いつもの喫茶店のいつもの席で朝ご飯(…といっても、もう昼過ぎなんだけど)を食べていたら、携帯にメールが入った。
チーズとハムの挟まったホットサンドを口に押し込みながら、紙おしぼりで指先を拭いて、携帯を開く。
 こうやって、いそいそとメールを見るときに限って、迷惑メールだったりするものだけど、今日は違った。
 画面に浮かぶ、好きな人の名前。
 僕はちょっとドキドキしながら、メールを開けた。
「今日あえる?5時過ぎに店の前で」
 簡潔、だけど嬉しい内容。
「OK。楽しみにしてる」
 僕が返すメールも簡潔だ。
 メールを打つのは面倒だし、指が疲れる。
 僕は、携帯を閉じると、手を挙げてウェイトレスを呼んだ。
「クリームソーダ、追加で」
 約束の時間は5時。
 それまで、僕はここで時間を潰すことにする。
 家に帰ってもすることはないし、どこかに出掛けるのも億劫だし。
 デート前に疲れるのはイヤだ。
「はい、どうぞ」
 なじみのウェイトレスが持ってきてくれたクリームソーダには、普段はないウエハースが添えられていた。
「サービスよ」
「ありがとう」
 アイスに突き刺さったウエハースを指先で摘みながらお礼を言う。
ほのかに甘くて微かにしけったウエハースを食べながら、僕はぼんやり通りを行き交う人を眺めた。
 窓際のこの席は、たくさん人が見られるから好きだ。
 毎日のようにここに来て、毎日のように人を眺める。
 みんな、ほんとに忙しそうだ。楽しそうだし、幸せそう。
 僕は、ぼんやりとしつつも、せっせと手だけは動かして、スプーンでアイスを掬った。
 アイスをすっかり食べ終えてから、安っぽいエメラルドみたいに透明な緑の液体を、ちびちびと飲む。
 次は何を頼もうかな…
 目の前を通り過ぎていく女子高生の、いかにも健康そうな太腿を見ながら考える。
 ずずっと最後の液体をストローで啜って、手を挙げる。
「あの、プリンパフェ、追加で」
「はーい」
 テーブルに置かれた伝票は4枚目。
 5時までに、あと何枚増えるかな。
 ウェイトレスがクリームソーダの器を下げるのを見送ってから、もう一度外を眺める。
 曇り空の空からは、今にも雨が降り出しそうだった。


 改札を出ると、思った通り大雨だった。
 駅横のコンビニで傘を買って、目の前の横断歩道を渡る。
 駅の時計は、5時15分を指していた。
「ようちゃん」
 声に振り返ると、路肩に止めた車の窓から手を振る人がいる。
「神野さん」
 僕は、手を振り返すと、急ぎ足で車へ向かった。
「雨降っちゃったな」
「うん」
 車のドアを閉めて、神野さんに向き直る。
「元気だった?」
「元気だったよ」
 神野さんに会うのは十日ぶりくらい。
 神野さんは聞くまでもなく、元気そうだ。
「どこ行きたい?」
 車にエンジンをかけながら、神野さんが聞いてきた。
「どこでもイイよ」
 シートベルトを締めながら、答える。
「何がしたい?」
 前を向いたまま言う神野さんの横顔を見ながら、僕は笑って言った。
「セックス以外に?」
「セックス以外に」
 神野さんも笑って答える。
「じゃあ、買い物。もうじきイトコの誕生日なんだ」
「よしきた」
 神野さんの返事とともに、ぶいーんとエンジンが唸ってスピードが上がる。
 シートに身体が押しつけられる感触は、悪くない感じだ。
「僕も車買おうかなあ。どう思う?」
 免許は持っているけれど、今まで一度も車を買った事がない。
 免許を取ったら車を買おうと思っていたけど、その時付き合っていた彼氏に、運転は危ないからダメだと言われて以来、特に必要が無かったこともあって、結局ペーパードライバーだ。
「イイんじゃない?どうせならデカいのにしろよ。それか外車」
「一緒に選んでくれる?」
「勿論。ようちゃんが車買ったら、迎えに来て貰えて便利だな」
 この一言で、すっかり車を買う気になる。
 どんな車が良いか、イトコにも聞いてみよう。
 僕のイトコは何でも知ってて頼りになるんだ。
「ここで良い?」
「うん」
 ショッピングセンターの地下駐車場に車を止めて、イトコの誕生日プレゼントを探すことにする。
「何をあげるの?」
 たくさんの店が並ぶ中を、神野さんと二人で歩くのは楽しかった。
 いろんな店をひやかして歩きながら、イトコにはアンティークな感じの時計とよく分からないけれどかっこいい書類入れのようなものを買う。
 外国製の雑貨が並ぶお店で、神野さんは僕にブレスレットを買ってくれた。
 オフホワイトの革製で、銀色の留め金のシンプルなやつだ。
「焦げ茶のが汚れなくて良いかなあ。ん〜、でもやっぱり曜ちゃんは白だな。白が似合う」
 そう言って、買うなりレジでタグを切って貰って、僕の手首に付けてくれた。
「ありがとう」
 すごく嬉しかったから、ぎゅっと抱きついて、思い切り頬にキスをする。
 してしまってから、レジの女の子が、ぽかんと僕らを見ていることに気がついたけれど、僕は気にしなかった。
「よしよし。気に入ったか?」
 僕の髪をくしゃくしゃと撫でている神野さんも、勿論まるで気にしていない。
 何故だか静まりかえってしまった店を出て、僕らはごはんを食べることにした。
 食堂街にある和食なファミレスで、腹一杯食べてから、すっかり満足して駐車場に戻る。
「さて、どこに行く?」
 車のシートに収まって、神野さんは僕を見た。
 唇をちょびっと曲げて、にやりと笑う。
 背筋が、ぞくりとした。
 この人のこういう顔はたまらない。
 特にこんな薄暗い場所で、しかも車の中っていう密室で。
 僕は腕を伸ばすと、神野さんの首にかじりついた。
「ここでする」
「しょうがないなあ。曜は」
 神野さんは笑って僕の身体を抱き留め…そして僕の目をまっすぐに見て、言った。
「インラン」
 冷たい目。吐き捨てるような言い方。
 僕の身体はあっという間に熱くなる。
「あ、や…だって…っ」
 喘ぎながら、ごそごそと神野さんの股間を探る。
 服越しでも、そこが熱く膨らんでいるのがちゃんと分かる。
 僕はもう、それが欲しくてたまらなくて、もどかしさに指先を縺れさせながら、なんとかそれを外に出した。
「食うか?」
「ん、んっ」
 からかうような問いかけに答える間もなく、顔を伏せる。
 熱く滑らかな表面に唇が触れる感触に、思わずうっとりしながら、先端を舐め回す。
「奥まで咥えて」
 ため息のような声と共に、後頭部に置かれた手に力がこもった。
 ぐいぐいと押されるがまま、喉奥まで飲み込んでいく。
 舌を絡ませながら、ゆっくりと顔を上下させると、大きな手が優しく髪を撫でた。
「相変わらず上手だな」
 褒められると嬉しい。
 僕はますます夢中になって、神野さんのモノをしゃぶった。
 神野さんのはすごく立派だ。カリが大きく張り出して、自信たっぷりに反り返る。
 ほんとに、コレって神野さんの性格が出てると思う。
 溢れ出してきた先走りを啜っていると、僕はもう我慢できなくなってきた。
 神野さんのモノを咥えたまま、自分の下半身に手を伸ばす。
「手伝ってやるよ」
 狭い中では動きづらくて、じたばたしていると、神野さんがみかねたのか、片手でずるりとズボンをずり下ろしてくれた。
「ん、んんっ」
 ただしゃぶっていただけなのに、僕の中心はもう完全に勃起していて、先走りでドロドロだ。
「おい、一人でイくのか?」
 ぬめる自身を掴んだ僕に、神野さんがびっくりしたように聞いてきた。
「神野さんはまだ?」
 涎と先走りで濡れた顔をあげて聞くと、神野さんが小さく肩を竦める。
「イこうと思えばイけるけど」
「僕、もうダメ」
 喘ぐ僕に、神野さんは笑って僕の身体を自分の上へ引き上げた。
「今度はこっち弄ってて」
 前を掴んでいた手を、後ろへと回される。
 僕は夢中で、濡れた指を後ろへと埋めた。
「あんっ、あ、あぁっ」
 穴の中に指を入れて、好き放題に動かしながら、さっきまで銜えていた神野さんのモノを扱く。
「僕の、も、触って、ね、お願いっ」
 自分でもびっくりするくらいはしたない声。
 神野さんはふふんと鼻先で笑って、僕のモノをそっと握った。
「もっと強く…っ」
 鼻に掛かった声で言いながら、指を増やして後ろを穿る。
「あ、も、イきたいっ!ねえ、後ろ、もう挿れてっ、犯して」
 自分でももう、何を口走ってるんだか分からない。
 頭を振りながら叫びたいだけ叫ぶと、焦らすみたいにちゅるちゅると先端を指先で撫でてた神野さんが、
 僕をぎゅっと抱きしめて、耳許で聞こえよがしにため息をついた。
「これ以上焦らしたら、曜ちゃん狂っちゃうもんな」
「うんっ、うん」
 神野さんの首にしがみつき、夢中で頷く。
 大きな手が、僕の尻を割り広げるようにして持ち上げる。
 僕の後ろは、まるで待ちきれないみたいに、ひくひくと蠢いていた。
 そこに、ぎっちりと神野さんのモノが押し込まれる。
「んあぁあっ」
 僕は大声をあげて仰け反った。
 目も眩むような快感と、激痛に。
 挿れられた途端に射精しそうだったのに、神野さんの手がぎっちりと僕の根元を押さえつけたからだ。
「んっ、んあっ、あっ」
 僕は、神野さんの肩に掴まり、自分から腰を揺すり続けた。
 身体のあちこちがいろんな所にぶつかったけれど、気にしてられない。
 僕が狂ったように神野さんの上で跳ねている間、神野さんはほとんど動かずに、優しく僕の髪を撫でたり、額や頬に口づけたり、いつのまにかはだけたシャツの間から覗く乳首を弄ったりしていた。
「かん、のさんもうごいてよぅ」
 舌足らずのお願いに、ようやくその気になってくれたのか、神野さんが下から軽く突き上げてくる。
 わざと僕の動きとはリズムをずらして、不規則に。
 たまらない快感に、僕はあんあん喘ぎながら、身体をくねらせた。
「も、イかせてっ、イくっ」
「ん、いいよ」
 言いながら、神野さんが勃ちきった僕のモノを扱く。
 僕は、悲鳴のような声を上げながら、神野さんの手の中に思い切り放った。
「もうちょっと付き合ってね」
 ぐったりと力が抜けた僕を抱え直し、神野さんがゆさゆさ揺さぶる。
 僕は、神野さんにぎゅっと抱きついて、きゅきゅっと後ろに力を込めた。
 耳許で低く神野さんの呻く声が聞こえる。
 体内でぐぐっと膨らむ感触に、また背筋がぞくぞくする。
 息が詰まるほどに身体を埋めたモノがびくびくと脈打ち、迸りが叩きつけられる。
「はふ」
 満足げにため息をつくと、神野さんは僕をぎゅっと抱きしめてくれた。


「また、メールする」
 マンションの前まで送って貰って、バイバイする。
 久しぶりのデートはすごく楽しかった。
 今度、イトコに会ったらのろけよう。
 誕生日プレゼントの入った袋をぶら下げて、僕はエレベーターのボタンを押した。