カーテンの隙間から差す眩しい朝日で目が覚めた。
寝返りを打とう、と思ってふと気づく。
「わあ」
珍しい状態に、僕は少しびっくりした。
今朝は、ナオさんも僕もやけに寝相がよくて、ベッドの上で二人きちんと並んでいた。
手を繋いだまま!
いつも、寝る時は手を繋ぐけれど、起きる時までには大抵解けていて、くちゃくちゃに絡み合って寝ている事が多い。
今日みたいに、朝までずっと手を繋いでいられたのは、たぶん初めての事で、僕はすごく嬉しくて、きゅっと手を握り直すと、すぅすぅ寝息を立てているナオさんの顔を覗き込んだ。
「ナーオーさん」
呼びながら、ちゅっと口付ける。
唇に、ほっぺたに、おでこに、鼻先に。
そこらじゅうにキスを落としていたら、ナオさんはやっと笑って目を開けた。
「オハヨウ」
眠たげな目で僕を見つめ、空いた手でくしゃくしゃと僕の髪を撫でる。
「ね、ナオさん。見てコレ」
僕は、繋いだままの手をナオさんに示して見せた。
「朝起きたら、繋いだままだったの」
僕が言うと、ナオさんはへえ、と楽しそうな顔で笑った。
「んじゃ、昨日の夜からずっと、まこちゃんと繋がってたんやねえ」
「そうみたい」
顔を見合わせて笑い、そのまま甘いキスをする。
「せっかくやし、今日は一日繋いだままでいようか」
唇を触れ合わせるようにしたまま、囁かれた言葉に、僕はびっくりした。
「一日ずっと?」
「そう。ずーっと」
なんだかちょっと楽しそうかも。
嬉しくなって、うんうん頷く。
「んじゃ、今からまたベッドに入るまで、ずーっと一緒ね」
「うん!」
僕は笑って言いながら、ナオさんにぎゅっと抱きついた。


始めてはみたものの、やってみると、それはとても面倒だった。
パジャマを脱ぐにしても、右手を脱いだらそっちを繋ぎ、今度は左手を脱いで、最後は片手ですぽんと首から抜かなきゃいけない。
服を着るのも一緒で、何をやるにも手間がかかる。
普段なら、一分も掛からない着替えに、10分くらいかかってしまったけれど、これはこれで結構面白かった。
ばからしい遊びだけれど、春休みなんだもん。
これくらいのことはしなくちゃ楽しくない。
「…ナオさん」
「ん?」
着替えの途中、僕はちょっと迷って…思い切ってナオさんの顔を見上げた。
「あの、ね。トイレ、行きたい」
あらたまって言うと、なんだかすごく恥ずかしい。
「お、いこいこ」
ナオさんと揃ってトイレに行くなんて、ヘンな感じ。
「後ろ向いてて」
「ええやん別に」
「恥ずかしいってば!」
赤くなった顔で喚くと(けっこうギリギリだった)、ナオさんは笑って後ろを向いてくれた。
手を繋いだまま、用を足すなんて、生まれて初めてだ。
「僕もしよっと」
入れ替わりにトイレに入るナオさんに、僕は言われなくても背を向けたけれど、ナオさんはしれっと「見てもええのに」なんて言った。
手を繋いだままでいるのは楽しいけれど、トイレだけは問題だ。
今日はなるべく行かないでおこう。
僕は密かに心に決めた。


「ナオさん、パン焼いて」
「ん」
狭い台所の中、二人なのに押し合いへし合いしながら、朝ご飯を作る。
「これ、ちょっと押さえて」
何を切るにも、ナオさんの左手を借りなきゃいけない。
ナオさんも僕も右利きだけれど、ナオさんは左手もかなり器用で、片手で卵を割ったりしていた。
「味、どう?」
キャベツ炒めをひとつまみナオさんの口に入れる。
「うまい!」
「よし!」
二人でお盆を持って運び、食卓に並べる。
今日のメニューはトーストが3種類(チーズ・バター・シナモンシュガー)、ウインナとキャベツのソテーに、半熟オムレツ(昨日の残りのデミグラスソース掛け)、あとはインスタントのコーンスープだ。
僕もナオさんも、朝からしっかり食べる主義。
「はい、ナオさんあーん」
「まこちゃんもあーん」
今日みたいに特別な日は、自分で食べるより食べさせて貰ったほうが、断然楽しくて、僕らは手を繋いだまま隣り合って、のんびりごはんを食べた。

後かたづけも歯磨きも、部屋の掃除も、洗濯も、ぜーんぶ手を繋いだまま済ませ、お昼になるころには、すっかりナオさんと繋がったままの状態にも慣れてしまっていた。
さんぽがてらコンビニに買い物に行き、おやつを買い込む。
ずっと手を繋いでいたけど、みんな、他の人のことなんか、結構見ていないみたいで、全然平気だった。
公園を横切り、誰もいないのを良いことに、桜の木の下でキスをする。
いい匂いのする空気のせいか、春のキスはふわりと甘くて、僕はちゅうちゅうナオさんの舌を吸い上げた。
「桜が咲いたら、花見に行こうね」
そっと唇を離し、僕の頬を撫でながら、ナオさんがにっこり笑って言った。
さくらのつぼみは、もう大分膨らんでいる。
「うん。お弁当持ってね」
「こんな風に、手繋いでね」
二人並んで、スキップ混じりに歩いて帰る。
綺麗に澄んだ青空の下、僕はごきげんだった。


ナオさんの胸の中に抱っこして貰いながら、いろんなことをとりとめなく話す。
ずっと一緒にいるのに、不思議と話すことがなくなったりしない。
見つめ合って、キスをして、一緒に笑って、抱きあって。
「あったかい」
僕の一番好きな場所。
あたたかで、いい匂いがして、幸せな気持ちになれる、ナオさんの腕の中。
あんまり気持ちがいいから、思わずとろんと瞼が落ちる。
「まこちゃん?」
「…ん」
「眠い?」
「…ん」
ナオさんの手が、優しく僕の髪を撫でる。
「おやすみ」
眠りに落ちる寸前、ナオさんの小さな声がした。


目が覚めると、僕はやっぱりナオさんの腕の中にいて、ナオさんは僕をひざまくらして…勿論手は繋いだまま…本を読んでいた。
「勉強?」
声を掛けると、ぱっと本から目をあげて、僕の顔を覗き込む。
「起きた?」
「うん」
「まこちゃん、気持ちよさそうに寝てた」
すっと鼻筋を辿られて、くすぐったさに目を細める。
「すごく気持ちよかった」
春の午後のお昼寝は、格別だ。
「あんまり可愛い寝顔やったから、襲っちゃおうかと何度も思ったんやけど」
唇を撫でる指先を、ぱくんと銜えて、ナオさんを見上げる。
「やけど?」
やんわりと指を噛みながら、不明瞭な発音で言うと、ナオさんは目を細めて、僕の髪を手のひらで撫でた。
「まこちゃんが起きてからにしようと思って、待ってた」
ナオさんの指をしゃぶりながら、じゃあ、と繋いだ手に力を込める。
「今、襲って?」
「ええよ」
冗談交じりで、でも結構本気で言った言葉を、ナオさんは笑って請け負うと、僕の頬に口付けた。


「んあっ、あ…っ」
繋がったまま抱き起こされて、思わず喘ぎ声が洩れる。
ぎっちりと奥まで埋められたナオさんのモノが、内部で角度を変え、僕は息を乱しながら、片腕でナオさんの首にしがみついた。
僕はこの、いわゆる対面座位という体位が好きだ。
今日は片手を繋いだままで、その拘束にも似た、ちょっとの不自由が、なんだか僕をドキドキさせる。
ナオさんと向かい合って、目と目を合わせて見つめ合って、一緒に動く。
「ナオさん」
「まこちゃん」
名前を呼んで、キスをして、汗ばんだ胸に頬を擦り寄せ、ナオさんの胸をやんわりと噛む。
ナオさんはくすぐったげに喉を鳴らすと、僕の髪をくしゃくしゃと撫で、お返しとばかりに僕の胸を指先で摘んだ。
「あっ」
ちっちゃなそこはナオさんのお気に入りで、摘んだり潰したり、ちくりと噛んだり、ちゅうちゅう吸い上げたりする。
そのせいで、すっかり敏感になってしまって、ちょっと触れられただけでも、声を上げてしまいそうになるほど感じる。
「かぁわいい声」
かりっと爪を立てられて、僕の口からまた、「あっ」と小さな声が漏れる。
「そ、ソレ。それが可愛い」
ナオさんの嬉しそうな顔。
僕は思わず笑ってしまう。
「まこちゃんが笑うと、きゅきゅって締まって、イきそうになるやん」
ナオさんは笑って言いながら、すっかり先走りに濡れた僕のモノを掴んだ。
「あぁっ」
先端をまるく撫でられて、快感に背を反らす。
いつもは力強く背中を支えてくれる手が、今日はないから、僕は慌ててナオさんの首にしがみつき、握る手に力を込めた。
握る手の指が、僕の指を繋いだまま撫でる。
汗ばんだ手は、ともするとぬるりと滑ってしまいそうで、僕らはしっかり指と指を絡めていた。
「まこちゃん、動いて」
言われるがまま、自分で動く。
ナオさんの上で、身体をゆらす。
僕の後ろを、いっぱいいっぱいに広げたナオさんの大きなモノが、ずるずると内壁を擦り、たまらない快感を僕にもたらした。
「ああっ、あ、あ…ん…っ」
僕のモノを弄るナオさんの手は、強くなったり弱くなったり、あぁ、イきそう、という所までくると、パっと手を離されたりして、僕はもう、訳が分からなくなる。
「ナオさん、イきたいっ、んっ、イ、かせてっ」
腰をゆらしながらお願いすると、ナオさんは僕をぎゅっと抱きしめて、「一緒にね」と囁いた。
きつくナオさんのモノを締め上げ、仰け反りながら声をあげる。
「まこちゃん、まこちゃん」
熱っぽいナオさんの囁き。
下から激しく突き上げられて、あっという間に上り詰める。
「あぁあっ」
「く、う…っ」
僕の中に、熱い迸りが流れ込み、二人の間に白濁が散る。
「んっ、あ、な、おさん」
「ん…」
身体を繋げたまま、両手も繋いで、舌を絡めて、足はしっかりナオさんの腰に巻き付けて。
べったり隙間なくくっついて、快感の余韻に酔う。
「ナオさん大好き」
「僕も大好き。まこちゃんがだーいすき」
好きだ好きだと言い合って、額をくっつけて見つめ合う。
ナオさんの瞳の中に、幸せそうな僕が見えた。


手を繋いだままシャワーを浴びて、お互いに片手で相手の身体を洗う。
ナオさんは、「きれいにしなきゃ」と僕を実に丁寧に…手で…洗ってくれたので、僕は結局、また白濁で汚れてしまった。
「あっち向いててよ」
「手伝おうか?」
「いらないっ」
覗き込もうとするナオさんを押しのけながら、トイレも済ませ、春休みの一日は穏やかに過ぎていく。


「今日は楽しかったね」
ナオさんと繋がったまま過ごした一日も終わり、ベッドに入りながらナオさんに言う。
「うん!ほんと楽しかった」
ベッドの中で、握ったままの僕の手にちゅっと口付けて、ナオさんは満足そうに笑った。
「まこちゃんと一日中繋がっていられたなんて、さいこう」
擦り寄った僕をきゅっと腕の中に抱きしめて、ナオさんが囁く。
「今度は、別の場所で一日中繋がってようか」
にやり、と笑うナオさんに、その言葉の意味を察して、バカ、とナオさんの鼻先を噛んでやる。
「僕はともかく、ナオさんがもたないでしょ?」
しらっとこういう僕に、ナオさんはためしてみる?と僕の顔を覗き込んで来たけれど、僕は慌てて目を瞑って寝たふりをした。
ナオさんのことだ。
本気で試そうとするかもしれない。
そう思った瞬間、ちらりとやってみても良いかも、なんて考えてしまう。
「まこちゃんおやすみ」
たぬきねいりの僕の瞼にナオさんが優しく口づけを落とす。
「おやすみなさい」
繋いだ手が、あったかい。
楽しい春休みは、あと二日でおしまいだ。