僕のモノはあっという間に張りつめた。
 今にも出てしまいそうな程、追いつめられて、大滝さんの手から逃れようと身体を捩る。
「イイから出して」
 カリっと耳の縁を噛まれて、僕は堪えきれずに、大滝さんの手の中に全てを吐き出していた。
「ん。若いだけあって濃いね」
 大きく息をついていると、大滝さんが白濁に濡れた手を舐めている。
「ご、ごめんなさい!」
 僕は慌てて拭くものを探そうと辺りを見回したが、大滝さんは笑って僕の前に手をつきだした。
「舐めてごらん」
「え?」
「自分の味、知らないだろ?」
 大滝さんの指が、唇を撫でる。僕は、大滝さんの顔を上目遣いで見上げながら、舌を出して、手を濡らす白濁を舐めた。


「どうだった?」
 大滝さんの腕に抱かれ、ぼーっとしたまま彼を見上げる。
「気持ち、よかったです」
 頭で考えるよりも先に、口が勝手に動いていた。
 大滝さんは始終優しくて、初めは触れられるだけでビクビクしていた僕も、そのうちすっかりリラックスして、全てを預けていた。
 たっぷりと時間をかけて解された後ろは、小振りながら、バイブを受け入れられるまでになっていて。
 ぎっちりと埋め込まれたそれを、小さく動かされながら、あやすように前をしゃぶられて、僕は高い声をあげながら、放っていた。
「初めてでこんだけ気持ちよくイけるなんて、才能あるよ、ふー」
 才能あるって…部長にも言われたよな。
 僕はやっぱり複雑な気持ちで、黙っていた。
「あのね、ふー」
 僕の身体をぎゅっと抱き締め、大滝さんが小さな声で囁く。
「こんなこと、ふーの望んだことじゃないかもしれないけど、逃れられないなら、楽しむしかないよ」
 諭すように話す声に、僕はじっと耳を傾けた。
「きっとこれから、ふーの想像もつかないようなつらい事がたくさんあると思うけど」
 大滝さんの言葉にびくりと顔をあげる。
「そんな不安そうな顔しないで」
 大滝さんは笑って、優しく僕の頬を撫でた。「でも、悪いことばかりじゃないから。良いことも、楽しいことも、たくさんあるよ、きっと」
 温かな腕の中に抱かれながら、僕はちらりと大滝さんの過去を思った。この人は、どんな人生を歩んできたんだろう?
「早く、いろんなことに慣れることだね。ふーならきっと、すぐに慣れる。身体も性格も、すごく素直だから」
 笑って顔を覗き込まれて、僕は僅かに笑みを返した。

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