ついこの間まで、半袖でも汗びっしょりだったのに、気づけばすっかり涼しくなって、いつのまにか、秋が来ていた。 澄んだ青空。 秋の空気は気持ちがいい。 僕はのんびりと歩きながら、大きく息を吸い込んだ。 ナオさんも、僕も秋が好きで、この季節はいつもよりたくさん外でデートする。 今年の秋は、なにして遊ぼう。 考えるとわくわくする。 金木犀の甘い匂いに鼻をひくひくさせながら、僕はスキップ混じりの軽い足取りで、ナオさんちへ向かった。 「ナーオーさん」 声をかけて、ドアを開ける。 いつもなら、僕がドアを開けるなり、すっ飛んで来てくれるナオさんが来ない。 「ナオさん?いないの?」 靴を脱ぎながら部屋の中に声を掛けたけれど、返事はなかった。 今日はちょっぴり肌寒いから、ナオさんにぎゅっとして貰って、あったまろうと思ってたのに。 僕はちょっとがっかりしながら、ナオさんの部屋にあがりこんだ。 「わ」 奥の部屋を見て、思わず声をあげてしまう。 ものすごく、散らかってる。 部屋の真ん中に、うずたかく積まれた服の山。 …おおかた、寒くなってきたから衣替えをしようとして、全部服を引っ張り出してきたものの、途中で飽きてどっかに行っちゃったんだな。 ナオさんの行動なら、なんとなく予想がつく。 僕は鼻からため息をつくと、座ってごちゃごちゃの服に手を伸ばした。 ナオさんはほんとに整理がヘタだ。片づけギライだし、散らかし屋だし。 取り敢えず、今出ている夏服を仕舞ってから、秋物を出す、とかそういう事はまるで考えずに、寒くなったから、とすぐに冬服を引っ張り出してくる。 あんなに頭の良い人なのに、こういうことは考え無しなんだよなあ。 まあ、この子どもっぽいとこが、ナオさんの魅力と言えないことも無いんだけど。 僕は、小さく笑うと、大まかに服を選り分け、片っ端から畳んでいった。 服を畳むと思い出す。 それを着たナオさんとした、いろんなことを。 それを着たナオさんと行った、いろんな場所を。 僕はナオさんの服を畳むのが好きだ。 ナオさんの一番近くで、ナオさんの一部だった服。 「あ、虹のジャケット」 服の山の下の方から見つけた深い紺色のジャケットは、裏地が虹色になっていて、僕のお気に入りの服だ。 ナオさんに、とてもよく似合う。 去年の秋、このジャケットを着たナオさんと、動物園に遊びに行った。 体育祭明けのお疲れ休み。 平日の動物園はガラガラに空いていて、僕と(大学をサボった)ナオさんは、ずっと手を繋いで、園内をぶらついた。 動物の前や道の途中で、立ち止まるたびにキスをした。 ぬいぐるみみたいに動かない、ガラス越しのコアラの前で、秋風みたいにサワヤカに。 ピンク色に整列した、ベニイロフラミンゴの前で、真面目な顔で見つめ合って。 僕らをじろりと睨め付けるアムールトラの前で、見せつけるみたいに。 魚の匂いがぷんぷんするカリフォルニアアシカのプールの横で、おぅおぅと悲しげな鳴き声をBGMに。 ぎゅっと抱きしめあってキスをした。 ナオさんは、「あのレッサーパンダ、まこちゃんにそっくり」だと言い、僕はプールで豪快に遊ぶホッキョクグマを見て、ナオさんを連想した。 昼下がり、誰もいない芝生広場でお弁当を食べたあと、手を繋いだまま寝っ転がって、空を見た。 その青さまで、くっきりはっきり覚えてる。 一年も前のことなのに、ナオさんとの思い出はどれもすごく鮮やかで、思い出さなくてもいいことまで、ついつい思いだしてしまう。 僕は思わず赤くなると、立ち上がって虹のジャケットをハンガーに掛けた。 吊したジャケットに、そっと顔を埋めると、微かにナオさんの匂いが鼻先をくすぐる。 「は…」 思わず漏れた甘いため息に、僕は自分でびっくりすると、慌ててジャケットから離れた。 それ以上、なにも思い出さないように、残りの服を畳んだり、衣装ケースに仕舞ったり、せかせかと動き回ってみたけれど、一旦ひっぱりだした記憶は、なかなか封印できなくて。 僕は、押し入れに衣装ケースを押し込みながら、あの時、澄んだ青空の下、ナオさんにされたいろんなことを思いだしていた。 「まこちゃん」 ぽん、と後ろから肩を叩かれて、思わず飛び上がる。 振り返ると、いつの間にかナオさんが後ろに立っていた。 「い、いつの間に帰ってきたの?」 「今。ただいま〜っつったけど、まこちゃんぼんやりして、ちっとも気づかないんだも」 にっこり笑ったナオさんが、腕を伸ばしてぎゅうっと僕を抱きしめる。 あったかいナオさんの腕の中で、僕は少し焦っていた。 いつもなら、すぐにぎゅっと抱きつき返すのだけれど、今はちょっとそうできない事情がある。 「服、片づけてくれたん?」 後ろから僕を抱きしめたナオさんは、髪の毛に鼻先を埋め、くぐもった声で聞いた。 「ん。すっごい散らかっててびっくりしたよ」 ドキドキを悟られないように、つとめて普通の声で…ちょっと唇を尖らせて言ってみる。 「わはは。ごめんねえ。出したはいいけど、仕舞うのが面倒で」 ナオさんは、明るく笑うと、僕の髪にひとつ口付けて身体を離した。 その隙に、逃げだそうと思ったのに、くるりと身体を返されて、今度は正面から抱きしめられる。 僕は慌てて、ナオさんの身体を押し返そう…としたけれど、間に合わなかった。 「…ん?」 ナオさんの声に、思わず顔を伏せる。 頭の上に感じる、ナオさんのにやにや顔。 「コレ…どしたん?」 ぴったりと身体を密着させて、ナオさんが耳許に囁いてくる。 ふぅっと息を吹きかけられて、僕は思わずぎゅっとナオさんの胸にしがみついた。 わざとしているわけじゃないけど、きつく抱きしめられてるせいで、ナオさんの身体に、固くなった僕の中心が押しつけられている。 「ち、ちょっと…いろいろ思いだして」 背中からお尻へと滑るナオさんの手に、息が乱れる。 「思い出すって何を?」 「動物園に…行ったこと…とか」 「あぁ、そういえば行ったねえ!去年やっけ?楽しかったね〜」 明るい声とはそぐわないいやらしさで、ナオさんの手は僕の身体を這い回り、シャツの下に忍び込む。 「はは〜ん。あんときの事思いだしたん?」 ナオさんは、片手で僕の顎を掬いあげると、赤くなった僕の顔を見つめた。 「芝生広場で…ヤったこと」 からかうようなナオさんの声、嬉しげな顔。 「そう!」 ヤケになって認め、腕を伸ばしてナオさんの首にしがみつく。 「虹のジャケット見てたらね、動物園に行ったこと思いだして、そしたら…他の事もいろいろ思い出しちゃって…」 一旦言葉を切り、思い切ってナオさんの耳許に小声で喚く。 「したくなったの!」 言った途端に、乱暴なまでの勢いで、ふすまに身体を押しつけられた。 唇を塞がれ、歯列を割って舌が入り込んでくる。 僕は喘ぐように口を開くと、ナオさんの舌に舌を絡ませた。 あっという間に服が乱され、ズボンが足許に落ちる。 「は…ぁっ」 すっかり勃ちあがった前を掴まれて、思わず息が詰まる。 あっという間に濡れるナオさんの手に、僕は真っ赤になりながら、自分からも手を伸ばして、ナオさんのモノを求めた。 ぬるぬると先端を撫で回されて、腰が震える。 こみあげる射精感。 「ん…ぅ、ぁ、…あぁっ」 熱く滾ったナオさんのモノを手にした途端、僕は堪えきれず、ナオさんの手に全てを吐き出していた。 ナオさんのモノを握ったまま、びくびくと身体を震わせる。 「早いねぇ。そんなにしたかったん?」 手についた白濁をぺろりと舐め、ナオさんがちょっと意地悪く笑う。 でも、僕はその意地悪に意地を張り返す事もできないほど、ナオさんが欲しくて…。 「すっごくしたかった」 素直に認めて、手にしたナオさんのモノを扱くと、ナオさんはちょっとびっくりした顔で僕を見た。 「ね、お願い。早く…ちょうだい?」 自分でも、すごくいやらしい顔をしてるって分かる。 濡れた唇。舌足らずな甘え声。 ナオさんは、唸るような声をあげると、僕の片足を抱え上げ、僕の白濁に濡れた手で、自身をざっと扱くと、ひくつく後腔に、張りつめた先端を宛った。 「ぁああっ」 ずっと一気に貫かれて、少しの痛みと限りない満足に、嬌声を張り上げる。 がつがつと余裕なく突き入れられて、僕はナオさんの首に必死でしがみつきながら、目も眩むような快感に、身を任せていた。 「あっ、ぁあっ、ナ、オさんっ」 あまりに激しい突き上げに、支えている筈の片足まで浮き、ほとんどナオさんのモノと背中のふすまだけで、体重を支えている形になる。 最奥までナオさんのモノで貫かれ、抱え上げられたつま先が、ぴくぴくと引きつる。 ナオさんは、ぶるりと全身を震わせると、僕の中に迸りを叩きつけた。 それにつられるようにして、僕も再び吐精する。 僕らは二人とも、肩で息をしながら、ずるずると床へへたりこんだ。 「家の中だってのに…どうして僕らは立ったまましてるん?」 「ナオさんががっつくから」 「まこちゃんが欲しがったんやん」 言いながら額をつき合わせて、くすくす笑う。 「んじゃ、続いてベッドでしよか?」 「ん」 笑ってナオさんに口付ける。 「ねえ、今年もまた、動物園に行こうね」 「そやね。また平日にね」 またきっと、良い思い出ができるに違いない。 |