春休み明けの実力テストから解放されて、僕は足取りも軽やかにナオさんの家へ向かった。
この春から受験生な僕は、ようやく重い腰をあげて本格的に勉強を始めて…。
テスト前の一週間は、ナオさん家に毎日通い詰めてしっかり勉強を見て貰った。
ナオさんのテキトウだけどすごくわかりやすい説明のおかげで、苦手だった理系科目も大分好きになってきたし、家で一人勉強するより、ナオさんの隣りでするほうが、断然はかどる。
僕にしては頑張った甲斐あって、今回のテストは今までにない手応えだった。
ナオさんにしっかりお礼しなくちゃ!
僕は一人笑みを漏らすと、ナオさん家のドアを叩いた。
「ナーオーさん」
呼びかけても返事がない。
いつもならスッとんで来てくれるのに…留守なのかな?
ドアノブを捻ると、ドアが開く…けど、ナオさんは出かける時もほとんど鍵を掛けないし。
そっと中を覗き込むと、薄暗い部屋の中はしんと静まりかえっていて、やっぱりナオさんは留守だった。
「…いないんだ」
心底がっかりして、思わず溜息が出る。
僕は勝手に上がり込むと、一応部屋を見て回ってナオさんが留守なのを確認して、台所でカルピスを作った。
そういえば、4月からのナオさんの時間割をまだ訊いていない。
もしかして、今日は学校の日なのかも。
今日、家に居るかどうかを確認しなかったことを悔やみながら、カルピスを一口飲む。
まだ4月だというのい、今日はまるで夏みたいに暑い日で、冷たいカルピスがおいしかった。
夕飯、そうめんにしようかな…
ナオさんはそうめんが好きだ。
そうめんだけじゃさみしいから、他に何か作って…
しばらくぐだぐだと夕飯のメニューを考えて気を紛らわせていたけれど、じきにさみしくなってきた。
今日は会えたら思いっきり甘えられると思ってたのに…
テスト前は、体力と時間を消耗するから…とするのはお預けにしていたし、キスだってあんまりできなかった(キスしたらそのまま雪崩れてしまいそうで)。
ナオさんは笑って、「テストが終わったらたっぷり身体でお礼してね」なんて言ってたから、僕はその気まんまんでやってきたのに…
「早く帰ってきてよぅ」
すごくすごく会いたかったから、さみしさもがっかりもひとしおで、僕は何もする気になれずに、カルピスを飲み干すと、ベッドへばふんと飛び込んだ。
気温も湿度も高いせいか、日当たりの良いベッドの上は暑苦しいほど暖かくて、もわりとナオさんの匂いがする。
「はぁ」
昨夜はあまり寝なかったせいか、急に眠たくなってきて、僕はくしゃくしゃの上掛けをひっぱりあげると、目を閉じた。
大きく深呼吸すると、身体の隅々までナオさんの匂いが満ちる。
途端にぴくりと下半身が反応して、僕は思わず赤くなった。
ホントに身体って正直だ…
制服のズボンの下で、自己主張を始める自身をなだめつつ、もぞもぞと寝返りを打つ。
も、寝ちゃおう。
そう思って、ぎゅっと目を閉じたけれど、一度熱くなりはじめた身体は、そう簡単に静まってはくれなかった。
呼吸をする度に、鼻腔をナオさんの匂いがくすぐり、目を閉じるとナオさんの顔が浮かぶ。
そのうち、自分に優しく触れるナオさんの手や、キスする時の唇の感触がどんどん思い出されてきて…。
僕の前は、あっという間に抜き差しならない状態にまできてしまった。
「ナオさん…」
小さな声で呼んでみたけど、ナオさんが現れてくれる筈もなく。
僕はとうとうウエストに手をかけた。
上掛けの下で、もぞもぞと制服のズボンを脱ぎ、ベッドの下へと蹴落とす。
ナオさんの部屋で、ナオさんのベッドで…こんなことしちゃダメだ!と諫める自分も居るにはいたけど、目の前の欲望には敵わなかった。
何も考えられずに、無我夢中で事を終える。
それはもうあっという間で、し終わった途端に、僕はなんだか泣きたくなった。
トイレに行ってティッシュを流し、ついでにシャワーを浴びて着替えてしまう事にする。
身体は少しスッキリしたけど、その分気分はどんより重くて、僕は制服をハンガーに掛けると、もう一度ベッドに倒れ込んだ。
今度は目を閉じた途端に、眠気が襲ってくる。
僕は、ナオさん(とちょびっと自分)の匂いのする布団にくるまって、こんこんと眠り続けた。


がちゃり、とドアの開く音にぴくりと目を覚ます。
ナオさんだ!
がばりと起きあがると、玄関で盛大な物音がした。
「ナオさん!?」
慌てて玄関に様子を見に行くと、ナオさんが床に転がっている。
「ナオさん!」
びっくりして側に寄ると、ナオさんは僕を見上げてにへらと笑った。
「あ、まこちゃんら」
赤い顔。
とろりとした目つき。
舌足らずな喋り口。
そしてこのアルコールの匂い…
「ナオさん、酔ってるの?」
顔を覗き込んで訊くと、ナオさんはうんうん頷いた。
「そう。ゼミの新歓があってね。お酒を飲んだの」
わあ。酔ってるナオさんなんてはじめて見た…
未成年の僕に合わせているのかもしれないけれど、今までナオさんが酒を飲んでいるところはほとんど見たことがない。
「ナオさんでもお酒飲むんだ」
「あんまり好きやないんやけど…つきあいで…。イロイロ飲んだら酔った…」
床からむくりと起きあがり、僕の顔を見て言うナオさんに、僕は少し心配になってきいた。
「気持ち悪くない?平気?」
「それは平気。ふわふわして気持ちイイ…」
言いながら抱きついてくるナオさんの身体を抱き留める。
ちらりと時計に目を遣ると、既に12時近くを差していて、僕は思わず目を疑った。
6時間以上も寝てたのか…。
ナオさんが帰ってこなければ、もっと寝ていたかもしれない。
「もう寝る?」
僕の眠気はすっかり覚めていたけど、なんだかナオさんは眠そうだ。
そう思って聞いたのに、ナオさんはううんと首を振った。
「久しぶりにまこちゃん抱っこできたのに…しばらく離したくない」
こんなことを言われてしまっては、僕としては離れる理由は一つもなくて。
玄関からベッドの脇までいったん移動して、改めてぎゅっと抱き合う。
「すごく会いたかった」
妙に熱いナオさんの体温を感じながら、僕は目を閉じて胸に頬をすり寄せた。
「僕も」
ナオさんの手がするすると髪を撫でる。
「もしかしてまこちゃん来てるかも〜と思ったら、気になってしょうがなくて。二次会ほっぽって帰ってきちゃったよ〜」
いつもとは違う、少しけだるげなナオさんの声に、笑って顔をあげるとちゅっとナオさんのキスが落ちてきた。
「ナオさん」
首に腕を回して、顔を近づけながらねだるような声で呼ぶ。
「ん」
いつの間にか誘うように開いていた唇を、ナオさんの舌がぺろりと舐め、僕は自分から舌を差し出して、ナオさんのものと絡めた。
濡れた音を立てて絡み合う舌と舌に、身体の奥に残っていた熱に火がつきはじめる。
あっという間に昂る身体に、僕は小さく身体を震わせ、ナオさんに身体を密着させた。
「…はぁ」
ちゅ…と小さく音を立てて、ナオさんの唇が離れる。
途端に、ずしりと体重がかかって、僕は危うく後ろにひっくりかえりそうになった。
「…ナオさん?」
押し倒されるのとは、ちょっと違う感覚に、とまどいながらナオさんの顔を覗き込む。
と、ナオさんはすっかり目を閉じて、あまつさえ小さく寝息まで立てていた。
「ナオさん!もー、起きてよ!」
”しばらく離したくない”なんて言っておいて、数分後にはコレだ。
僕はちょっと腹が立って、ナオさんの身体をゆさゆさ揺すった。
普段なら、笑ってお布団を掛けてあげただろうけど…今日はどうしてもナオさんが欲しい。
「起きないと好きにしちゃうよ?イイの?」
重たい身体を、えい!とばかりに床に押し倒す。
ごろんと転がった身体に馬乗りになり、トレーナーの胸ぐらを掴んで、もう一度ゆさゆさと揺すったけれど、ナオさんは低く唸っただけだった。
「も、知らないからね」
一人でぶつぶつ言いながら、かちゃかちゃとナオさんのベルトを外す。
ウエストを緩め、ファスナーを下ろすと、僕は無造作にナオさん自身を取り出して、そのまま口に含んだ。
両手で支え、ちろりと先端を舐めると、手の中のモノがぴくりと震える。
目を覚ましてくれるかも、と期待をかけて、僕はわざとぴちゃぴちゃと水音を立てながら、ナオさんのモノを舐めた。
アルコールのせいか、寝ているせいか、いつもならあっという間に返ってくる筈の反応が鈍い。
僕は半ばヤケになって、ナオさんにしゃぶりついた。
これでもか!と舌を使って煽り立てると、ようやくむくむくと大きさと硬度が増してくる。
「う…ぅ」
きゅっと先端を吸い上げると、ナオさんが眉根を寄せて小さく呻いた。
「ナオさん」
すっかり勃ちあがったモノから口を離し、耳許に唇を寄せる。
「起きて。しようよ…」
甘く囁きながら、きつめに耳朶に歯を立てると、ようやくうっすらとナオさんが目を開いた。
「目、覚めた?」
すかさず顔を覗き込みながら、僕の唾液で濡れたナオさんのモノをきゅっと掴む。
ナオさんは、一瞬ぼーっと僕を見上げ、それから目を細めて笑った。
「…覚めた」
よいしょと起きあがり、ナオさんの手が、優しく僕の髪を撫でる。
「このまま上に乗ってくれるの?」
髪から肩へ、肩から脇腹へと手のひらを滑らせながら、にやりと笑うナオさんに、僕は服を脱ぎ捨てた。
「また、途中で寝ないでよ?」
「ん」
尖らせた唇に、小さく笑ったナオさんの指先が押し当てられる。
唇を開き、舌を絡ませると、開いた方の手が、素肌を滑り、胸の先端を摘み上げた。
「ね、早く…」
ナオさんの指を口に含んだまま、不明瞭な発音で訴える。
僕の前は触れられてもいないのに、完全に天を仰いでいた。
「もちょっと待って」
糸を引いて唇から引きずり出された指が、後ろへと滑るのに、ぶるりと身体が震える。
「ん…っ」
ひくつく後腔に、指先が潜り込むのを、促すように腰を揺らし、ナオさんの首にしがみつく。
ナオさんを欲しがって、すっかり潤みきった身体は、すぐに二本目の指を飲み込み、それでも足りないといった風に、ぎゅうぎゅうと指を締め上げた。
「おいで」
後ろから指を引き抜き、僕の手を引きながら、ナオさんが横になる。
僕は、ナオさんの上に跨ると、ゆっくりと腰を下ろしていった。
慣れない体位に、ぬるぬるとぬめる先端が、入り口を何度か滑る。
ナオさんの手を借りて、ようやく銜え込むことに成功すると、僕は一気に身体を沈めた。
「あぁあ」
待ち望んだ熱が、奥まで突き進む感覚に思わず声が漏れる。
すごく、気持ちがいい。
「自分で動ける?」
誘うように軽く下から突き上げられて、僕はゆっくりと腰を浮かせた。
汗ばんだナオさんの手が、腰を掴み、動きを助けてくれる。
「はぁ、っあ、ぁあ、ぁ…」
無我夢中で腰を上下させながら、淫らな声をあげる。
自分の好い所を擦りあげるナオさんのモノに、僕はたまらず首を振った。
「前、も…っ」
腰を掴むナオさんの手を引き剥がし、濡れそぼつ前へ押しつける。
ナオさんは低く笑いを漏らすと、僕の動きに合わせて腰を突き上げながら、音を立てて僕のモノを愛撫した。
くちゅくちゅと音を立てて先端を撫で回す指先に、びくびくと背中が震える。
顎をあげ、喉を反らして快感に耐えながら、僕は深々とナオさんのモノを飲み込んだ。
「ぁああ…っ」
弾けた前から溢れた白濁が、ナオさんの手を濡らす。
びくびくと波打つ内壁に、ナオさんのモノもつられるように僕の中で迸りを放った。
身体の奥に広がる慣れ親しんだ感覚に、ぴくぴくと身体が痙攣する。
その背中を、ナオさんの手が優しく撫でた。
ナオさんを身体の中に納めたまま、ぎゅっとナオさんに抱きつく。
「まこちゃん」
囁くような声に、ん?と視線をあげると、ナオさんはぎゅうぎゅう僕を抱き返し、ゆっくり目を閉じながら呟いた。
「大好き」
何度も言われている事だけど、何度聞いたって嬉しい。
「僕も…」
すりすりとナオさんの胸に頬をすり寄せながら、顔を見上げると、ナオさんは既に寝息を立てていた。
僕の中に入ったまんま、抱きしめる腕もそのままに、平和な顔で寝こけている。
「おやすみ」
ベッドはすぐ隣りだけど、僕はナオさんの胸に口づけて、そのままそっと目を閉じた。


「まこちゃん」
すぐ耳許で聞こえる声に、目を覚ます。
「おはよ」
明るい部屋に、ナオさんの顔を見上げて言うと、ナオさんは微妙な表情で僕を見つめ返した。
「僕、どうしてまこちゃんの中に入ってるの?」
不思議そうに聞かれて、言葉に詰まる。
「どうしてって…昨日したまま寝ちゃったから…」
身体の中でしっかりと自己主張しているナオさんに、顔を赤らめながら言うと、ナオさんはきょとんと僕を見た。
「昨日って、したっけか?」
「へ?」
思いがけない問いに、思わずヘンな声を出してしまう。
「ウチに帰ってきたら、まこちゃんが待っててくれたトコまでは、なんとなく覚えてるんやけど、それから先の記憶が…」
「ナイの?」
「……うん」
気まずそうな顔でうなずくナオさんは、ちょっと可愛くてなんだか笑えてきてしまう。
昨日の事は、忘れていてくれたほうが好都合だ。
自分がした事を思い出すと、顔から火が出そうに恥ずかしい。
「んじゃ、今からもっかいして?」
甘え声の僕のお願いを、ナオさんが聞いてくれない筈がなく。
笑顔と共に落ちてくる口づけを、僕は笑って受け止めた。


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