dark novelette
不幸較べ
ずるずると引きずられるようにして、リビングへ向かう。身体が動く度に、異物がその存在を主張して、
こみあげる吐き気に、何度も唾を飲み込んだ。
革張りのソファにゆったりと腰を下ろし、男が俺を手招きする。
壁に凭れて、荒い息をついていた俺は、のろのろと歩み寄ると、男の足の間に跪いた。
目の前に突き出されたモノに顔を寄せ、口に含む。少しでも手を抜けば、無理矢理に喉の奥まで突っ込まれるから、俺は必死に音を立てて舐めしゃぶり、舌を絡め、溢れ出てくるものを
舌先で受け止めた。
「良いね。すごく上手になった…。仕込んだ甲斐があったよ」
俺の髪を撫でつけ、男が快感に掠れた声で言う。
「飲みたいかい?それとももう挿れて欲しい?」
軽く髪を掴んで顔を上げさせ、男が覗き込むようにして聞く。
俺は、しゃぶっていたものから口を離すと、挿れて下さい、と小さな声で訴えた。
男のモノを飲まされるのは大嫌いだったし、身体の中のものも早く取って欲しい。
「じゃあ、ちゃんとお願いしてごらん」
男は、どこか楽しげに笑うと、俺の髪から手を離した。
汗に濡れたシャツを脱ぎ捨て、下着ごとズボンを下ろす。
男の前に、再び全裸を晒し、俺は絨毯の上に両手両膝を付いて這った。
たったこれだけの事なのに、息が切れ、汗が滴る。
「ご主人様のモノを挿れて下さい」
目を閉じたまま、棒読みに言うと、男の手が無造作に俺の尻に突き立てられたものを掴んだ。
ぐるりと内壁を抉るように回転しながら抜き出されるそれに、食いしばった歯の間から、無様な声が漏れる。
「あぁあっ」
半ばまで引き出されたモノを、揺さぶられて、俺は高い悲鳴をあげた。
絨毯の長い毛足を引き毟らんばかりに掴み、身体を硬直させる。
「あんまり締め付けるんじゃない。出せないじゃないか」
男は良いながら、再びぐりぐりと抉るようにそれを置くまで突き入れた。
「こんなに縁を真っ赤にして銜え込んで。そんなに気に入ったかい?」
男の指先が、ギリギリまで広がった縁に爪を立てる。
「ひっ…ぁあっ」
あまりの衝撃に、俺は首を振りながら喚いていた。汗と涙の入り交じったものが、顎を伝って絨毯へ滴る。
「自分で出して。ほら、手を」
無理矢理に手が取られ、俺は床に崩れるように肩をついた。
「コレを掴んで、出してごらん」
自分の尻から付きだした異物に指先が触れる。
俺は、半ば夢中でそれを掴むと、自分の中から出そうと手に力を込めた。
「ぐ…っ、うぅっ」
息を詰め、一気にそいつを引きずり出す。
激痛に気が遠くなりそうだ。
鈍い音を立てて、異物が床に落ちた時には、俺は半分意識を飛ばして、床に倒れ込んでいた。
そんな俺の腰を抱え上げ、男が俺を犯す。
異物によって散々に拡げられていた後ろは、男の怒張をやすやすと受け入れた。
「あぁ、すごく気持ちが良い。いつもは少しキツ過ぎるからね。それもまあ、悪くはないんだが」 ゆったりと俺を突き上げながら、男が好き勝手な事を言う。
「このくらい柔らかい方が、長く楽しめるからね」
男は笑いながら手を伸ばすと、テーブルの上のリモコンを手に取った。
ブツッという音と共に、テレビの電源が入る。
スピーカーから流れる音声に、俺はうんざりしてため息をついた。
このテレビに映し出されるものといったら、俺の映ったビデオばかりで、男はたびたび俺を犯しながらそれを鑑賞する。
「顔を上げて見てごらん」
男の手が、後ろから髪を掴む。無理矢理に顔を上げさせられて、目に入った画面では、俺自身のオナニーショーが繰り広げられていた。
虚ろな目をして、目の前に並べられた淫具を次々に尻に突っ込んでは、細い喘ぎ声を漏らしている。
あの時は、妙な薬を後ろに塗り込められて、狂ったように自分を犯した。前に触ることは許されず、後ろだけで達することを強要されて、屈辱と苦痛にまみれながら、必死で快感を追った。
画面を見ていると、その時の記憶が鮮明によみがえる。
思わず目を逸らすと、男は笑って手を離した。
「今の君なら、もっと良いのが撮れそうだね。明日にでも撮影しようか」
男の手が、前に回される。
半勃ちになったものを掴まれて、俺は小さく声をあげた。
「あのころは、私に犯されて勃つなんてこと、なかったのにねえ」
いやらしげに言いながら、男が俺のモノを扱く。
「今やコレが大好きだろう?」
言いながら、ぐいと突き上げると、男は俺のモノから手を離し、腰を掴んで激しく俺を責め立てた。
唇を噛み、身体を捩って、声にならない悲鳴を上げる。
認めたくはなかったが、男の言う通りだった。 毎日のように犯され弄ばれて、すっかり身体は快楽に馴らされ、今や後ろだけで達くこともある。
そのうち、恥ずかしいとも、イヤだとも思わなくなる日が来るんだろうか。
俺の感じるポイントを知り尽くした男が、その場所を狙って突き上げてくる。
こみ上げる射精感に、俺は、喉を逸らして喘いだ。
「うぅ…」
身体が震え、前が弾ける。びくびくと痙攣する俺の身体を押さえつけ、男はより深く突き入れた。身体の中に、熱い迸りが流し込まれる。
ため息をつきながら、男が離れると、俺は床にくずおれた。
「まだだよ。ほら、起きて…」
足先で軽く蹴られて、のろのろと身体を起こす。目の前のテレビでは、相変わらず自分の痴態が繰り広げられていた。
「こっちにおいで。一緒に見よう」
ソファに腰掛けた男が、手招きする。
俺は、床を這いずるようにして、男の所へ行った。
膝の上に抱え上げられるようにして、座らされる。
前に回された男の手が、汗ばんだ肌を這い回るのに、俺はぐっと歯を食いしばった。
「この頃はまだ、あんなバイブ一つ挿れるにも手こずってたねえ」
懐かしむような口調で言いながら、男が指先で乳首を摘む。こりこりと押しつぶすように揉まれて、芯を持ったそれがぷくりと勃ちあがった。
「高校を卒業したら、ここにピアスをつけてあげようか」
男の言葉に、怖気を震う。
「ココとココと、あとココに」
男の指先が、両の乳首と亀頭を撫で回し、俺はせめてもの意思表示に首を振った。
嫌だといっても、止めてくれといっても、無駄な事は分かってるし、そんなことを言う権利が自分にないのも知っている。
この家に来てから、全てを諦めてきた。抵抗も反抗も、プライドを持つことも、自我を保つことも。全てを捨てて、男の言うなりになる。そうするしかなかったし、これからもそれしか道は無い。
「今日の張り型は気に入ったかい?今夜は、あれを挿れて寝ようか」
男の指先が、後腔に小さく潜り込む。途端に、注ぎ込まれたものが溢れ出してきて、俺は身体を震わせた。
「あぁ、でも可愛い君のココが、あんまり拡がってもつまらないな」
男は指を引き抜くと、それを俺にしゃぶらせた。
「明日は何をしようか。待ちに待った週末だ。たっぷり遊んであげようね」
俺を抱き締め、男がねこ撫で声で言う。俺にとっては、地獄でしかない週末だ。
「最近、あまり君の嫌がる顔が見られなくてつまらないから、君の一番嫌いな事をしようか」
一番嫌いな事って…。
身体を強張らせる俺に、男は笑ってリモコンを操作した。
「コレだよ」
画面が切り替わり、再び俺の姿が映し出される。
身体の中に、様々な液体を流し込まれて、俺は、泣き喚いていた。絶え間なく襲う腹痛に、冷や汗と脂汗が交互に滲む。張り型で栓をされ、排泄することも敵わないまま、男の気まぐれな許可が出るまで、苦しみ続ける…。
「君は随分我慢強いけど、これだけは苦手だものね。楽しみだ」
男は、笑って言いながら、俺の顔を覗き込んだ。
「あぁ、そんな不安そうな顔をしなくてもいい。私は君を愛してるんだ。君を傷つけるような真似はしない。そうだろう?」
男の手が頬を撫で、唇を辿る。
「可愛いねえ。本当に、君が手に入ったなんて、夢みたいだよ」
むしゃぶりつくように口づけられて、俺は目を伏せると、大人しくそれを受け入れた。
きつく俺を抱き締め、男の手が背中を撫でる。
口腔を這い回る舌が、優しい手つきが、たまらなく嫌だった。
気持ちが悪い。逃げたい。コイツを殺してやりたい。物のように扱われ、好き放題されるくらいなら、死んだ方がましだ。いっそのこと殺してくれ。愛してるっていうなら、殺せ。死なせてくれ。
腹の底で、どす黒い感情が渦を巻く。男が自分に優しくする度、その口で愛を語るたび、俺はいつも死にたくなった。
歪んだ異常な愛ではあるが、こいつは本気で、俺の事を愛しているらしい。
この世で一番嫌いな相手に愛されて、それから逃げることも敵わず、それを受け入れざるを得ない。
俺は、不幸だ…。
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