「寒いね」 「うん。風がすごく冷たい」 正面からぴゅうぴゅう吹き付ける北風に目を細めながら、僕とナオさんは砂利道を歩いていた。 三が日を過ぎた神社は人もまばらでとても静かだ。 「あそこで手を洗わんとね」 すぽんと手袋…僕が編んだヤツ…を取り、ナオさんが御手洗場へと向かう。 僕も慌てて手袋を脱ぐと、前を歩くナオさんの手を捕まえた。 僕よりちょっと大きくて、あったかい手。 さっきまでも手を繋いでいたけれど、手袋越しよりこっちの方が、断然ナオさんの手って感じがする。 「何にやにやしてるん?」 思わず笑みをこぼした僕の顔を、ナオさんの不思議そうな顔が覗き込む。 「何でもない」 僕はナオさんを見上げると、繋いだ手を大きく振った。 お賽銭を投げ入れて、柏手を打ち、お願いをする。 僕のお願いはただ一つ。 ナオさんと同じ大学に入れますように! 神頼みは情けないけど、味方は多い方が良い。 たった一つのお願いごとを、念入りにして顔をあげると、隣ではまだ、ナオさんが神妙な顔をして手を合わせていた。 目を閉じてなにやらぶつぶつ言っているナオさんがおかしくて、じっと観察していると、やっとお願いが終わったのか、ぱっちり目を開けたナオさんと視線が合った。 「お願い事した?」 聞くナオさんに頷いて、ナオさんは?と聞き返す。 「いっぱいしちゃった」 ナオさんは満足げに笑うと、さて、と辺りを見回した。 「せっかく初詣に来たんやから…」 「おみくじをひかないとね!」 ナオさんの続きを引き取って、おみくじのある場所を探す。 「あ、あっこだ」 僕らは揃って、寒そうな白い服を着た巫女さんのいるおみくじ売り場へと歩き出した。 並んで六角の筒を振り、割り箸みたいな棒を振り出す。 巫女さんが手渡してくれた、ひらひらと薄く頼りないおみくじを、ちょっとどきどきしながら見ると、そこには第11番・大吉と書かれていた。 新年早々縁起のいいおみくじに、すっかり機嫌をよくしてナオさんを振り返る。 ナオさんは、じっとおみくじを見つめていたけど、僕の視線に顔をあげた。 「どだった?」 こどもみたいに目を輝かせて、ナオさんが聞いてくる。 「大吉!」 ナオさんに向かっておみくじを突き出すと、ナオさんは笑って自分のおみくじを僕に差し出した。 「僕も〜」 手渡されたナオさんのおみくじは24番で、やっぱり大吉。 ナオさんは大吉以外引いたことが無い、という強運の持ち主で、実際運がすごくいい。 読んでみると、良い事ばかりが書いてあって、僕はちょっとうらやましくなった。 たしか僕のおみくじには、油断するな、とか注意せよ、とか警告じみたことが書いてあった筈。 「やっぱり、今年も僕らは良い年みたいやね」 僕のおみくじをひとしきり眺めて、ナオさんがしみじみと言う。 今年も、と言い切るナオさんが嬉しくて、僕はナオさんにすり寄った。 「これ、結んでく?持って帰る?」 僕の肩を抱き、ナオさんがたくさんおみくじの結んである紐を、ちょいちょいつつく。 僕は少し悩んで…大吉だから持って帰りたい気もするし、置いていってしまいたい気もする…ナオさんに聞いてみることにした。 「ナオさんはどうする?」 「僕は持って帰っても無くすから、結んでく」 うん。たしかにナオさんはすぐに無くしそうだ。 笑った僕は、自分も結んで帰ることに決めて…そしてすぐに思いなおした。 「ねえ、ナオさんのおみくじ、僕が預かっても良い?」 ナオさんの顔を見上げ、持ったままのナオさんのおみくじを振ってみせる。 「勿論ええけど、まこちゃんのは?」 「そっちは結んでく」 僕の言葉に、ナオさんはそうか、と笑って僕のおみくじを結んでくれた。 ナオさんのおみくじは、大事に畳んでお財布の中に仕舞う。 「帰りはたこやき買って帰ろうね」 神社の周りには、たくさん露店が出ているのだ。 「うん!」 僕は笑って、ナオさんの腕に抱きついた。 初詣の帰り道、僕はナオさんの手を握りながら、なんとなく淋しい気分になっていた。 「冬休みも終わりやね」 そんな僕の気持ちを見透かしたかのように、ナオさんがぽつりと言う。 今日は日曜日。 明日の月曜日からは、また学校が始まる。 「あっという間だったね…」 楽しい冬休みは、ほんとにあっという間に過ぎてしまった。 ナオさんと一日中一緒にいて、いっぱい話して、いっぱい笑って、めいっぱい愛を感じた幸せな冬休み。 それが終わってしまうのかと思うと、やっぱりすごくさみしくて、僕はすっかりしょんぼりしてしまった。 「えええぃ!」 急に大声を出したナオさんが、いきなり僕を抱き上げる。 「え?え!?」 急に空中に浮かんだ僕は、びっくりして慌ててナオさんの首にしがみついた。 「何?どしたの?」 「早く帰ろ!」 ナオさんの言葉にきょとんとしていると、ナオさんは僕を抱えたまま走り出した。 すごい勢いで、周りの景色が後ろに流れ、時折すれ違う人が、ぽかんとした顔をして僕らを眺める。 なんだかおかしくなってきて、僕はナオさんの腕で運ばれながら、声をあげて笑ってしまった。 超特急で行き着いた先は勿論ベッドで、僕を放り出すようにベッドに下ろしたナオさんが、もどかしげにコートを脱ぎながら覆い被さってくる。 僕は、ナオさんの首に片腕を回して口づけを受けながら、自分も夢中でコートを脱いだ。 「ん…ふっ」 あっという間に歯列を割って入ってきた舌が、性急に絡みつき、歯列を辿る。 深く情熱的な口づけに、一気に身体が熱くなってきて、くらくらとめまいがした。 「ナオさん…」 柔らかく唇を吸い上げ、ナオさんがそっと唇を離す。 僕は、ナオさんの首に抱きついたまま、吐息がかかるほどの距離で囁いた。 「ん?」 僕の顔を優しい目で見つめ、ナオさんが甘く喉で答える。 僕は、ぎゅっとナオさんにしがみつくと、ナオさんの肩口に顔を埋めた。 「離れたくない…」 小さな声で呟きながら、ナオさんの匂いを胸一杯に吸い込む。 そうすると、ナオさんで体中が満たされる気がした。 「離さんよ」 ナオさんが息も出来なくなるくらい、きつく僕を抱きしめる。 心地よい束縛に、涙が出てきそうになって、僕はナオさんの背中に腕を回して抱き返しながら、抱いて、と感情的な声をあげていた。 「はぁっはぁっ…ぅ、ん…っ」 荒い息を何とか整えて、何度も唾を飲み込む。 声を上げすぎたせいで、ちょっと喉が痛かった。 明日は学校なんだから…となだめるナオさんに無理矢理ねだって、もう一度繋がりを求める。 より深くナオさんを感じたくて、僕はナオさんを押し倒すと、淫らに上に跨った。 ナオさんの放ったモノでぬめる後腔は、相変わらず勢いよくそそり立つナオさんを容易に飲み込んでいく。 一気に根本まで収め終えると、僕は小さく息をついて、瞑っていた目をそっと開いた。 「まこちゃん」 優しい声と共に、熱い手のひらが頬を撫でる。 僕はその手に口づけると、音を立てて指先に舌を絡めた。 ナオさんの指をしゃぶりながら、ゆらゆらと腰を揺らす。 繋がった部分から広がるざわめきのような快感が、二カ所から響く濡れた音が、どんどん僕らを昂らせる。 ナオさんは、僕の口から指を引き抜くと、反り返って透明な密をこぼす僕のモノに、唾液で濡れた指を絡めた。 手にした僕のモノをきつくしごき上げながら、それに合わせて腰を突き上げる。 「あっ、あぁっ、ナ、オさん…っ」 あっという間に上り詰めて、ナオさんの手にびくびくと白濁を吐き出す。 脱力しかける僕を、ナオさんがぎゅっと抱きとめ…僕の中に熱い迸りが溢れかえった。 「まこ」 耳元に囁かれた声は、普段より低く熱っぽい響きを帯びていて…背筋を駆け上る快感に、僕はぶるりと身体を震わせた。 暗くなるまでさんざんベッドで遊んで…僕は夕飯を食べる前にナオさんの家を出た。 僕の家まで歩いて15分ほどの距離は、こんな時にはやけに近く感じられて、もっと遠かったら良かったのに、なんて思ったりする。 家の真ん前までナオさんに送って貰って、名残惜しげに見つめ合う。 「また明日、会えるんやよね」 「うん」 明日は始業式で早く学校が終わるから、お昼はナオさんと食べる約束をした。 だから、ほんの一日足らずのお別れだけど、冬休み中ナオさんの家に入り浸っていた僕は、やっぱりさみしくてしょうがなかった。 「今夜は淋しいなあ」 ナオさんまで、ため息をつくみたいに言う。 「今夜はきっと、まこちゃんの夢を見るよ」 真顔で言うナオさんに、僕は小さく笑って抱きついた。 「ナオさん、ちゅ」 言いながら、赤く冷えた鼻先に軽く口づける。 ナオさんは、僕に顔を挟まれたまま、嬉しそうに喉を鳴らすと、ぎゅっと僕を抱きしめた。 「まこちゃん、ちゅっちゅっ」 僕のまねをして、ナオさんがそっと両方の頬に口づけをくれる。 「また明日ね」 ナオさんの目をじっと見上げて囁くと、夜気に白く吐息が零れた。 「うん。また明日」 ナオさんがにっこり笑って、僕の手をそっと剥がす。 僕は、ナオさんから身体を離すと、一目散に玄関へと走っていった。 振り返ったら、また抱きついてしまいそうで。 そうなったらもう、今夜は離れられない気がして。 たどり着いた玄関で、ゆっくり振り返ると、暗闇の中、ナオさんが小さく手を振ってくれた。 「おやすみなさい」 ナオさんに届くように、少し大きな声で言うと、こだまのように優しい声が帰ってくる。 「おやすみ、まこちゃん」 大好きなナオさんの声を胸に抱きしめて、そっと家の中に入る。 僕は静かに扉を閉めると、夢のように楽しかった冬休みに別れを告げた。 |