「はあ・・・」 昇降口に佇んで、外を見ながら僕は小さくため息を吐いた。 外は土砂降り。 そして、僕の手に傘は無い。 梅雨の真っ最中だというのに、今日はうっかり傘を持ってくるのを忘れてしまった。 こう言うときに限って降るんだもんな・・・ 僕はうらめしげにどんよりと曇った空を見上げた。 雨はなかなかに激しくて、傘無しで駅まで行くのは躊躇われる。 図書館で小降りになるのを待とうかなあ・・・。 でも、今日はナオさんのとこに行く約束してるから、早く帰りたいしなあ・・・。 ぐずぐずと迷っていると、不意に肩を叩かれた。 驚いて振り向くと、クラスメイトの女の子達が傘を手に立っている。 「どしたの?もしかして傘忘れた?」 からかうような顔でのぞき込まれて、僕は少し赤くなりながら頷いた。 「・・・うん」 「入れてってあげようか?」 目の前に開いた傘が差し出される。 僕は慌てて手を振った。 「い、いい!ちょっとしか降ってないし、僕走るから!」 いくらなんでも、女の子の傘に入れて貰うのは恥ずかしい。 僕は女の子達に手を振ると、かばんを抱えて一気に雨の中へ飛び出した。 ちょっとしか・・・とは云ったものの、実際はちっともちょっとなんかじゃなくって、あっという間にびしょぬれになる。 僕は首を竦めて、校門を走り抜けた。 そのとき、 「まこちゃん!」 聞き慣れた声が耳に届いて、僕は慌てて立ち止まった。 きょろきょろと辺りを見渡すと、校門の脇に立っている・・・ナオさん!! 僕はびっくりしながらも、嬉しくてナオさんに駆け寄った。 「ナオさん!」 思わずぎゅうっと抱きついてしまう。 ナオさんは笑って僕をぎゅうぎゅう抱き返した。 「傘、忘れちゃったの?」 「うん。今日うっかりしてて、も・・・・」 ここまで云って、僕はとんでもないことに気が付いた。 僕ってば、なに校門のすぐ脇で、ナオさんと抱き合ったりしてるんだろ! 僕は慌ててナオさんから少し離れて、あたふたと後ろを振り返った。 何人かが、僕から顔を逸らしたり、傘で顔を隠したりしながら、足早に校門前の坂を下っていく。 ・・・・・・・・・絶対見られた・・・・・・ 僕は真っ赤になりながら、慌ててナオさんの手を引っ張った。 校門から離れて、駅とは反対方向の道を行く。 「今日のまこちゃん、ちょっと積極的?」 僕に手を引かれながら、ナオさんは何故だか嬉しげだ。 しばらく歩いて学校から離れると、僕はようやく安心してナオさんにくっついた。 「今日、楠木の大学で研究会があってねえ。待ってればまこちゃんと帰れるかもと思って、校門の前でマチブセしてたんだ」 ナオさんが悪戯っぽく笑って、僕の顔をのぞき込む。 ああ、それで・・・ 僕は納得して頷いた。 僕の学校は中学から大学までの一貫教育で、高校も大学も同じ敷地内に立っている。 僕は待っていてくれていた事が嬉しくて、傘を持つナオさんの手に掴まった。 「今日のナオさん、ナオさんじゃないみたい」 ナオさんの顔を見上げる。 今日のナオさんは珍しくかっちりとしたスーツを着ていて、一瞬ナオさんだと分からなかった。 「ナオさんのスーツ姿初めて見た」 「ええ男やろ?」 ナオさんがにやりと笑う。 「ちょっとだけね」 僕は冗談めかしていいながら、ナオさんのネクタイを引っ張った。 スーツを着たナオさんは、なんだかちゃんとした大人みたいで、ちょっとだけじゃなくてかなりかっこよくて・・・少しドキドキする。 「もうここまできちゃったから、駅まで歩こうか?」 僕たちは、学校の側の駅とは反対の駅に向かって歩く事にした。 「大きな水たまり!」 赤信号で立ち止まると、横断歩道の脇に大きな水たまりができていた。 「あ〜、まこちゃんの足じゃまたげないかもな」 たしかに僕の足だとギリギリ・・・かちょい届かないくらい大きい。 「でも大丈夫!僕が抱えて渡ったげるから」 ナオさんが僕の腰を抱き寄せる。 「どうやって?」 いやらしげなナオさんの手をぺちりと叩いて顔をみあげると、ナオさんはにやりと笑って言った。 「勿論お姫様だっこし」 そのとき、轟音を立てて目の前をトラックが通り過ぎ、目の前の大きな水たまりから派手に水しぶきがあがった。 ざばあん! 「・・・・・・・」 避ける間もなく、まともに水しぶきを浴びてしまって、僕らは黙ったまま顔を見合わせた。 ナオさんの顎から、水滴が滴っている。 じっと僕を見つめていたナオさんが、おもむろに口を開いた。 「まこちゃん・・・色っぽいね」 は? 急に何を云うのかと思ったら、ナオさんはべちゃべちゃに濡れて透けた僕のシャツを指さしている。 濡れたせいで、僕のシャツはぴったりと肌に張り付いていて・・・ 我ながらいやらしげだ。 「も〜、こんな時に何いってるの!?」 僕は赤くなって僕を指さすナオさんの手を掴んだ。 僕に負けず劣らずナオさんもべしょ濡れで、せっかくのスーツが台無しになっている。 「どうせここまで濡れたんやし、もう一濡れしていく?」 あたりを見回したナオさんが、指さす先には・・・お城があった。 ・・・・・・・学校帰りにラブホテルなんて、バレたら退学クラスかも でも、あんな濡れねずみで帰るのはイヤだったし、ナオさんに誘われたらイヤとは言えないし・・・ 僕は結局連れてこられるがままに、ホテルの部屋まで来てしまった。 「まこちゃん・・・」 部屋のドアを閉めるやいなや、ナオさんが僕を抱きしめて、激しく口付けてくる。 僕はナオさんの背に腕を回すと、目を閉じて口づけを受けた。 熱い舌があっという間に歯列をこじ開け、僕の舌を絡め取る。 「んっ・・・」 きつく舌を吸われて、僕は鼻に掛かった甘えた声を小さく漏らした。 激しいキスに、ひざががくがくしてきた頃、ようやくナオさんは甘く唇を吸い上げながら、そっと唇を離した。 「はあ・・・」 息を吐きながら、ナオさんをじっと見上げる。 ナオさんは目を細めて僕の頬を指先で撫でた。 「風邪引くから、早く脱いでシャワー浴びといで」 はっと気づくと、いつの間にか制服のシャツのボタンが全部外されている。 いつの間に・・・ 僕は慌ててバスルームに行って、濡れたシャツを脱いだ。 「僕が洗ってあげようか?」 ズボンを下ろしていると、不意にナオさんがバスルームに顔を覗かせた。 ネクタイを緩めながら、僕が服を脱ぐ様をにやにやと見ている。 「自分で洗えるもん!」 僕はなんとなく恥ずかしくなって、ナオさんに小さく舌を出すと、バスルームへと飛び込んだ。 どうせナオさんは、僕がどう答えたって入ってくるに違いない。 いままでひとりでお風呂に入った事なんか、ほんとに数えるほどしか無かった。 手早くシャワーを浴びながら、ちらちらと外を窺う。 ついでだから・・・とシャンプーまでしてみたけど、ナオさんは入ってこなかった。 いつもより時間を掛けたシャンプーをやり終えてもナオさんが入ってこないのに、急に心配になる。 「ナオさん?」 そっとバスルームの扉を開けて呼びかけると、ガウンを着たナオさんがすぐに顔を出した。 「どした?」 笑顔で顔をのぞき込まれて、僕は一気に安心しながら首を振った。 「なんでもない」 「なんだよ〜」 ナオさんが笑いながら、僕の身体を拭いてくれる。 「もしかして淋しくなっちゃった?」 笑いを含んだ目でじっと見つめられて、僕は赤くなりながら首を振った。 「ちがうよ〜」 一応強がりを云う。 「ほっぺたが赤いのはお風呂上がりやから?」 ナオさんの指先が上気した僕のほっぺたをつつく。 僕は笑ってごまかすとガウンを着て、ナオさんをバスルームへと押しやった。 「ナオさんも入るでしょ?」 返事を待たずに部屋へと逃げる。 ナオさんが追ってこないのを確認してから、僕はベッドによじ登ると小さくため息を吐いた。 お風呂上がりだから、というだけじゃないこの身体の熱さ。 先週までテスト週間だったせいで、ナオさんとするのは久しぶりだった。 ナオさんの家に行っても、勉強を教えて貰うだけで・・・キス止まり。 そのせいで自分で思っていたよりも、身体は焦れているみたいだった。 「はあ・・・」 期待に熱いため息が漏れる。 僕はベッドにころりと横になった。 「あれ?」 視線の先にきちんとハンガーに掛けられた僕の制服とナオさんのスーツがある。 ああ、さっきはこれを掛けてたから来なかったのか。 納得して、少し安心している自分が居る。 いつの間にか、僕はナオさんに始終構って貰わないと気が済まないような我が儘になっていて・・・。 ナオさんは僕のどんな我が儘も笑ってきいてくれるし、頼んだことは断られたためしがない(ベッドの中以外では) こんな我が儘になっちゃって、ナオさんに嫌われたりしないかな? 僕はベッドの上で丸まって、ぎゅっと目を瞑った。 不意にベッドが軋んだ音を立てる。 「もしかしてもう眠い?」 目を開けると、ナオさんが僕をのぞき込んでいて、僕は笑ってナオさんの首に腕を回した。 「ううん。それよりも・・・ナオさんとしたい」 ナオさんを抱き寄せて、思い切り甘い声で耳元に囁く。 「まこちゃんから誘ったんやから、手加減はせえへんよ?」 ぞくりとするほど色っぽい、そしてすこし意地悪な声で囁かれる。 囁かれざま耳たぶを甘く噛まれて、僕は頷く代わりに小さく声をあげた。 「んあっ、あっ・・・・あぁ・・・」 久しぶりのナオさんの愛撫は、優しいくせに容赦ない。 感じるところを知り尽くした指先で僕を責め立て、口づけを落としていく。 さんざん焦らされた身体は、普段以上に快感を僕に伝える。 僕はナオさんにしがみつきながら、ひっきりなしに甘い声をあげていた。 「も、すごい濡れてるよ」 ナオさんの手が勃ちあがりきった僕のモノをきゅっと掴む。 「んあんっ!!」 僕は背中を反らしながら、一際高い声をあげた。 ナオさんの手が濡れそぼった僕のモノを根本から先端まで、丹念に指先で辿る。 その焦れったい感覚に、開いた僕の太股はひくひくと震えていた。 ナオさんの唇が膝に落ち、柔らかい内股を舐めあげる。 「ここなら痕つけても平気やよね?」 足の間から僕を見上げて笑うと、ナオさんは足の付け根のあたりの柔らかい皮膚にきつく吸い付いた。 ちくっとした痛みと共に、ナオさんの唇が離れる。 「まっかっか」 ナオさんは嬉しげに呟きながら、自分で付けた痕を撫でた。 「こっちも」 ナオさんに触れて欲しくて震えている中心を通り過ぎて、ナオさんの唇が反対側の同じ場所へと押し当てられる。 「線対称」 顔をあげたナオさんがじっと僕の足の間を見て呟いた。 ・・・・?? 意味が分からなくて、きょとんとナオさんを見上げると、ナオさんはまじめな顔をして云った。 「まこちゃんのコレを対称軸として、線対称」 コレ、といって指さしたモノは勿論僕の真ん中でつったってるモノの事で・・・ 「・・・・っ、ばかっ!ナオさんのヘンタイ!」 僕は真っ赤になると、ナオさんに向かって喚いた。 「そのヘンタイな僕が好きな癖に〜」 ナオさんがにやにや笑いながら、ナオさんの云うところの対称軸を口に含む。 「ああっ!」 抗議しようと開けた口から、悲鳴のような嬌声が漏れる。 ナオさんはわざと音を立てながら、僕のモノをしゃぶりたてた。 我慢する間もなく、あっという間に上り詰める。 「も・・・イくっ!!」 シーツを掴んで叫ぶように云うと、僕は白濁をナオさんの口の中に放ってしまった。 ナオさんは喉をならしながら、事も無げにそれを飲み下す。 「これはほんの前菜ね」 濡れた唇をぺろりと舐めながら、ナオさんがするりと僕の頬を撫でる。 「今日はフルコースなの?」 ナオさんの不穏な笑みに、少し不安を覚えながら聞くと、ナオさんは満面の笑みでそれに答えた。 「勿論!ごちそうしてくれるやろ?」 やろ?って一応疑問型になってはいるけど、”食わせるよな?”っていう脅しを含んだ断定な響きが確実にあって。 僕は観念して・・・というか観念したフリをして、小さく頷きながらナオさんにぎゅっと抱きついた。 望むトコだよ・・・・って心の中で云いながら。 |