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  葬式  

「お父さん…」
 畳の上にぺたりと座って、尚はぽつりと呟いた。『お父さん』は、黒い縁に囲まれて、ガラス越しに笑っている。
 もう、枯れ果てたかと思った涙が、また溢れてきた。頬を伝う涙を拭うこともせず、尚はそっと遺影へと指先を伸ばした。冷たく硬いガラスを指先に感じながら、そっと頬の輪郭を辿る。
 もう、二度と触れられない。
「お父さん…」
 涙が畳にいくつも染みを作っていく。
「あなたなしで…僕は生きていけるでしょうか…」
 ぽつりと呟いた時、大きな音と共に障子が開け放たれた。反射的に振り向いた尚の目が、大きく見開かれる。
「あ……」
 驚愕のあまり、動けないでいる尚の目の前に、二人の男が土足のままずかずかとやってきた。
 畳が土で汚れ、座布団が無造作にけ飛ばされる。
「久しぶりだねえ。な・お・ちゃん」
「親父、死んじゃったって?」
 目を見開いたまま、唇を震わせる尚の顔を見下ろして、男たちはにやにやと笑いながら言った。
「兄、さん…」
 ようやく、尚の喉から細い声が絞り出される。数年ぶりに見る、兄たちの姿だった。

 兄といっても、実の兄ではない。
 尚は、五年前にこの家に引き取られた養子で、その時既にこの兄達は、家を出て居なかった。
 長男は、大学を何度も留年して、遊び暮らしており、次男は高校を卒業してから、進学も就職もせずに、フラフラしていると聞いていて。
 時折、金の無心にやってくる彼らは、明らかに尚を敵視していて、尚は兄達が怖かった。
 父親と自分の関係が、彼らにバレた事を知った時は恐怖だった。
 直接、自分に危害が加えられることはなかったが、彼らにとって、尚の存在は父親から金をせびる為の格好のエサで、父親は、自分と尚の立場を守る為、兄達の要求するがままに金を渡していたが、ここ数年…父親が倒れてから…はほとんど姿を見せることなく、尚は彼らの存在すら、ほとんど忘れかけていた。
 
 久しぶりに見る彼らは、記憶の中とほとんど変わることなく…自堕落な生活が外見にまで滲み出た、だらしのない格好をしていた。
 驚きのあまり、動けないでいる尚に、男が近づいていく。二人は、威嚇するように尚を上から見下ろすと、にやりといやな笑みを浮かべた。
「親父死んだって聞いてさ、慰めに来てやったよ」
 しゃがみ込み、尚の頬をぺたぺたと叩きながら、長男が煙草の煙を尚の顔に吐きかける。
 思わず咳き込む尚の姿に、二人はげらげらと笑いながら、尚の顔をじろじろと見遣った。
「何、泣いてたの?」
 次男の手が、涙に濡れた尚の頬に伸ばされる。尚は、びくりと身体を震わせて、兄達を交互に見上げた。二人は意味深に視線を交わし、低く笑いながら尚の腕を掴む。
「淋しくて身体が疼いちゃうだろ?」
「カワイソウにねえ。しょうがねえからなぐさめててやるよ」
乱暴に服が引き裂かれ、ボタンが飛び散る。
「い、やだっ」
 尚はようやく我に返ると、声を上げて兄の手を払いのけた。闇雲に手足をばたつかせ、本気で抗う。のし掛かってくる身体を蹴り上げ、口を塞ごうとする手に噛みつき、尚はひたすらに暴れた。
「んのヤロっ」
 声と共に、尚の頬がすごい音を立てて鳴る。あまりの衝撃に、一瞬意識が遠のいた。そのまま、二度三度と続けて殴られる。思わず腕をあげて顔を庇うと、今度は鈍い音と共に、思い切り腹を蹴られた。
「ぐっ」
 低く呻き、身体を小さく丸めて、尚が畳の上をのたうつ。
「ったく、手間かけさせやがって…」
 舌打ちと共に、乱暴に腕を掴まれても、尚にはもう抵抗する気力が残っていなかった。生まれて初めて振るわれた暴力の前に、尚はすっかり混乱しておびえきっている。その姿は、兄達の加虐心をひどくそそるものだった。
 
 黒ネクタイを解き、白いシャツを乱暴に剥ぎ取る。畳の上に、弾け飛んだボタンが転がっていた。
「丁度いい」
 手にしたネクタイで、細い手首を縛り上げる。
「おい、下脱がせろ」
 長男の指示に、次男が乱暴にベルトを抜き取り、ズボンを下着ごと引きずり下ろす。晒された下半身に、尚の身体が震える。
「おいおい。震えるほどウブでもねえだろ?」
「親父に犯られまくって慣れてる癖に」
 浴びせかけられる嘲りの言葉に、尚は言い返すこともできずに、目を伏せて涙を流した。

 
 兄達に自分と「お父さん」の関係が理解して貰えるとは思っていない。
 彼らにとっては、自分は財産目当てでやってきて、身体で父親をたらし込んだガキでしかないし、父親はイイ歳して、引き取った子どもに手を出すような、エロ爺でしかないのだ。
 自分達が、どんなにお互いを必要として、深く愛し合っていたか、彼らには分からないし、分かって欲しくもない。
 幸せはつかの間だった。関係を持って僅か半年後、お父さんは、病に倒れた。倒れた時にはもう手遅れで、余命は僅か三ヶ月と告知を受け、それは、尚にとっても死刑宣告に等しかった。
 学校にはちゃんと通いなさい、と言う父の言葉に従って、きちんと毎日通学したが、勉強はまるで手につかなかった。帰ってくるなり側に付き添い、一晩中手を握っていた。
 愛する人が苦しみ弱っていく姿を見る辛さ。この人を失って、自分は生きていけるのだろうか、という恐怖。お父さんの前では明るく振る舞い、笑顔を絶やさずにいても、一人になると涙が止まらなかった。
 宣告された余命の三ヶ月を過ぎると、容態は更に悪化した。それから亡くなるまでの二ヶ月間、尚は献身的に看病を続けたが、息子達は、一度たりと見舞いに来ることなく、葬式にさえ姿を見せなかった。


「俺から犯ってもいいか?」
「さっさと済ませろよ」
 笑って言い合いながら、二人がかりで尚の身体を押さえつけ、足を大きく拡げさせる。
 身体の下敷きになった両手が痛んだ。
「やめて…」
 無駄とは知りながら、弱々しく訴える。
「聞こえねえな」
 次男は、舌なめずりをしながら、馴らしもせずに、一気に尚の中へと押し込んだ。
「うあぁ」 
 悲鳴と共に、尚の細い身体が仰け反る。
「どうだ?」
「すっげキツい…」
 顔を顰めて言いながらも、どこか楽しそうに、次男がゆっくりと腰を引く。ずるりと抜け落ちる寸前まで引き出し、一気に突き入れると、激しく腰を使って尚を責め立てた。
「見ろ。こいつ、乳首立ててやがる」
 笑いながら、長男がぷくりと勃ちあがった乳首を指先でぐりぐりと押しつぶす。
「さすがにやらしい身体してんなあ」
「そりゃあの親父が誑かされるくらいだからな」
 兄達の手は、好き勝手に尚の身体を這い回り、尚はただ震えて、声もなく涙を流していた。
 身体の奥に熱いモノが流し込まれる。
「替われ。俺も犯る」
 長男は、次男を急かすと、尚の身体をひっくり返し、腰だけを高くあげさせた。後ろ手に縛られているせいで、肩だけで全体中を支える羽目になる。苦しい体勢に、尚は低く呻いた。
 衝撃と共に、猛ったモノが尚を犯す。縛られた尚の手が、虚しく宙を掴んだ。兄が抜き差しを繰り返す度、注ぎ込まれた白濁が溢れ出して太股を伝う。
「すっげえエロい…」
 接合部分を指で辿り、息を荒げていいながら、長男は激しく腰を突き立てた。
「オイ。口開けろ」
 畳に突っ伏している尚の髪を鷲掴み、その口へ白濁に濡れたままのモノを銜えさせる。
「ぐぅ…っ」
 苦しげに呻く尚の顔は、汗と涙に汚れ、苦悶に満ちていたが、悲鳴も泣き顔も、兄達にとってはお楽しみの一部でしかない。兄達は、尚の苦痛などまるで気にせず、ひたすら自分達の楽しみだけの為に、尚を犯し続けた。
「出すぞ…っ」
 身体の奥に再び白濁が流し込まれる。
「俺も」
 声と共に、口から肉棒が抜き出され、顔と髪にたっぷりと精液が注がれる。
「うぅ…っ」
 兄達の荒い息づかいに混じって、尚の微かな泣き声が部屋に響く。
 
 それから、尚は好き放題に犯された。兄達の暴虐は止まるところを知らず、代わる代わる尚を犯してはそれを撮影し、自分達が満足すると、目についたものを片っ端から尚の中へ突っ込んでいく。
「も、もう止めて…お願いですから。お願い…」
 弱々しい尚の懇願も、嗜虐に酔った兄達の耳には届かなかった。後ろに白いロウソクがねじ込まれ、乱暴に抜き差しされる。
「すげえ光景」
「火ぃ点けたらもっとすげえな、きっと」
 長男は、げらげら笑いながら、ロウソクの突き立った尚の尻を蹴った。弾みでロウソクが抜け落ち、尚の身体が畳に転がる。
「コラ。起きろ」
 ぐったりとしたまま、ぴくりとも動かない尚の髪を掴み、次男が頬を平手で叩く。蒼白になった尚の頬に、真っ赤な手形がついた。
「お父さん…」
 朦朧とした意識の中、尚の唇が愛しい人を呼ぶ。長男は、ぐいと尚の頬を両手で掴むと、額を突きつけて、怒鳴った。
「お父さん、なんて気安く呼んでんじゃねえよ。貴様は財産目当てに親父を誑かした泥棒だろうが」
 うっすらと開かれた尚の目から、再び涙が溢れ出す。嗚咽を漏らして身体を震わせる尚に、長男は冷たい目を向けると、薄く笑って、尚の身体の中心に手を伸ばした。
「なんだよこのフニャチンは。折角俺たちが可愛がってやってるのに気持ちよく無いってか?」
「なんだよ。つまんねえなぁ。そうだ!自分でヤってみせろよ」 
 泣きじゃくりながら弱々しく抵抗する尚の身体をいとも簡単に押さえつけ、兄たちは尚に自慰を強要した。が、尚の手はぶるぶると震えていて、とても自慰をするどころではない。
「しょうがねえなあ。俺たちがイかせてやるか」
 いやらしく笑い、長男が立ち上がった。
「ホラ。親父も見たいってよ」
 長男の手にした物に、尚の目が見開かれる。
「いやっ、嫌だ!」
 最後の力を振り絞るかのように、尚が激しく抵抗をした。が、その抵抗も体格の全く違う兄たちにかかっては、あっさり封じ込められてしまい、尚は兄達に押さえつけられながら、必死に叫んだ。
「やめてっ、やめて!お願いですから!いや…っ」
 掠れた声で訴え、泣き喚く尚の身体を後ろから抱え、大きく脚を開かせた。限界まで拡げられた脚の間に、遺影が立て置かれる。
「しっかり押さえとけよ」
「ラジャ」
 目配せを交わし、押さえつけ開脚させた尚の脚の間に、手を伸ばす。
「やめて…っ、うぅ…」
 尚の脚が力無く宙を蹴った。前を扱きながら、白濁が零れだしている後腔へも指を突き入れる。前立腺をぐりぐりと刺激されて、尚のモノはあっというまに勃ちあがった。
「イヤイヤ言ってる割にヌレヌレじゃん」
 溢れ出した蜜を指先に取り、先端に塗り込めるように動かすと、尚の腰がびくびくと震える。
「いやだあああ」
 こみ上げる射精感に、たまらず首を打ち振ると、あたりに涙が飛び散った。
「ぁ…ぁ…」
 随分とこらえていたせいか、びしゃりとイヤな音がして、白濁が遺影にまで飛び散る。
「顔射!」
「ぎゃははは。親父、きったねえ」
 尚の身体を突き飛ばすようにして離し、二人はげらげらと笑い転げた。床に伏せ、身体を震わせて声もなく尚が泣く。
「親父!顔射の敵はとってやるからな!」
 白濁に汚れた遺影を足先で蹴り、長男が尚を振り返った。
「親父の代わりに、コイツを一生いたぶってやるよ。親父の財産を全部食いつぶすまで」
「俺たちのペットとして、飼ってやるから安心しろよ」
 兄達が笑いながら喚く声を聞きながら、尚は切に死を願っていた。
 お父さんとの約束さえなければ、とっくに舌を噛みきっていただろう。
「僕もあなたと一緒に行きたい」
 そう言って尚が泣いた時、お父さんは笑って尚の身体を抱き、優しく口づけて言った。
「お前は生きるんだ。そして、幸せになるんだよ。私は、お前が居てくれたおかげで幸せだった…」
 幸せになる、と約束した。お父さんの分まで、笑って人生を楽しむ、と。
 その約束は、守れそうにない…。

「じゃ、尚ちゃんまたね〜」
「また、来週にでも来るから、金用意しとけよ」 兄達は、香典を洗いざらい盗むと、床に転がったまま動かない尚の身体を、靴先で蹴り、縁側から庭へと出ていった。
『もし、逃げたりすれば、親父との事を世間にバラす』
 逃げることはできない。死ぬことも。
 尚は、虚ろな目で手を伸ばすと、畳の上にうち捨てられた遺影を引き寄せ、自らが汚した表面を手のひらで拭った。
 目を伏せて口づけ、胸の中にきつく抱きしめる。 
「うぅ…っ」
 今の尚には、泣くことしかできなかった。
 差し込んだ西日が、部屋の中を赤く染める。
 まるで、これからの予兆のように…。
 尚の受難は、まだ始まったばかりだった。
 
   

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