セックスは、気持ちの良いことだ。
って、知識としては、知っていたけど。
これほどまでとは、思わなかった。
ナオさんの胸の中で、薄闇を見つめてぼんやりと思う。
こんなにも気持ち良いなんて。
気が遠くなるほど良いなんて。
ナオさんに抱かれるまでは、想像もできなかった。
僕は、ナオさんの腕からそっと起き上がると、ベッドの上で小さく頭を振った。
ひどく、頭が重い。
身体中、ぎしぎしときしむようだ。
それに、喉も痛かった。
きっと、ナオさんに抱かれながら泣いたから、頭が重いのだと思う。
喉が痛いのは、ずっと声をあげていたから。
気持ちよすぎて、涙も声も止まらなかった。
あげくの果てには、快感のあまりに失神した。
普段なら、ナオさんはここまで僕に無体を強いたりはしないけれど…。
昨日は、10日ぶりに会ったから、ナオさんも僕も飢えていた。
する前に、セーブできないかもしれない、と言われて、僕は笑ってセーブなんてしなくて良い、と言ったけど。
ナオさんが、セーブ無しに僕を抱くとどういう事になるのか、僕は思い知らされる事になった。
快楽と苦痛の間に渡されたタイトロープ。
僕の感覚は絶えずその上を行き交い、時に落ちかけて。
しまいには、自分がどこにいるのだかも、分からなくなった。


「あっ、あぁ…、んっ!」
穿たれた場所が、燃えるように熱い。
そこから、身体がどろどろに溶けていくような気にすらなる。
いっそのこと、溶けてしまいたい。
僕は、霞みがかる意識の中、ぼんやりとそう思った。
ナオさんが、僅かに身体を引くだけで、ぞっとするほどさみしくなる。
「や、だ。行か、ないで…っ!」
ぎゅぅっと内部を引き絞り、足でナオさんの腰を引き寄せ、汗ばむ背中に爪まで立てて。
ナオさんに縋る。
ナオさんは、ぐぐっと限界まで僕に押し入り、深く身体を繋げたままで、ぎゅっと僕を抱きしめた。
「まこ」
低く甘い囁きに、頭の芯がじんと痺れる。
「ナオさん…」
僕は、涙に潤みきった目を開いて、ナオさんを見上げた。
「ゴメン。やっぱ、無理。まこちゃんが可愛くて、セーブできやん…」
困ったように僕を見下ろすナオさんの眼は、いつもの優しい眼とは、僅かに違う光を湛えていて。
奥にはっきり、欲望が見える。
「僕も…、ダメ。ナオさんが欲し、くて、我慢できそうに、無い」
僕は既に、3回は放っていた。
そして、僕の中にはナオさんの二回分の白濁が収まっている。
でも、まだ欲しかった。
全然足りなかった。
僕はいつから、こんなに欲張りになったんだろう。
ナオさんが、ゆるく腰を揺らす。
途端に、繋がった部分から、甘い快感が全身に広がった。
「もっと」
舌足らずな声で、ねだる。
もうそろそろ、身体は限界に近づいているのに。
「んぁんっ!!」
思い切り突き上げられて、強烈な快感に意識が朦朧とする。
「も…っ、と」
それでも、僕はナオさんを求めて、唇を開いた。
声にならない、もっと、を繰り返しながら喘ぐ。
いつもの事ではあるけれど。
ナオさんは、僕が望む以上のものを、溢れるほどくれる。
「……っ」
最後は声にならなかった。
放ったのかどうかさえ、はっきりしない。
ぷつん!と糸が切れるように、僕は意識を手放した。


気がついた時には、僕は綺麗に拭き清められて、ちゃんとパジャマのズボンを履いて、ナオさんの腕の中に収まっていた。
一瞬、自分がどこに居るのだか分からなかった。
顔のすぐ横で、ナオさんの胸が規則正しく上下しているのに気づく。
僕は、ナオさんの胸に頬を寄せると、ぼんやりと昨日の事を考えた。
断片的にしか、思い出せない快楽の記憶。
身体の中に僅かに残る、快感の余韻。

気を失うほど、気持ち良いことがあるなんて、ナオさんに出会うまで知らなかった。


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