「お前さあ、最近機嫌悪くね?」 どんぶり飯を渡しながら顔を覗き込むと、剛はびっくりしたようにオレを見た。 「「あ?そうか?」 意外そうに小さな目を見開き、こちらをじっと見つめる顔は、ムーミンに似ている。 もっとも、似ているのは顔だけじゃなくて…。 高校で現社の講師をしつつ、柔道部の雇われコーチをしている剛は、とにかくデカイ。 出会った頃は、筋肉ムキムキのスポーツマン体型だったけれど、一緒に暮らすようになったら、どんどん太りだしやがって、座るとぽっこり出る腹は、やっぱりムーミンそっくりだ。 「お前さあ、ちったあダイエットしたら?」 うまそうに飯を喰っている剛の腹をむにゅりと掴みながら言うと、剛は不満げにオレを見た。 「お前が太らせたんだろが。今日だって朝からこんなに出しやがって…」 ちゃぶ台の上に、ぎゅうぎゅうに並んだ料理を、顎で示しながら言う剛に、オレは唇を尖らせた。 「文句言うなら食うな」 「食わなかったら怒るじゃねーか」 「まあな」 オレが料理を山ほど出すのも、残されるとムっとするのも事実だ。 オレは、苦笑してみそ汁を啜った。 「んじゃ、オレ仕事行く」 「気を付けてな」 見送ってくれる剛にひらひら手を振って、駅へと急ぐ。 オレは将来、自分の飲食店を持つのが夢で、今はその準備期間として、そこら中の飲食店でバイトをしていた。 週末はホテルのレストランでウェイターのバイト。 平日は、喫茶店と定食屋と居酒屋でバイトをしていて、剛とはそこで出会った。 朝の喫茶店で、モーニングを二人前食う剛に会い、昼の定食屋で定食に丼ものをプラスして食う剛に会い、夜の居酒屋でリットル単位で酒を飲む剛に会い… 剛が、オレがバイトしている全ての店の常連なのは単なる偶然だったけれど、オレは仕事の度に見かける体格の良いヒゲ面男を、いつしか無意識に探すようになっていた。 オレは、たくさん食うヤツが好きだ。 そして、うまそうに食うヤツも好きだ。 その両方を満たす剛は、すっかりオレのお気に入りのお客になり、剛もオレの事を気に入ってくれて…。 詳しいことは省くけれど、そのうち俺達は、恋人同士みたいな感じになって、そのうちに同棲することになった。 見た目は神経質に見える(らしい)くせに、おおざっぱでいい加減なオレと違い、剛はデカイ図体の割に、几帳面で繊細で、我が儘なオレにすごく気を遣ってくれるせいか、オレ達の同棲生活はかなりうまくいっていて、オレは毎日幸せだった。 …けれど。 最近、ちょっと剛の様子がおかしい。 言葉にも態度にも出さないけれど、なんだかイライラしてるようなオーラを感じる。 剛は優しいから、オレに何か不満があっても、口に出せないんじゃないかと思って…少し心配だ。 オレの、気のせいなのかな? 気のせいなら、良いんだけど… 微かな不安を抱えつつ、オレは電車へ飛び乗った。 …やっぱり、気のせいなのかな。 その日の夜、剛の逞しい腕に抱かれながら、オレは昼間の考えていた事を思い出していた。 イライラしてるように感じたのも、仕事でなんかあっただけかもしれないし。 剛だってイライラすることもあるよな。 そっと落ちてくる口づけを受け止めながら、単純に結論づける。 「晶」 唇を触れ合わせたまま、剛が小さくオレの名を呼び、オレはそれに誘われるかのように、薄く唇を開いた。 滑り込んできた剛の舌を受け止め、柔らかく絡ませる。 剛の熱い手に身体をまさぐられて、オレは小さく鼻を鳴らした。 「はぁ…っ」 ゆっくりと離れた唇に、思わず大きく息を漏らす。 「あきら」 剛は、濡れたオレの唇を、ぺろりと舐めると、胸元にそっと口づけてきた。 小さく音を響かせながら、いくつものキスが、だんだん下へと降りてくる。 へその窪みをちろちろと舌で舐められて、ぴくりと身体が反応した。 茂みの中から、ゆるやかに勃ちあがっているモノを、剛がぱくりと口に含む。 「ん…っ」 オレは、促すように膝を立てると、短い髪にかろうじて指先を絡ませた。 ねっとりと絡みつく舌に、あっという間に射精感がこみ上げる。 「剛っ。ちょっと待っ…」 いくら何でも、銜えられて一分ももたずに出してしまうのは恥ずかしくて、オレは剛を引き剥がそうとしたが、剛の巧みな舌の方が早かった。 敏感な鈴口を舌先が擽り、吸い上げる。 「あぁっ」 オレはたまらず、剛の口中へ放っていた。 びくびくと腰を震わせるオレの白濁を、あっさりと飲み下し、剛が手の甲で口を拭う。 「はぁっはぁっ」 呼吸を荒げながら剛を見上げると、剛は余裕のない顔つきで、サイドテーブルへと手を伸ばしていた。 引き出しからローションのボトルを出し、たっぷりと手のひらにあける。 ローションを絡ませたぬめる指先が、つるりと中へ入ってきた。 「悪ぃ。あんま余裕無ぇや」 せっぱ詰まった顔をして、剛がぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら、性急に指を出し入れする。 剛の指が前立腺を掠めるたびに、オレのモノはぴくぴくと反応した。 「もぅ、挿れるな」 吐精の余韻いまだ覚めやらず、ぐったりしたままのオレの足を抱え上げ、剛の昂りが、ぴたりと後ろへ宛われる。 ローションにぬるつく先端に入り口を撫でられて、そこは物欲しげにひくひくと蠢いた。 「あぁあっ」 一気に貫かれて、衝撃に背が反り返る。 初めから、激しく腰を打ち付けられて、オレはただ、がくがくと揺さぶられていた。 「つ、よしっ。も、ちょっとゆっくり…っ」 あまりに激しく攻め立てられて、思わず背に爪を立てる。 昔は、堅い筋肉に覆われていた背中なのに、今はなんだか肉が摘めそうな感じで、オレは爪を立てたついでに、ぐいと背中を掴んでみた。 「いって…」 オレの仕打ちに、さすがの剛も痛そうに顔を顰めたが、それでも勢いは止まらない。 「あきらっ、あきら…っ」 何度もオレの名を呼びながら、剛はオレの奥深くを抉った。 結局2度目も、すぐに追いつめられて、ほどなく出してしまう。 自分と剛の腹を濡らし、痙攣するように震えるオレの体内に、剛もようやく熱い迸りを流し込んだ。 「気持ちよかった…」 頭の先からつま先まで、ぼわんとした快感が満ちている。 「そうか」 繋がったまま、口づけてくる剛の唇に、軽くキスを返して、オレは剛の重たい身体を両手で押した。 「何だよ。もう少し」 「もう眠い」 何かを言いかけた剛の言葉を遮って、再び身体を押しのける。 「暑いからどいてくれ。お前体温高いんだから…」 初夏とはいえ、この体型の剛とヤると、お互い汗だくになる。 つまらなさそうな顔をして、剛がオレから出ていく頃には、オレはもう半分眠りの中に居た。 次の日の夜。 夕飯を食いながら、ふと漏らした一言が、これから起こることの始まりだった。 「お前、前のがイイ男だったよな」 昨日のセックスの最中、剛の肉を掴んだ事を思い出し、オレは冗談半分、本気半分で口を開いた。 「…え?」 戸惑ったように剛がオレの顔を見る。 「お前、前よか7.8キロ太っただろ。そこら中に肉がついてて、スポーツマン体型から、オッサン体型に移行してるぞ。最近運動不足なんじゃ無えの?」 剛は、オレの飯が旨いから、食い過ぎて太ったなんて言ってるけれど、剛がよく食うのは、何も今に始まったことじゃない。 「それに、このごろ菓子もよく食うよな〜。マジでほんと、ダイエットしたら?」 別にデブでも好きだけど、剛の筋肉の手触りがちょっと懐かしい。 そう思って、ちょっと意地悪い口調で言うと、剛は少しムっとした顔をした。 「んなこと言うなら、もっとヤらせろよ!」 |