「はあ・・・」
僕は何度目かの溜息をつくと、夕飯を食べる手を止めた。
一人きりで食べるご飯は、ものすごく味気なくて、ちっとも食べる気がしない。
やっぱりナオさんのとこ行けば良かったかな・・・。
僕は少し後悔した。
今夜は、両親が二人して出かけてしまって明日の夜まで帰ってこない。
いつもなら、こんな時はナオさんの所へ行くんだけど。
今日に限って、ナオさんはゼミ合宿とやらで大学に泊まっていて、家には居ない。
ナオさんは、まこちゃんも来る?と誘ってくれたけど、ナオさんの勉強の邪魔をしたくなかったから断った。
でも・・・。
一人ってすごくさみしい。

一人で夕ご飯を食べるのも、一人で夜を過ごすのも、本当に久しぶりだった。
前は、一人で留守番するのなんて、全然平気だったのに・・・。
僕は、もう一度ため息をつきながら立ち上がると、食べ終えた食器を流しに運んだ。
僕って、こんなさみしがりだったっけ?
がしゃがしゃとわざと大きな音を立てて食器を洗いながら、首を捻る。
一人っ子なせいもあって、一人で居るのはキライじゃなかった筈なのに・・・。
今日の僕のさみしがりようは普通じゃない。
「もう寝ちゃおう」
僕は食器を洗い終えると、居間のテレビと電気を消して、2階の自分の部屋へとあがった。
「はあ・・・」
ごろりとベッドに横になる。
さっきからずっと、ナオさんの事ばかり考えてる。
横になったまま、ぼんやりと時計を見ると、時計の針は8時過ぎを指していた。
ナオさんに電話してみようかなあ・・・
でも、まだ学校かもしれないし・・・
勉強中だったら、ナオさん気づいてくれないよね・・・
邪魔はしたくないけれど、気づいて貰えないのも淋しい・・・
ベッドの上で布団を抱えて、うだうだと思い悩む。
「ナオさん」
そっと小さく名前を呼ぶと、たまらなくさみしくなってきた。
ナオさん、今何してるのかな・・・
布団に鼻先を押しつけて、考える。
勉強・・・してるよね、きっと。
電話なんてしたら、やっぱり邪魔しちゃうだろうなあ。
「はあ・・・」
僕はまたため息をついて、ごろりと寝返りを打った。
明日の土曜日には会いに行けるし、今日はやっぱり止めておこう。
決心して、頭から布団を被る。
ナオさんの夢を見ますように。
まだまだ夜は早かったけれど、僕は布団を被ったまま、丸くなって目を閉じた。


「!!」
覚醒は唐突だった。
あんまり急に起きたせいで、心臓がドキドキする。
布団を被って寝たせいか、それとも夢の内容のせいか、ひどく汗をかいていた。
額にかいた汗を拭って、息をつく。
ナオさんの夢を大見ますようにってお願いはしたけれど、あんな夢を見るなんて・・・
僕・・・欲求不満なのかな・・・?
闇の中で、僕は一人赤くなって、僅かにほてった頬を押さえた。
今まで見たことのある夢は、せいぜいキス止まりだったのに、その先まで・・・。
夢の中での行為を思い出して、僕はもぞもぞと布団の下で身じろぎをした。
ゆっくりと、下半身が形を変え始めているのが分かる。
う・・・ヤバイ・・・。
僕は小さく息を飲んだ。
一人で居て、こんな状態になったことは今までになくて、ものすごく焦る。
コレって・・・自分でなんとかしなきゃなんないのかな?
でも、でも、自分でって・・・。
自分でしたことなんてない僕は、うろたえて布団の端を握りしめた。
恋愛にも女の子にもさして興味がないままで、ナオさんに出会ってしまったせいで、僕には自分でした経験がない。
ナオさんと出会ってからは、自分でする必要なんてないくらいに、ナオさんにして貰ってたし。
でも、これはもう、しないとおさまりそうにない。
僕は、決心してそろそろと布団の中へと手を入れた。
思い切って、下着ごとズボンを脱いでしまう事にする。
・・・これってすごくまぬけな格好
布団の下とはいえ、無防備に下半身を晒しているとなんだか情けなくなってくる。
僕は、息を詰めてゆっくりと手のひらに自分のモノを握りしめた。
「は・・・」
握った途端、無意識のうちに詰めていた息が漏れる。
ダイレクトな快感に、じーんと頭の芯が痺れた。
「ん、んっ・・・」
あっという間に手が濡れて、べたべたしてくる。
自分の手が、意志とは無関係にせわしなく上下に動いて、僕は快感だけを追っていた。
「ん・・・く・・・っ」
慌てて、机の上にティッシュの箱に手を伸ばす。
限界は、思いの外早かった。
「はあ・・・・」
ティッシュの中に吐き出して、息をつく。
何かに急き立てられるように、一気に上り詰めてしまって、なんだかひどく空っぽな気分だった。
ベッドの上に起き上がってぼんやりする。
「ナオさん」
泣きたくなるくらい、ナオさんが恋しかった。


「まこちゃん?」
電話の向こうで、ナオさんはびっくりしたような声を出した。
「こんなに遅くにどうしたん?」
言われて時計を見ると、もう12時を過ぎている。
こんな遅くにごめんなさい、とか。
今、勉強中じゃなかった?とか。
なんとなく声が聞きたくて・・・とか。
いろんな台詞が頭の中をよぎったけれど、僕の口から出てきたのは、
「会いたい」
という泣き声混じりの一言だった。

それから数十分後。
家の前で待っている僕の前に、自転車をすっ飛ばしたナオさんが姿を見せた。
「ナオさん!」
ナオさんが自転車を止めるのももどかしく、思い切り抱きつく。
「お待たせ」
胸の中に、僕をぎゅっと抱きしめながら、ナオさんは笑って言った。
「どしたん?さみしくなっちゃった?」
優しい声に、ナオさんの胸に顔を埋めたまま小さく頷く。
僕は、ナオさんの背中に腕を回して、ゆっくりと息をついた。
ものすごく、安心する。
あったかいナオさんの腕の中。
「・・・ん?」
お腹の辺りが、妙に暖かいのに気が付いて、僕はナオさんの胸から顔をあげた。
「あ、そうだ。まこちゃんにおみやげ〜」
パーカーのカンガルーポケットから、ナオさんが銀色に光る物を取り出す。
「ホラ」
ナオさんは、銀色のホイルを剥くと、目の前でそれを二つに折って見せてくれた。
中から鮮やかな金色が湯気を立てる。
「わあ!」
美味しそうなやきいもに、僕は思わず歓声を上げた。

「まこちゃんち、あがるの初めて」
ナオさんを家の中に招き入れて、リビングへ通す。
今まで、家の前までは何度も送ってもらったけれど、そういえば上がって貰ったことは無かったっけ。
僕はお茶を入れると、物珍しげにきょろきょろしているナオさんの前に腰を下ろした。
「立派なお家やねえ」
「ナオさん家だって立派じゃない」
感心したように言うナオさんに、湯飲みを渡す。
うまそうに茶を啜るナオさんと一緒にやきいもを食べて、僕はすっかり満ち足りた気分になっていた。


やきいもを食べてから、まこちゃんの部屋がみたい、というナオさんを二階に上げた。
「まこちゃんの匂いがする」
部屋に入るなり、ナオさんはひくひくと鼻を動かしながら言う。
僕は、内心ぎくりとした。
匂い、残ってないよねえ?
窓開けて空気は入れ換えたし、ゴミはトイレに流したし。
緊張している僕を後目に、ナオさんはきょろきょろと僕の部屋を見回すと、嬉しげにベッドに腰掛けた。
「ココでいっつも寝てるんやね〜」
ナオさんが、ごろりとベッドに寝転がる。
ナオさんが寝ると、なんだかベッドが小さく見える。
僕は笑って、寝ころんだナオさんの隣に腰を下ろした。
「あ〜、お布団もまこちゃんの匂い」
布団に顔を埋めて、ナオさんがくぐもった声で云う。
僕は、手を伸ばして柔らかなナオさんの髪を撫でた。
「ね、まこちゃん」
勢いよく飛び起きて、ナオさんが僕を見上げる。
「なに?」
キラキラした子どもみたいな目で見つめられて、僕は笑いながらナオさんの顔を見返した。

「電話が掛かってきた時ね、ちょうどまこちゃんの事考えてたから、ちょっとびっくりした」
僕の髪を撫でながら、ナオさんが笑いを含んだ声で云う。
「僕も・・・ずっとナオさんの事考えてた」
髪を撫でる手の優しさに、僕は目を細めてナオさんの肩にもたれ掛かった。
ナオさんが、鼻先を髪に埋めるようにして、髪にいくつもキスを落とす。
「まこちゃん、何してるかなって、考えてた」
耳元で、ナオさんが言葉を句切って甘く囁く。
僕は、首を竦めながら鼓動が早くなるのを感じていた。
「ん?」
不意にナオさんが、動きを止める。
「どうしたの?」
ナオさんの顔を見上げると、ナオさんはにやりと笑って僕を見た。
「もしかして・・・一人で、した?」
何を?
・・・なんて聞かなくても、ナオさんのにやり顔が雄弁に物語っている。
な、何でバレたんだろ?
「ど、どうして?」
僕は、目を泳がせながらも平静を装った。
「何となく」
ナオさんが目だけで笑いながら、くんくんと僕のにおいをかぐ。
匂い・・・する訳ないよね。
だって、ちゃんと手洗ったし。
でも、ナオさん鼻がイイからなあ・・・・
僕は顔を赤くして、こちらをじっと見つめているナオさんの視線から逃れようと、目を逸らした。
「やっぱりしたの?」
迫ってくるナオさんに、慌てて後ずさる。
「僕というこいびとが居ながら?」
言いながらどんどん迫ってくるナオさんに、僕は壁に追いつめられた。
「だ、だって・・・ナオさんの事考えてたら、我慢できなく・・・っ」
最後まで言わないうちに、上から覆い被さるようにナオさんが口付けてくる。
「ん・・・・・」
深い口づけに、僕は一瞬で陶然となった。
夢中で、舌を絡め返して、口中を這い回る舌を捕まえて吸い上げる。
静かな部屋の中に、濡れた音が響く。
口の端から、飲み込みきれない唾液が溢れて、顎から喉へと伝っていく。
ゆっくりと唇を吸い上げながらナオさんが唇を離し、僕はすっかり脱力してナオさんの腕の中に居た。
「僕だって、もう我慢できない」
低く囁いて、ナオさんがそっと僕を押し倒す。
「ん・・・」
僕は、ナオさんの首にしがみついた。


自分でするのとはまるで違う。
僕の手より、ナオさんの手の方がずっと大きくて、ずっと優しい。
緩急をつけて、僕のモノを扱きながら、ナオさんはにやにやと僕の顔をのぞき込んだ。
「自分でも、こうしたの?」
かあっと顔に血が上る。
僕は、ぷいっと顔を背けると、小さな声で呟いた。
「もう、しない」
「・・・え?」
ナオさんが驚いたように目を見開いて僕を見る。
「自分でするより、ナオさんにして貰った方がずっとイイ。・・・から、もう自分でしない」
随分恥ずかしい事を口走っている気がしたけれど、本心だから良いことにする。
「も〜〜、まこちゃんてば可愛すぎ!!」
ナオさんは僕の言葉を聞くなり、僕をぎゅうぎゅう抱きしめると、そこら中にキスを落とした。
「んじゃ、僕もしないどこっと。まこちゃん、相手してね」
とびきり甘く耳に囁かれて、思わず背筋がぞくりとする。
そのまま、耳たぶを柔らかく噛まれて、僕は小さく身震いした。
ナオさんの唇が、ゆっくりと首筋を降りていく間に、僕自身の先走りで濡れた指が、胸の尖りを摘み上げる。
指先で軽く転がされると、そこはあっという間に固く芯を持ち始めた。
「ん・・・」
勃ち上がった胸を、唇が愛撫し、舌が舐めあげる。
僕は、ナオさんの髪に指を絡めて、小さく身体を仰け反らせた。
指先が、下腹部の茂みをかきわけ、ゆるりと立ち上がったモノの形を辿る。
触れるか触れないかの位置で、繰り返される愛撫に焦れて、僕はもじもじと腰を振った。
胸を口に含んだまま、ナオさんが小さく笑う。
濡れた胸に吐息が掛かり、僕は身体を竦ませた。
指は更に奥へと滑り、指先が入り込む感覚に、息を詰める。
ゆっくりと中に潜り込み、慎重に中を探る指先に、何も考えられなくなる。
僕は、絶え間なく喘ぎながら、ナオさんの頭を抱きしめた。


「ん・・・・」
息をつき、身体の力を抜くと、熱いナオさんが力強く押し入ってくる。
「な、んか・・、ナオさん・・・」
ぎっちりと根本まで収められて、そのあまりの大きさに何度も浅く息を吐く。
ナオさんは、ゆっくりと腰を動かしながら、僕の頬に口付けた。
「まこちゃんの中、すごく熱い・・・」
掠れた声で言いながら、ナオさんが目を細める。
「ナオさん、ナオさんっ・・・」
ゆったりと突き上げられて、快感に目が眩む。
僕は腕を伸ばしてナオさんに縋り付いた。
ナオさんが、きつく胸や首筋に口づけを落とす。
「は・・・ぁっ、ん・・・んぁんっ!」
ぐいっと腰を回すように突き入れられて、僕はあられもない声をあげた。
次第に激しくなる突き上げに、自然に僕の腰も揺れる。
ナオさんの手が、ぬるぬるとぬめる僕のモノを掴み、同じスピードで扱きあげる。
「い・・あっあ、あ・・・」
僕は、ぎゅっと目を瞑って、首を振りながら快感に耐えた。
きつく瞑った目の端から、涙がこぼれ落ちていく。
「まこちゃん」
ナオさんは熱く囁くと、唇に深く口付けた。
絡まる舌と溢れる蜜。
上からも下からも響く濡れた音に、耳からも犯される。
「んあっ!!」
僕は、唇を離すと一際高い声をあげて、小さく身体を震わせた。
ナオさんの手が、どろりと僕の白濁で汚れる。
ナオさんは、濡れた手をぺろりと舐めると、僕の身体をきつく抱きしめて、激しく腰を打ち付けた。
身体の中に溢れかえる熱い液体に、思わずぎゅっとしがみつく。
「愛してる」
ナオさんは、僕を抱き返しながら、柔らかな声で囁いた。


「ナオさん」
けだるくほてったままの体を、ぴったりとナオさんに寄せて、僕はそっとナオさんを呼んだ。
「ん?」
優しい目が、僕の顔をじっと見つめる。
「わがまま言って、迷惑じゃ無かった?勉強、してたよね?」
僕は、ナオさんの目を見つめながら、小さな声で呟いた。
ナオさんの目が、糸のように細くなる。
「迷惑な訳ないやん」
ナオさんは、目を細めたまま、ゆっくりと僕の背中を撫でた。
「呼んでくれたのは嬉しかったし、まこちゃんにわがまま言われるの好きやし、勉強はしてなかったし」
おどけたように言いながら、ナオさんが僕の額に額を付ける。
「まこちゃんから電話があったとき、みんなでたき火して遊んでたんやよ。だから、全然平気!」
ちゅっと鼻先に口付けられて、僕は少し安心すると、ナオさんにぎゅっと抱きついた。
「ナオさん、大好き」
「僕も大好き」
顔を見合わせて、二人で笑う。
暖かなナオさんの腕の中で、僕はすごくしあわせだった。


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