◆◇◆ 「もうじき着くかな」 この山荘に、時計はない。 男は窓越しに日の傾きをみると、時間の見当をつけ、ユウを檻の外へ出した。 「立ちなさい」 両足で立つのは本当に久しぶりだった。 ひざが錆び付いたように軋み、ぎくしゃくとした動きで立ち上がる。 男はカィリに外の物置へロープを取りに行かせると、高い天井の下、低い位置に一本だけ通っている梁に、ロープを渡し、カィリに手伝わせながらユウの身体を吊った。 「この梁って、まさかこういう事の為に?」 「そうだよ。君もいつか、吊そうか」 男の言葉に、カィリが苦笑いを漏らす。 「うん。綺麗だ」 ぎりぎり床につま先が届く位置につり上げられたユウを、少し離れてしげしげ眺め、男は満足げに頷いた。 白い身体が上に高く上げられた腕から、床を必死で掴むつま先まで、ぴんと伸ばされ、痩せた腹が一層削げて見える。 薄く肋骨の透ける胸が、せわしなく上下していた。 鎖骨の下には、赤く細い線がまだくっきりと残っている。 「顔をあげて」 がくりと項垂れていた顔が、のろのろと上げられる。 吊される苦しさのせいか、薄く唇が開き、頬が赤く上気していて、いつもの人形めいた白い無表情に較べると、随分人間らしく見える。 「そのまま」 男は言うと、スケッチブックに鉛筆を走らせた。 カィリは吊されているユウをちらちらと見ながら、昼食の支度をした。 三枚目のスケッチが終わる頃、ドンドンと乱暴にドアを叩く音がして、男とカィリは手を止めると、玄関へ客を迎えに行った。 ユウを迎えに来たのは、一人ではなかった。 義父と、その仲間が二人。 最後の一日を、この山荘で楽しもうとやってきたのだ。 「センセイがた、お久しぶりで」 迎えに出た城は、どこか皮肉げにそう言い、カィリに二人を紹介した。 「医者のセンセイと、代議士のセンセイだ」 「こんにちは」 ぺこりと頭を下げるカィリに、男二人は無遠慮な視線を注いだ。 「あ、こちらは?」 「センセイのイヌですか?」 にやにやと笑って言う男達に、城がイヌじゃないよ、と否定する。 「俺のモノだ」 「モノですか」 わざとらしく響く笑い声。 客達は、連れだってホールを抜け、リビングへ入った。 「お、吊ってるの?いいねえ」 代議士は、早速吊されたユウに近寄ると、その身体に手を伸ばした。 「城さん、こんな良い所に住んでたんですね」 医者は、壁にいくつもかけられた主人の風景や静物のデッサンを見て回っている。 「これ、みやげに。チョコレート、お好きでしたよね」 「やや、こりゃ嬉しい」 ユウの義父は、男にいくつか包みを渡すと、ちらりと吊されているユウに視線を送った。 「どうでしたか?ウチのイヌは」 「はは。まあ、ちょっと借りる分には悪くなかったよ」 城はそう言うと、吊されたユウの側へ行った。 「あれ、何も入ってないの?」 ユウの後腔を無造作に探り、代議士が意外そうに言う。 「先生んとこはお道具ないんだよ」 城がプラスチックなどの人工物を嫌うことを知る義父が言うと、城は頷いて言った。 「あんな趣味の悪いシロモノ、このアトリエにはおいておけんよ」 「持ち込みも禁止ですか?」 冗談めかして言う代議士に、主人は「持ち帰るならかまわんよ」と笑って返した。 男が持参したカバンから、毒々しい色のバイブやローターを取り出すのを、城が辟易した顔で見る。 「ちょっと大きいかな。でもまあ、良いだろう」 男は言いながら、手にした淫具をユウの口元に突きつけた。 自分を苛む道具を、自分の為に濡らす。 ぴちゃぴちゃと音を立て舐めしゃぶった。 ユウの身体にぐいぐいとバイブが押し込められる。 「力を抜け。入れにくい」 舌打ちをして男が言ったが、吊されているユウはつま先に力を入れて踏ん張っていなければ、その全体重が、手首へと掛かる。 ヒトを吊す為のものでない、荒縄に近いロープは、容赦なくユウの手首に食い込み、その手首に赤い擦過傷をつけた。 ついでとばかりに、こねまわされた乳首に銀色のクリップが留められる。 低く呻くユウを放って、男達は食卓についた。 カィリが腕を振るった料理を、談笑と共に楽しむ。 「あの子はあまり鳴かないね」 「無駄吠えするイヌは嫌いでね。そうしつけたんですよ」 「ちょっと可愛げがないけどな」 「多仁さんは、泣き喚くような子が好みですもんね」 「そうそう。素直に痛がって鳴いたり喚いたりする子の方が、犯ってて楽しい」 「僕はあの子みたいなの、好きですけどね。あの、人形みたいな、無表情が、つらそうに歪むのがいい。ほら、だいぶキツそうだ」 医者が言いながら、行儀悪くフォークでユウを指し示す。 身体から低いモーター音を響かせ、ユウの身体が不安定に揺れていた。 苦痛に、とてもじっとしていられないのだろう。 息を詰め、歯を食いしばるユウの顔は、赤くなり、冷たい汗が顎を伝う。 「そろそろ、可愛がってやりますかね」 テーブルの脇に控え、男達に給仕しながら、カィリはちらりとユウに目を向けた。 これから、この男達に、あの子は何をされるのだろう。 想像すると、何故かぞくりと身体が疼いた。 梁から下ろされると、ユウは床に這い蹲って、大きく喘いだ。 すでにぐったりと消耗したユウに、二人の男が手を伸ばす。 ぼんやりとした顔を、平手で叩き、無理矢理現実に引き戻すと、二人はユウをいたぶりはじめた。 二人がかりで犯されるユウを、この家の主人はスケッチに残している。 カィリは、ソファに座って、異常な光景を眺めていた。 「あの子は、イイ子にしてたかね?」 ソファを軋ませ、となりにグラスを持った医者が座る。 「ええ。ずっと大人しくしてましたよ」 「君も遊んでやったの?」 男の手が、いやらしげに肩に回る。 「ええ、まあ少しだけ」 カィリは曖昧に笑って、少し身体をずらそうとしたが、男の手はがっしりと肩を掴んで離さない。 「先生と、付き合いは長いの?」 「もうすぐ七年ですね」 会話の間中、男の手はカィリの身体を這い回った。 服の下に潜り込もうとする手を、思わず上から押さえつける。 「一度あなたも味見してみたいんですけどね」 そんなカィリの顔を覗き込み、医者はにっこり笑って言った。 「先生が許してくれないんですよ。まあ、セクハラくらいは多めに見てくれますが」 「お触りだけだぞ」 城は笑って言い、医者は残念、と言って立ち上がると、ユウをいたぶるのに参加した。 「カィリ、おいで」 城は、スケッチブックを閉じると、カィリを手招きした。 カィリがふらりと立ち上がり、歩きながら乱された服を脱ぐ。 目の前に全裸で立つカィリを、城は満足げに眺め回した。 「やっぱり、お前の身体が一番だな」 言いながら、カィリの手を取り、その指先を口に含む。 たっぷりと唾液を絡ませた指を引き抜き、カィリはそれを後ろへと滑らせた。 「お前こそが、俺のモノだ」 くしゃくしゃと薄茶の髪をかき混ぜるように撫で、そのままぐっと、手に力を込める。 カィリは、男の手が導くまま、歯を使ってファスナーを下ろし、歯と舌、唇だけを使って、器用に城のモノを晒した。 その間も、濡れた指先が後腔を探り、くちくちと濡れた音を立てて、そこを弄る。 第一関節までを沈め、中を探るように動かしながら、カィリは目の前にモノに愛しげに頬を寄せた。 既に緩く立ち上がったモノが、生暖かくカィリの端正な顔を撫でる。 ゆっくりと濡れた唇を開きながら、上目遣いに見上げると、城の視線とぶつかった。 視線を絡めたまま、赤い舌を出し、先端を舐めしゃぶる。 いつしか、カィリの指は、根元まで押し込まれていた。 ずぶりと突き入れては引き出し、再び押し込んでは、中で指を曲げ、かき回す。 「んふっ、ふ、ぁっ」 唾液と先走りの混じり合ったものが、幹を伝い、それを追うように、カィリの舌が、、根元から先端まで余すところなく舐め尽くす。 たっぷりと濡らしたそれを、手を使わぬまま、喉奥深くまで飲み込み、頭を振る。 「おい、零してるぞ」 城の言葉に、カィリは伏せていた目を開き、唇から凶悪なまでに勃ちあがったモノを吐き出した。 「しゃぶっただけでお漏らしとは、淫乱にも程がある」 からかうように言いながら、城の足が腹に付きそうなほど反り返り、ぽたぽたと卑猥な雫を垂らすモノをつつく。 「あぁっ」 後ろへの刺激だけで達ける身体は、すでに臨界状態だった。 思わずイきそうになるのを、なんとかこらえる。 「濡れたじゃないか」 裸足の親指が、カィリの先走りで濡れていた。 カィリは後ろから、指を引き抜くと、四つん這いになって、その足を丁寧に舐めた。 「丁度いい。そのまま犯してやる」 床に這うカィリの細腰を掴み、城が後ろから一気に貫く。 「あぁあっ」 城に抱かれるのは、一週間ぶりだった。 身体中が歓喜に震え、城のモノを逃すまいと締め付けるのが分かる。 くずおれそうになる腕を支え、カィリは顔をあげて、一週間、自分から城を奪ったユウを見た。 カィリの目の前で、ユウは三人の男に貪られていた。 横たわった男の上に乗せられ、その口は別の男が犯している。 背後に立った男は、あちこちに赤い痕が残るユウの身体を撫で回し、ついでとばかりに、あちこちを抓り、噛みつき、新たな痕を付けていた。 ぽちりと存在を主張する胸の尖りにぎりりと爪を立て、ゆるく勃ちあがった前を乱暴に扱く。 可哀想に、とまた思う。 ユウの顔は濡れていた。 飲み込みきれない唾液に、男のモノから溢れる先走りに、額から滴る汗に、眦から零れる涙に、濡れていた。 可哀想に。 ユウの口を犯していたモノが引き出され、蒼白な顔に、どぷりと精液が放たれる。 可哀想に。 そう思うカィリの思考は、そのうち城がもたらす快感に凌駕されていった。 この狂宴は、いつまで続くのだろう。 カィリは喉を反らして喘ぎながら、窓の外を見た。 夜の帳が下りはじめ、薄く雪のつもった樹木が、暮色に薄ぼんやり浮かんでいる。 闇がここを覆い尽くすまで、もうすぐだった。 |
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