「すごい混んでるねえ」
なんだか嬉しそうにナオさんが言う。
年末のスーパーはさすがにすごい人だった。
僕とナオさんは、いつものスーパーではなくて、ちょっと離れた所にある大きなスーパーまで足を伸ばして来ている。
「年越しそば、何にする?」
ナオさんは、目を離すとすぐにいなくなっちゃうから、僕はしっかりナオさんのコートを掴んでいた。
「とろろも良いけど、天ぷらも良いよねえ」
言われてみれば、両方ともおいしそう。
僕はどっちも作ることにして、それぞれ材料をかごに入れた。
大晦日のごちそうには、かにすきをすることに決まっている。
「かには?」
「もう届いてるよ。どかーんと」
どかーんと・・・、ねえ。
ナオさんは何事もやりすぎる傾向にあるから、きっとホントにどかんと届いてるんだろうな。
僕は笑って、かにすきに入れる野菜をナオさんの持ったかごに入れていった


帰りには、二人で持ちきれない程のすごい荷物になったけれど(ナオさんが何でもかごに入れちゃうから)、今日はナオさんが車を出してくれたから平気。
ナオさんは、運転に自信が無いから、とてもじゃないけどまこちゃんは乗せられない、と言い張って、なかなか乗せてくれないけど、ナオさんの運転する車は結構乗り心地が良い。
「ね〜、今度ドライブ連れてってよ。どこか遠くまで」
僕は、真面目な顔で運転しているナオさんの横顔を見ながら云ってみた。
「どこでも連れてってあげるけど、車はダメ。電車かバスか飛行機でね」
「どうして?」
「車、運転してると、まこちゃんを構えないから楽しくないやん」
運転に集中しているせいか、早口でナオさんが言う。
たしかに、僕も構って貰えないのは楽しくない。
「冬休みの内に、どこか遠くに遊びに行こう」
信号待ちで車を止めると、ナオさんはやっと笑って僕の顔を見た。


大掃除は、冬休みに入ってすぐに二人で済ませてしまったし、買い物もしちゃったし、夕飯の準備にはまだ早いし、大晦日の午後ともなるとする事がない。
暖かな部屋の中で、僕はずっと本を読んでいるナオさんにくっついて、ごろごろしていた。
ナオさんと一緒に居るのは気持ちがいい。
一人で居るより、ずっと落ち着くし、ずっと安心。
ナオさんは、のんびりと本を読みつつ、まとわりつく僕を構ってくれた。
僕を抱き寄せ、軽く口付けて、手のひらで髪を撫でる。
そのひとつひとつが、うっとりするほど気持ちいい。
「まこちゃん」
ナオさんは、本を閉じると腕を伸ばして僕をぎゅっと抱きしめた。
「はぁ」
抱きしめられて、思わず満足げな声が漏れてしまう。
ナオさんは小さく笑って僕の髪に音を立てて口付けた。
鼻先が触れ合うほどの至近距離で見つめ合って、啄むような口づけを交わす。
「まこちゃん」
口づけの合間に、囁かれる名前。
それはあまりにも甘くて、僕はうっとりと目を閉じた。
閉じたまぶたに口づけが落ちる。
頬に、鼻先に、優しく唇が押し当てられて、最後にまた、唇に戻ってくる。
「ナオさん」
僕は、ナオさんの首にぎゅっと抱きついて自分から唇を押し当てた。
額をくっつけたまま、顔を見合わせて笑いあう。
ナオさんと一緒だと、いつでも楽しい。
二人で過ごす時間の一秒一秒がとても幸せで。
結局僕らは、午後中ずっと抱き合ったままゴロゴロと時を過ごした。


早めに夕飯の準備をしたせいで、大騒ぎしながら食べたかにすきも8時過ぎには食べ終わった。
ナオさんが言った通り、どかんと届いていたかにはとても食べきれない程で、残りは冷凍したけれど、それでもお腹は苦しいくらいに一杯だった。
「う〜ん・・・」
深刻な顔をして、ナオさんが唸る。
「苦しい?」
僕は、こたつの上にお茶を置くと、ナオさんの隣に座って、膨れたナオさんのお腹を撫でた。
「イヤ、そうじゃなくてね」
ナオさんが、至って真剣な顔で、僕の事を見る。
「年越しソバ、入るかなあ・・・って」
「・・・・そんなことを悩んでたの?」
僕は呆れて、ナオさんの腹をぺちりと叩いた。
「だって、重要やん。年越しソバは、年に一度しか味わえないんやよ?」
重要・・・なのか。
僕は笑って、ナオさんの顔を見上げた。
「じゃあ、腹ごなしに散歩でも行く?ほら、一駅向こうにたしか神社が・・・」
ここまで言った途端、ナオさんにいきなり押し倒される。
「まこちゃん、良い事言う!腹ごなし、しよっか?」
ナオさんは、上から僕を見下ろしながら、にっこりと笑った。
「僕は、腹ごなしに散歩でもって・・・」
「散歩よりも良いことしよ?」
耳元で甘く囁かれたら、僕に断れる訳が無い。
「うん」
僕は、ナオさんの背中に腕を回して頷いた。


「大晦日の晩なのにね〜」
「紅白も見ないでね〜」
とろけるようなキスを交わして、鼻をすりあわせながらくつくつと笑う。
いつもやってる事だけど、一年最後だと思うと、ちょっぴり特別な気もする。
「ヤり収めやね」
にやりと笑って、ナオさんが僕の腰を撫でる。
「まだ、収めてない・・・でしょ?」
僕は、ナオさんのにやり笑いの真似をして笑いながら、張り詰めたナオさんのモノに触れた。
思わず手を引っ込めそうになるくらい、熱いソレを握りしめて、軽く扱く。
「ん・・・っ」
一瞬小さく眉根を寄せて、ナオさんが色っぽい声で呻く。
「んじゃあ、収めさせて頂きます」
ナオさんは、神妙な顔をして僕の足を抱え上げると、ゆっくりと覆い被さってきた。
熱いモノが後ろに触れて、きゅうっと中に押し入ってくる。
「は・・・・・ぁ、あっ」
思わず息が詰まるほどの圧迫感に、僕は口を大きく開けて、喉を仰け反らせた。
しっかりと根本まで僕に収めて、ナオさんが露わになった喉を舐め上げる。
僕は、ナオさんの背中にしがみついて、浅い呼吸で喘いでいた。
硬く反り返ったナオさんのモノが、僕の中を掻き回すように動き回り、内壁を抉る。
僕の感じるところを知り尽くしたナオさんは、僕だけが先にイってしまわないように、わざとポイントを外してゆっくりと抜き差しを繰り返す。
ひどく浮力のある水に浮いているような、気持ちがイイけど頼りない快感の波。
僕は、ナオさんの逞しい腰に足を回して、自分で小さく腰を揺らした。
自分で動くと、快感は二乗になる。
身体の中の熱は、もう臨界点ギリギリで、あとちょっとの刺激で溢れそうだった。
「まこ」
ポイントを寸分違わず突き上げながら、ナオさんが低く囁いて、ついでに耳を噛んでいく。
「ぁ、あ・・・っ・・・んあっ」
僕は、高い声をあげると、全身を震わせて熱いモノを吐き出していた。
思い切り、息も出来ないくらいに抱きしめられて、その瞬間、僕の中にもナオさんの熱が溢れかえる。
「ナオさん・・・」
僕は、きつい腕の中でそっと呟いて、汗ばんだ胸にそっと口付けた。


「腹ごなしは?」
「おかげさまで」
ナオさんは、にっこり笑ってお腹を叩いた。
「年越しソバ食べたら、出かけようか」
思いついたようにナオさんが言う。
「どこに?」
「初日の出を見に港に行って、それから神社に初詣に行こう」
「わ、それ良いね!」
お正月らしくて、良い計画だ。
僕はすっかり嬉しくなった。
今年一年、ナオさんのおかげですごく良い一年だった。
来年も、きっと良い年が過ごせると思う。
「ナオさん大好き」
僕は、ナオさんにぎゅっと抱きついた。