「将来の夢?」
「そう」
僕は湯船に浸かりながらシャンプーをしているナオさんの顔を見上げた。
「小さな時みたいに、自由に自分の夢を描きましょうって。どんな内容でも構わないからって」
「それが、宿題なん?」
「そう。原稿用紙3枚以上で月曜日まで」
僕は、シャワーの栓をひねると、泡だらけのナオさんにしゃわしゃわとお湯をかけた。
「ぷは〜」
ぶるぶると犬みたいに濡れた髪の水を切って、ナオさんが湯船に飛び込んでくる。
狭い湯船の中はたちまちぎゅうぎゅうになって、お湯が凄い勢いで溢れ出た。
「は〜、ごくらくごくらく」
僕と向かい合ったナオさんが、のんびりと目を瞑る。
「ナオさんオヤジみたい」
気持ちよさそうなナオさんをからかって言うと、ナオさんは片目だけで僕を見て、にやりと笑った。
「ま、ガキンチョのまこちゃんよりはね?」
ナオさんの視線の先には僕の・・・股間。
「も〜!えい」
僕は赤くなると、指先でお湯を弾いてナオさんの顔に水を掛けた。
「やったな〜」
ナオさんが手の甲でお湯を拭いながら、じりじりと僕に迫ってくる。
狭い湯船の中に、逃げる余裕なんてあるわけもなく。
あっという間にナオさんの手が伸びてきて、僕の脇を擽った。
そのあとはもう、狭い湯船で笑いながら大暴れして、二人して湯船から上がる頃には、お湯はほとんど無くなっていた。
「まこちゃんぬくぬく〜」
ベッドの中で、ナオさんが僕を抱きしめる。
「それに、すごくイイ匂い」
ナオさんは、僕の首筋に鼻先を埋めると、くんくんと鼻を鳴らした。
「ナオさんだっていい匂い」
お風呂上がりのナオさんの腕の中は、ものすごく暖かで居心地がいい。
僕は、ナオさんの胸にすり寄ると、自分と同じ石鹸のにおいのする胸に、鼻先を押しつけた。
ナオさんがくすぐったそうに笑いながら、指先でまだ湿ったままの髪を梳く。
僕は、ナオさんの胸から顔をあげると、ナオさんの顔をじっと見上げた。
「どうした?」
優しい目が、じっと僕を見つめ返す。
僕は黙ったまま、ナオさんの首にしがみついた。
「宿題の事を考えてるの?」
ゆっくりと僕の髪を撫でながら、ナオさんが穏やかな声で聞く。
にぶちんのナオさんにしては大当たりで、僕は小さく頷いた。
「ナオさんは、小さな頃何になりたかったの?」
髪を撫でてくれる手の感触が気持ちよくて、僕はナオさんにくっついたままそっと耳に囁いた。
「僕?僕はねぇ、ちっちゃい頃からずっと学者。これからなるつもりやけど」
嬉しげなナオさんの声。
ナオさんの勉強好きは小さい頃からなんだ。
小さな頃のナオさんを想像してみようとしたけど、あまりうまくいかなかった。
「まこちゃんは?」
聞かれて、ふと考え込む。
僕は・・・何になりたかったっけ?
というより、なりたいものはあったっけ?
思い出そうとすればするほど、曖昧な記憶はすり抜けていってしまう。
しばらく考えると、僕は息をついて首を振った。
「覚えてないや」
「そっか・・・」
緩慢に髪を撫でる手。
僅かな沈黙。
ナオさんは、少し身じろぐと、僕の顔をじっと見ながら口を開いた。
「宿題には、なんて書くの?」
「・・・・・・・困ってる」
本当に、困っていた。
今があんまり幸せだから、将来の事なんて僕はまるで考えていなくて。
僕は、腕を伸ばしてナオさんにぎゅっとしがみついた。
「僕、ナオさんとずっとこうしてたいなあ」
小さな声で、呟くように言ってみる。
ナオさんは、小さく肩を揺らして笑うと、僕をきつく抱き返してきた。
「僕は、そのつもりやけど」
「え?」
顔をあげると、ナオさんがじっと僕の目を見つめながらゆっくりと口を開いた。
「僕、ずっとまこちゃんと一緒に居るつもりやよ。まこちゃんの側からは、離れない」
きっぱりと言うナオさんの顔は真剣で、僕は少し泣きそうになった。
「ナオさん・・・」
なんて言ったら良いのか分からなくて、顔を見られないように胸に額をくっつける。
「僕、まこちゃんに夢中なん。ほんとに、どうしたら良いのか分かんないくらい大好き」
ナオさんは、僕をぎゅうぎゅう抱きながら、髪にいくつもキスを落とした。
僕だって、ナオさんに夢中だ。
いつだって、ナオさんの事ばかり考えてる・・・。
「ナオさん、好き・・・」
僕は、胸から顔をあげると、ナオさんの首にしがみついて口づけをねだった。
「ん・・・」
甘く喉を鳴らして、ナオさんがそっと口付けてくる。
「ん、ふっ・・・」
唇を開いて息を漏らすと、ナオさんの舌が滑り込んできた。
舌と舌を触れあわせて、ゆっくりと絡ませる。
優しく頬を撫でる手に、僕は陶然としながらナオさんの口づけを貪った。
舌をきつく吸い上げて、柔らかな髪に指を絡ませる。
長く深い口づけに、息苦しくなるけれど、ナオさんから離れたくなくて、僕は唇を離さなかった。
「んっ、は・・・ぁ・・」
柔らかく唇を吸いながら、ナオさんがそっと唇を離す。
僕は、ナオさんにしがみついたまま、潤んだ瞳をゆっくりと開いた。
「まこちゃん」
息が掛かる程の至近距離で、ナオさんの濡れた唇が甘く僕の名前を呼ぶ。
「抱いて・・・」
僕は、ナオさんの首を抱き寄せると、耳に小さく囁いた。
「はあっ、あっ、あっ・・・あぁっ」
気持ちよすぎて、何も考えられなくなる。
ナオさんの熱く硬い塊に、身体の奥の奥まで満たされて。
力強い突き上げに、がくがくと身体が揺れる。
「ん・・・ぁ、ナ、オさんっ!」
背筋を快感が走り抜けて、目の前でスパークする。
僕は、思い切り仰け反りながら、ナオさんの手の中に熱い迸りを放っていた。
「まこ」
ぐったりと脱力した僕を、ナオさんが軽々と抱き上げて繋がったまま膝に乗せる。
「んぅっ」
ぐぐっと結合部に体重が掛かり、いきり立ったままのナオさんのモノが、根本までめり込んできた。
あまりの圧迫感に、喉先までナオさんのモノが届いている気がする。
僕は、ナオさんの背中に縋ったまま、荒い息をついていた。
「大丈夫?」
ナオさんが、優しく汗で張り付いた髪をかき上げ、額に口づけを落としてくれる。
「ん・・・平気」
僕は、小さく頷くと、ナオさんの肩に額を預けた。
向かい合ったまま、じっと抱き合っていると、ナオさんがここにいるってよく分かる。
頭の上で聞こえる呼吸。
耳の側で聞こえる鼓動。
身体の中から響く脈動。
「ナオさん」
僕は、ナオさんの顔を見上げて、小さく腰を揺らしてみせた。
「まこちゃんてば、すっかり誘うのが上手になって」
ナオさんが、笑いながら舌先で唇を舐める。
僕は、ナオさんの肩に捕まると、ゆっくりと腰を上下させた。
ナオさんの濡れた唇に口づけながら、だんだんと腰の降り幅を大きくしていく。
「ん・・・」
ナオさんは、目を細めて僕の口づけを受けながら、左手で僕の腰をしっかりと支えた。
先ほど放った僕の白濁でぬめった右手が、すっかり立ち上がった胸の尖りを摘んだあと、脇腹を撫でてゆっくりと下へ降りていく。
「くっ・・・・」
放ったばかりだと言うのに、もう勃ちあがって浅ましく蜜を零しはじめているモノを、きゅっと握り込まれて、僕は身体を震わせた。
「・・・そろそろ、限界」
言うが早いか、ナオさんが下から激しく突き上げてくる。
「や・・・、ちょっ、あっ、あっあぁっ!!」
繋がったまま、再びベッドに押し倒されて、めちゃくちゃに揺さぶられる。
「んーーーっ!」
火傷しそうな奔流が、身体の奥に流れ込んできて、僕もつられるように、2度目の精を放っていた。
吐精の余韻に、ひくひくと震える体を、ナオさんが優しく抱きしめる。
汗ばんで熱い腕の中で、僕は幸せの溜息をついた。
「まこちゃん」
呼ばれて顔をあげると、ナオさんがちゅっと口付けてくる。
僕は笑って、ナオさんの胸に頬を寄せると、小さな声で呟いた。
「僕も、ここにしか、居られないや」
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