気持ちいいな…
優しく髪を撫で梳かれる感触に、とろとろと半ば眠りに落ちたまま、うっとりとなる。
髪を撫でる手は、ゆっくりと何度も僕の髪を撫で、時折指先を髪の中に潜らせると、毛先まで梳いていく。

「起こしちゃった?」
頭の上から、穏やかな声が降ってくる。
半開きの視界の向こうに、ナオさんの笑顔が見える。
「ん…」
僕は、小さく喉を鳴らすと、ナオさんに腕を伸ばした。
ぎゅっ、と抱きしめられて、溜息が漏れる。
ナオさんは、僕を抱きしめたまま、何度も髪に口づけを落とすと、僕の顔を覗き込んだ。
「まこちゃんの寝顔はほんとに可愛い」
こんな事を真顔で言って、僕の頬を手のひらで包み込む。
僕は、なんとなく恥ずかしくなって、赤くなった顔をナオさんの胸で隠した。
ナオさんと一緒に居ると、愛されてるなぁってしょっちゅう実感する。
目線で、指先で、唇で、ナオさんは僕にそれを伝えてくれる。
「論文は?」
夜なべして論文を書くというナオさんに、僕は先にベッドに入った。
ベッドの中で、本を読んで待っていようと思ったのに、いつの間にか眠ってしまったみたいだ。読みかけの本は、枕元に転がっている。
「一段落ついたから、ずっとまこちゃんの寝顔を見てた」
髪に鼻先を埋めるようにして、ナオさんがくぐもった声で云う。
僕が眠っている間に、ナオさんはどんな顔をして僕を見ていたんだろう。
僕は、顔をあげるとナオさんの顔を見つめた。
手を伸ばして、頬に触れる。
ずっと起きていたせいか、ほんの僅かにのびたひげが、指先にちくちくする。
僕は、ひとしきり頬を撫でると、下がりっぱなしの目尻に指先を這わせた。
「何してるの?」
僕は、不思議そうに聞いてくるナオさんのはっきりした眉毛をなぞると、笑って額と鼻先に口付けた。
「ナオさんの顔を確認したの」
言いながら、最後に唇を指先でそっと撫でる。
ナオさんは、舌を出すとぺろりと僕の指を舐めた。
「どうだった?」
僕の指を口に含んで、ナオさんが目だけで笑う。
「かっこよかった」
僕の答えに、ナオさんは嬉しげに僕を抱き寄せた。
「ん…」
さっき指先で確認した柔らかな唇が、僕の唇を塞ぐ。
絡んでくる舌に、僕は口を大きく開けると、しっかりと舌を絡め返した。
いつだってナオさんとのキスはたまらなく気持ちよくて、僕はとろけそうになる。
ナオさんの背に手を回し、濡れた音を立てて口づけを交わす。
「は…ふ」
ゆっくりと下唇を吸い上げてから唇が離れていくのと同時に、甘い吐息が僕の唇から零れ落ちた。
「まこちゃん」
誘いを帯びた、ナオさんの熱い囁き。
僕は、腕を伸ばすとナオさんの首にしがみついた。


「ナオさん…」
身体が熱い。
僕は、瞑っていた目を開けると、潤んだ瞳でナオさんを見上げた。
「ナオさん…」
乾いた唇でナオさんを呼ぶ。
「ん?」
ナオさんは、ゆっくりと僕の中を出入りしながら、汗で張り付いた僕の髪を、そっと指先で払いのけると、うんと優しく微笑んだ。
「きもちいい」
ナオさんの顔を見上げて、舌足らずに訴える。
気持ちよすぎて何も考えられない。
「そう」
ナオさんは目元を綻ばせると、繋がったまま僕をゆっくりと抱き起こした。
「はぁっ」
ぐぐっと繋がった部分に体重が掛かって、ナオさんをより奥まで迎え入れる。
僕は、ナオさんの肩に頬を寄せると、荒い呼吸を整えた。
大きな手のひらが、髪を撫で背中を撫でる。
「きもちいい」
無意識に口走りながら、僕は汗ばんだナオさんの肩口に頬を擦り寄せると、小さく身体を揺らした。

「僕も気持ちイイ」
ナオさんが、小さく囁きながら、僕の耳たぶを甘く噛む。
「まこちゃんの中、あったかくてきゅうきゅうで、気持ちよくてクラクラする」
言葉と共に、ゆさゆさと身体が揺さぶられる。
「ナ、オさんは…熱い。僕の中、で燃えてるみたい。身体中、ナオさんでいっぱいになってる…」
自分でも、何を言っているのかよく分からないままに呟いて、ナオさんの動きに合わせて身体を揺らす。
自分で動くと、ナオさんが動いてくれるだけよりも、ずっとずっと快感が増す。
もう、訳が分からなくなるくらい。
「まこ」
呼ぶ声に、うまく定まらない視点を、なんとかナオさんに合わせる。
いつもの優しいだけの顔じゃない、セックスの時にだけ見せる、快感に耐えるような男っぽいナオさんの表情。
ナオさんは荒々しく僕を再びベッドに押し倒すと、一気に腰を突き立ててきた。
激しい突き上げに、あられもない嬌声が喉をつく。
僕は、涙を零しながら、ナオさんの首を抱き寄せて肩口に顔を埋めた。
「はあっ、ん、んぅっ…」
汗と先走りでぬるぬるになった下腹部を、ナオさんの手が撫でさすり、今にも弾けそうになっている僕のモノを熱い手のひらが覆う。
くるくると先端を撫でられて、僕は思わず思い切りナオさんの肩に歯を立てた。
そうしないと、意識が保っていられそうにない。
「くっ」
さすがに痛かったのか、ナオさんが小さく眉根を寄せて低く呻く。
途端に僕の中で膨れあがったナオさんに、僕は悲鳴のような声をあげて吐精した。
ほぼ同時に、ナオさんも僕の中へ迸らせる。
僕は、びくびくと身体を震わせると、ぐったりとシーツへ身を沈めた。
「気持ちいい…」
薄れていく意識の中、ぽつりと呟く。
最後に視界に入ったのは、ナオさんの満面の笑みだった。
「あー、もう。ホントに可愛いなぁ」
耳の側を、ナオさんの呟きが掠めていく。

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