真っ暗な闇の中に居た。
ひどく希薄な、自分という存在。
意志も思考も感情もなく、ただ、絶え間なく続く苦痛だけが、
微かに自分の存在を証明していた。「ほら、口を開けなさい」
ぐいぐいと口元に熱くぬめるモノを押し当てられて、優は云われる
までもなく、大人しく口を開いた。
ぎりぎり口に収まる大きさのモノが、一気に喉奥まで侵入してくる。
乱暴に手が髪を掴む。
髪を掴まれるのにはもう慣れて、それほど痛みを感じない。
でも、熱く硬いモノで喉を抉られるのには、いつまで経っても
慣れることができなくて、こみあげる吐き気と息苦しさに、涙
がにじんだ。
後ろからきつく突き上げられる度に、柔らかな喉奥に剛直が
刺さる。
後ろの男の方が、先に達した。
身体の奥深くに流し込まれた熱い体液。
不快感に身体が震え、喉奥が締まる。
頭を押さえつける手に力が込められ、がくがくと頭が揺さぶら
れる。
「一滴もこぼさず飲むんですよ」
軽く頬を叩かれ、その瞬間喉奥に迸りが叩きつけられた。
口中に広がるぬるぬるした青臭い液体を、必死で何度も嚥下
する。
「ほら、舐めて」
云われるままに、頬に押し当てられたモノに舌を這わせる。
「イイ子ですね」
舌探りで丁寧に舐め終えて、深々と頭を下げた僕の頭を、
誰かの大きな手が撫でる。
もう、終わりだろうか・・・・?
僅かな期待はすぐに裏切られ、また熱い手が僕に触れる。
「どこの犬だ?」
首輪をぐいっと引っ張られて、優は床に倒れ込んだ。
「ああ、先生んトコの犬ね・・・」
頭上で声がして、床に倒れ込んだ優の顎を靴の先が掬い上げる。
「まあまあのツラじゃねえか。可愛がってやるよ」
云われた言葉に、優は床に手をついて手探りで男の靴を探した。
見つけたそれに、口づける。
「よろしくお願いします」
平坦な声で云って、命じられるがままに、四つん這いになり、
腰だけを高くあげる。
光の無い世界には、もう慣れた。
自分の存在を忘れる事にも・・・・。
4月の終わりから、5月の頭にかけてのゴールデンウイーク。
休みの前は、たいてい酷くいたぶられるのが常で、連休とも
なれば、それが連日続いたりするせいで、優はずっと5月の
大型連休が来るのを不安に思っていた。
が、予想に反して三上は仕事で家を空け、優はつかの間の休息
に安堵していた。
三上の相手をしなければいけないときは勿論、そうでない時も
同じ屋根の下に居るだけで、いつ呼び出されるか、という恐怖
に怯えていつも不眠だった優も、久々にゆっくり眠ることができた。
連休もあと残すところあと二日になった、子どもの日の夜。
ずっと留守にしていた三上が帰ってきて、優の平穏は終わった。
いきなり帰ってきた三上は、優を部屋から引きずり出して、手錠
を掛けると車に無理矢理押し込めた。
「連休だからな。イイ所へ連れていってやる」
車を走らせながら、三上が低く忍び笑う。
不安と緊張で、冷や汗が出た。
「せいぜいイイコにしてるんだな。私に恥をかかせるような真似を
してみろ。後悔するような目に遭わせてやるからな」
バックミラーごしにこちらを見る目は冷たく、言葉は脅しを含んで
いて、いやが上にも不安を煽る。
連れて行かれたのは、あるマンションの一室だった。
「おや、先生。早かったですね」
ドアから顔を覗かせた、恰幅の良い紳士に部屋に通される。
玄関のドアが閉まったところで、三上は優を振り返った。
「犬は犬らしく、振る舞えよ」
あっさりと云いながら、髪を無造作に掴んで優を床に退き倒す。
優は云われた事を、瞬時に悟って床に手膝を付いた。
西洋式の作りなのか靴を脱ぐスペースはなく、三上は土足の
まま、紳士の後をついていく。
その後を、のそのそと四つに這ったまま進む。
恥ずかしいとか、屈辱だとかいう感情よりも先に立つ恐怖。
云うことを聞かなければ、何をされるか分からない。
恐怖に後押しされて、優は現実から目を逸らし、自分を無くす。
「早く来い」
苛立った声で呼ばれて、急いで床を這う。
通されたのはシンプルな応接セットが据えられた小さな部屋で、
三上は奥のソファにゆったりと腰掛けていた。
「ああ、そこで服脱げ」
床を這ったまま、ドアの入り口までやってきた優に、三上が云う。
優は、一瞬困惑したような表情を見せたが、すぐに無表情に戻って
素直に服を脱ぎ始めた。
微かに震える手で服を脱ぎ、素肌を晒す。
三上はそんな優には目もくれずに、先程部屋へ案内してくれた紳士
とにこやかに談笑している。。
優は、時折三上を気にしながら全ての衣服を脱いで、全裸のまま
床に正座した。
傍らには、脱いだ服がきちんと畳んで置いてある。
「来い」
服を脱ぎ終えた優に気づいて、三上が短く呼んだ。
柔らかな絨毯に手を付き、床を這って三上の元まで行く。
「えーと・・・これですね。サイズはたぶん良いと思いますが・・」
三上の足許に来た優の横に、部屋の奥から出てきた若い男が
跪いた。
「おや?先生は今日が初めてでしたか?」
「ゲストではあるけど、犬連れでの参加は初めてですよ」
頭の上で交わされる会話に気を取られていると、不意に首に
冷たいものが巻き付いた。
「じっとして」
思わず身じろいだ優の身体を、隣に跪いた男が押さえる。
軽い圧迫感と共に、きゅっと巻き付いた物が固定される。
「ちょうどいいみたいだな」
三上の手が、首に触れた。
「ちょっときつめですけれど」
男が立ち上がる。
「鎖はこちらになります」
じゃらりと重たい音がする。
不意に、髪を掴まれて顔をあげさせられた。
「今日はペットの品評会だ。お前も私の犬に恥じないよう、皆に
きっちりご奉仕しろよ。この首輪にかけてな」
至近距離で低く云われると共に、優の首輪にかしゃんと鎖が
付けられた。
戸惑う間もなく、目隠しをされる。
ぬめるジェルのような液体と共に、太い張り型が押し込まれた。
「ぅう・・・っ」
身体の中を無理矢理押し広げられる感覚に、優は思わず身体を
捩って、小さくうめき声をあげた。
「動くな」
低い声と共に、足の間のモノを無造作に掴まれる。
「ひっ!」
そのまま紐のようなもので根本を強く戒められ、痛みと圧迫感にう
ずくまった途端に、きつく鎖が引かれた。
首輪が喉を圧迫して、息が詰まる。
「早くしろ」
腰を蹴り飛ばされて、優は必死で手足を前へと動かした。
真っ暗な闇の中、鎖を引かれて優は床を這い進んだ。
向かうは底知れぬ淵。
終わりの無い闇。
夜はまだ、始まったばかりだった。
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