「お前、先生に口でしたことねーのか?」
雪の頭の上から、呆れたような声がする。
先生、という単語に、雪は僅かに涙に濡れた目を上げた。
「テク以前の問題だもんなあ。少しは舌とか唇とか使ってみようって気は無いわけ?」
強い手で前髪を掴まれて、雪は永井のモノを咥え込んだまま、低く呻いた。
「ま、今日はイイや。そのうち仕込んでやるから、先生にもご奉仕してみたら?」
永井は喉で笑うと、雪の髪を掴んだまま口中に腰を突き入れた。
「ぐ………っ…」
喉奥をきつく突かれて、一気に吐き気がこみ上げる。
永井は顔に腰を使いながら、雪の髪を掴んで揺さぶった。
あまりの苦しさに気が遠くなる。
「……出すぞ!飲め!」
最後に一際深く喉を抉られて、そのまま喉奥に熱いモノが吐きだされる。
「ぅ……げほっ…ぐ……っ」
反射的に僅かを飲み込んでしまったものの、ねっとりと喉に絡まる感触に雪は鳥肌を立てて咽せ返った。
口からかなりの量の白濁がこぼれて床に滴る。
永井に乱暴に突き飛ばされて、雪は床に手を付いて喘いだ。
「飲めっつっただろ?」
永井の低い声が狭い部屋に響く。
雪は床から顔を上げて、永井を見据えた。
「相変わらず生意気な目してんなぁ…」
永井は低く笑うと、しゃがみ込み、雪と目線を合わせた。目を逸らさない雪の頬を指の背で撫でる。
「お前のその生意気な目見てると、めちゃくちゃに虐めたくなるんだって知ってた?」
永井は言い終わりざま、指の背で軽く雪の頬をはたいた。そして、雪の目を見たまま指で床を指す。
「これ、掃除しろ。口で」
雪は微動だにしなかった。
「舐めて、綺麗にしろ」
永井の言葉が続く。
雪は永井の顔を睨み付けるように凝視した。
怒りとか、悲しみとか、悔しさとか、憤りとか、そんなレベルの言葉で表せる感情ではなかった。体が、動かない。
自分の顔を見つめたまま、じっと動かない雪を見て、永井は薄笑いを浮かべて立ち上がった。
「ま、やりたくないなら、やんなくてもイイけど?」
 永井の言葉に、雪がぼんやり顔をあげた。
「先生が、どうなっても、いいなら、ね」
無表情の雪を見下ろして、永井はゆっくりと言葉を区切って言う。
雪のまぶたが細かく震え、そしてそっと閉じられた。
緩慢な動作で床に手を付き、口から零れた白濁を舐める。
薄く開いた唇から僅かに覗いた舌が、冷たいリノリウムの床の白いしみを舐めとっていく。
ぴちゃり、ぴちゃりと部屋に響く濡れた音を他人事のように聞きながら、雪は無心に床を舐めた。
手と舌と、こころがとても冷たかった。



「これは………」
雪は手にしたものを一目みて、絶句した。
「よく撮れてるだろ?清宮雪くん」
背の高い大きな会議用の机に腰を掛けた長身の男が、笑いながら言った。
雪の手の中には、数枚の写真がある。雪は写真を握り締めながら、目の前の男を睨み付けた。
すっきりと整った顔立ちで、切れ長の目が印象的だ。長く伸ばした前髪を、時折鬱陶しそうに掻き上げながら話す。
雪と同じ制服を、だらしなく着崩して、どことなくけだるげな雰囲気を漂わせている。
襟元のバッジから、高一の雪よりも先輩、高三だと分かった。
「こんな写真を撮って、どういうつもりだ」
睨み付けたまま、低い声で言い放つ。雪は、先輩だからといって、こんな事をする奴に、敬語を使う気はさらさらなかった。
小柄で華奢な体つき。濡れ濡れと光る大きな瞳や、柔らかそうな頬は、まだまだ子供っぽさを残しているのに、
表情は随分大人びている。しっかりしているように見えて、ひどくアンバランスな印象。
自分をきつく睨み付け、そのくせ目を不安げに潤ませている雪を見ながら、男が低く笑った。
「そんな怖い声出すんじゃねえよ。あん時はあんあん言いながら、腰振ってた癖に」
男の下卑た言い草に、雪はかぁっと顔を火照らせた。手の中の写真は、男があん時、と称した時の写真で……。
つまり、見てあからさまにそれと分かる、行為の写真だった。
「学校で先生と生徒が……なんて、バレたらすげえ事になるな」
顔を赤くして俯いた雪に、男がさらりと言う。
「!!」
 途端に雪は弾かれたように顔をあげ、男の顔をじっと見つめた。
「ま、待って……」
雪の唇がわなわなと震える。さっきまで、自分を睨み付けていた雪の変化に、男は気をよくして机の上に座り直した。
「ば、ばらさないでくれ。頼む…」
雪は男の座る机に、一歩歩み寄りながら、震える声で言った。
「それが人に頼み事をする時の言い方か」
男はわざと不機嫌極まりない、といった表情を作り冷たく言う。
雪は、手を拳に握り締め、唾をなんども飲み込んでから口を開いた。
「お願いし、ます。バラさないで、ばらさないで下さい。お願いです。お願いですから…」
初めから小さかった声は、最後の方はかき消えんばかりになっていた。この部屋に入ってきた時は、
きつく男を見据えていた目が、今はそっと伏せられていた。
「お前がばらさないでくれっつうなら、ばらさないでやってもいいよ。別にばらしてやろうと思って撮った訳じゃないし」
男のあっさりとした口調に、雪は伏せていた目をあげた。
見開かれた目には、あからさまな安堵と、その奥に深く相手を探る光があった。そんな雪をじっと眺めて、男は言う。
「俺が何をしたくて、こんなことしてるか分かるだろ?」
雪は男を黙って見つめた。今度の目には明らかな警戒と、その奥に隠された怯えが見える。
男は雪が自分の意図するところを分かっているのを知って、ゆっくりと口を開いた。
「俺にもやらせろ」
どうでもいいような軽い口調で言われたその言葉に、雪はぐっと男を睨み付けた。
「断る」
言下に言い捨てる。男は雪の強い態度に、片眉をあげて雪を見た。
「いいのか?やらせなきゃバラすぜ?」
半ばからかうような口調。雪はぐっと唇を噛み締めて悔しそうに俯いた。
「別に先生と別れろって言ってる訳じゃないんだから、いーだろ?」
相変わらずの軽い口調で男は言う。
「やらせなきゃ、ばらすし、やらせるんだったら、ばらさない二つに一つだ。選べよ」
 俯いたままの雪に男は言った。顔を伏せて目を閉じ、考えを巡らせる。恋人の顔が、頭に浮かぶ。
どちらを選択しても、恋人を不幸にすることは目に見えていた。自分を本当に可愛がってくれている、秋。大切な恋人。
秋……。
恋人の名前を心で呼んで、雪はぎゅっと目を閉じた。バラされるのは、駄目だ。
こいつに犯られるなんて絶対嫌だ。そのくらいなら、死んだ方がましだ。
でも、バラされるのは絶対駄目だ。ばれたら二人とも学校には居ら
れない。秋も、学校にはいられない…。もう、教師ではいられなくなる。
雪はごくりと音を立てて唾を飲み込むと、ゆっくり目を開いた。目の前に、薄笑いを浮かべた男が居る。
雪は乾いた唇をやっとの思いで開いた。
「ばらさないでください」
穏やかにさえ聞こえる小さい声で、雪は男に言った。男を見つめて、瞬き一つしない目から、涙が一筋頬を伝った。
「ふうん」
男は鼻を鳴らすように言い、勢いを付けて腰掛けていた机の上から降りた。
雪の目の前に立ち、自分よりかなり低い雪の顎を指先で掬いあげる。
白く小さい顔を僅かにゆがませて涙をこぼす姿はなかなかそそられるものがある。
涙に濡れた雪の目をのぞき込むようにして男は言った。
「つまり、それは俺にヤって欲しいって事だよね?」
念を押すように言われて、雪はゆっくりと目を閉じた。
「はい」
言葉と共に新たな涙がこぼれて頬を伝う。顎を掴む男の手も、涙に濡れた。
涙がこぼれる度に、永井は雪を苛めたいという衝動に駆られる。
「俺の言うことなんでも聞いちゃう?」
目を閉じた雪に男は重ねて言った。
「はい」
雪は目を閉じたまま、掠れた声で小さく答えた。男はぱっと手を離すと、雪から僅かに離れた。
手が離れたのを感じて、雪は目を開けると、涙に濡れた目で男を見た。男は床に目を落とし、靴先で床を擦っていた。
「俺の名前は永井だ」
不意に顔をあげて男が言う。雪はとまどいながらも、黙って小さく頷いた。
「さっき、何でも言うこと聞くっつったよな?」
永井の言葉に雪は体を強張らせた。目を伏せて、頷く。
もう、覚悟はできていた。
「床に手付いて、俺の靴舐めて見せろよ」
永井の口からなんでもない事のように吐きだされる言葉。
雪は伏せていた目を見開いて永井を見つめた。覚悟はできていた。だけど…。
雪は永井の靴に目を落とした。
薄汚れたごつい型のスニーカー。
永井は黙って雪を見据えた。半ばよろめくように、雪の足が前に出る。
永井の目の前で、雪はくずおれるように膝を付いた。
目の前の靴を見たくなくて、目を閉じながら床に手を付く。雪はひどくゆっくりとした動作で、頭を下げて靴に口を付けた。
「ちゃんと舐めろよ」
頭の上の方から、声が聞こえる。雪は舌を覗かせて、僅かに靴を舐めた。ざらりとした、紐の感触。
「……うっ」
急に吐き気がこみ上げてきて雪は低く呻いた。途端に肩を蹴られる。雪は音を立てて床に転がった。
そのまま床に押さえ付けられて、乱暴にシャツのボタンを外される。
雪は抵抗できないと分かっていながら、弱々しく永井の胸を押した。
永井は雪の抵抗をまるで気にせずにシャツをはだけてしまうと、ズボンに手を掛ける。
雪は抵抗を止めて、両腕で顔を覆った。あっというまに下着ごとズボンが引き抜かれる。
「い、やだっっ!」
下肢を外気に晒されて、思わず強い拒否の言葉が口から漏れる。
永井は顔を覆う手を強い力で掴みあげると、雪の顔脇の床に押しつけた。
唇をわななかせて、きつく目を閉じる雪の顔を上から見下ろす。自分を全身で拒否する雪の態度に、加虐心を煽られた。
目をを閉じる雪の顔に覆い被さるようにして、強引に口付ける。雪は歯を噛み締めて、頭を振った。
永井は口づけを離すことなく、両手で押さえつけていた雪の手を、片手で雪の頭上にまとめ上げる。
食いしばられた雪の歯にゆっくりと舌を這わせながら、永井は雪の足の間に手を伸ばした。
怯えと寒さに縮み上がった雪のモノをきつめに握り込む。
「あっ」
思わず漏れた声に、雪の口が微かに開く。その隙に、永井は雪の歯列を割り、強引に舌をねじ込んだ。
「……ん、ん……っ、う……」
強引に舌に絡みつき、口中を這い回る舌のおぞましさに、雪は呻いて涙を流した。
足の間の手は雪のモノを休むことなく扱き続ける。雪は体を震わせた。
気が遠くなるほど、しつこく口付けられた後、ようやく手と唇を離されて安心する間もなく足が乱暴に割り広げられる。
「お前は水原先生で慣れてるからイキナリでも平気だな」
みずはらせんせい、という言葉に、雪は再び両腕で顔を覆った。こんなヤツの口から、恋人の名前を聞きたくない。
雪は勿論言葉には出さなかったが、永井には雪の想いが手に取るように分かった。
「水原先生とは、どんな風にヤってるんだ?」
意地悪く笑いながら、自分のズボンを引き下ろす。目の前の雪を見ていただけで、永井のモノは十分にいきり立っていた。
頑なに腕で顔を覆ったまま、微動だにしない雪の膝を抱え上げ、胸に付くほどきつく押し付ける。
「あんときは、たしか椅子に座った先生の上に跨って、自分から腰振ってたなあ」
露わになった後ろの入り口に熱くたぎった自身を押しつけながら、永井は言葉で雪を嬲る。
自分の言葉と行為に、雪の体が目に見えて強張った。ぐっと歯を食いしばったのが、顎の動きで分かる。
永井は押しつけたモノを強引に中にねじ入れた。
「う……」
思った以上にきつい内部に永井は低く呻きながら、何度も腰を揺すって、少しづつ突き入れた。
「きっついな……」
腰を押さえつけて、半ば強引に根本までねじ込むと、息を吐いて言う。雪は永井の言葉に反応一つしなかった。
顔を覆ったまま、まるで人形のように動かない。血の気の失せた唇だけが、僅かに戦慄いていた。
頑なな雪の態度に急に腹が立ってくる。永井は根本まで収めたモノを無理矢理入り口まで引きずり出し、
今度は一気に深く突き上げた。雪は身体を引きつらせたが、うめき声一つあげない。
永井は苛立ち、ぎちぎちと締め上げる内部を無理矢理に押し広げると、無茶苦茶に腰を突き上げた。
「こうされるのが好きなんだろ?え?どうなんだ!」
自分と雪の腹の間で萎縮した、雪のモノを乱暴に握る。衝撃に雪は体を大きく震わせたが、それでも声はあげなかった。
「鳴けよ!ホラ!あ?鳴いて見せろ!」
永井は苛立たしげに声を荒げながら、激しく腰を打ち付ける。打ち付けられる度、雪の体が頼りなげに上下に揺れた。
「くっ……!!」
永井が小さく声をあげて、雪の奥に迸りを叩きつけた時、雪は顔を覆った腕の下で、きつく目を閉じた。
「ああ……」
絶望の声が口から漏れ、雪の目から幾度目かの涙がこぼれた。



「毎日授業後、及び指定した時に、ココへ来い」
これが永井の命令だった。雪は今日も、重い足取りでその場所へと向かう。
一番初めに雪が呼び出された場所は、今は使われていない旧クラブハウスだった。
数ヶ月前に、体育館に隣接した立派なクラブハウスが建てられ、
解体費を惜しんで残されたままの旧クラブハウスには、ほとんど人が近寄ることは無い。
永井はこのクラブハウスの1階の奥を、たまり場にしているようで、狭い部屋の中には、
薄汚れたマットや机やロッカーの他に、永井や仲間のものらしい私物もいくつか放置されていた。
雪はこの部屋の、床で、机で、マットで、永井の好きにされなければならなかった。
リノリウムの冷たい床に、会議用の大きな机、そして永井が体育倉庫から持ってきたらしい、体育で使うマット。
どれもが薄汚れていて、きれい好きな雪にはそれだけでかなりの負担だった。
その上、裸にされていいように扱われる。
一時間以上に渡って、口の中に自身をつっこまれて、口での奉仕を強要された。
永井がすっかり満足するまで、ありとあらゆる体位で犯された。
永井の上に跨って、自分で腰を振り立てて、永井をイかせなければならなかった。
毎日毎日、永井は自分の思う様、雪をいたぶった。
自分が、こんな目に遭っていると知ったら、秋はきっと泣くだろうな…。
さんざん犯された後、一人部屋に残されて、身体を起こす気力も無いまま、マットに横たわり、雪は恋人の事を思った。
やさしいやさしい秋。暖かく自分を包む手。柔らかな笑顔。お人好しで、涙もろくて、頼りないのに、頼れる恋人。
この世で唯一、自分が愛する人。自分を愛してくれる、人。
雪はのろのろと身体を起した。後ろから、永井の放った白濁が溢れる感覚に、震えながら、ぎりりと唇をかみしめる。
自分のわがままが引き起こした事だから、責任は自分で取る。秋には、迷惑は掛けない。
噛み締めていた唇が震えて、力無くほどける。雪は両手で顔を覆うと、小さく肩をふるわせた。
声を押し殺して泣く雪の陰が、窓から差す月明かりに、床に細くのびていた。


「脱いで」
部屋に入ってきた雪を見るなり永井は言った。机の上には教科書が出されていて、永井は勉強していたようだった。
(コイツでも勉強するのか)
少し、意外に思いながら永井の顔をちらりと見る。
「そこの上で服脱げよ。全部」
視線を感じたのか、教科書から顔を上げた永井は、シャープの先でマットを指した。
雪は溜息を吐いて靴を脱ぐと、大人しくマットの上に上がった。制服のシャツに手を掛ける。
永井はこちらを見ておらず、教科書に目を落としていた。
見ていない隙に脱いでしまおう。ちらちらと永井を窺いながら服を脱いでいく。
雪が下着一枚の姿になっても永井は顔をあげなかった。みっともない格好で放っておかれて、雪は少しいらいらする。
今夜、恋人であり、この学校の中等部の教師である、水原と会う約束をしていた。永井に関係を強要されるようになってから、
会うのは初めてで、雪は朝から緊張していた。
どんなに平静を装っても、水原は自分の様子がおかしいことに、気づくはずだ。
気づかれたら、嘘をつかなきゃならないな…雪はこう考えて小さくため息をついた。
嘘をつけば、水原はそれを信じるだろう。今まで水原に、嘘をついたことなど一度もないのだから。
水原にはなんだって話してきた。自分に対してよりも、水原に正直だった。
どんな思いも、どんな姿も、水原の前にはさらけ出せた。
でも、今度ばかりは話すわけにはいかない。 いっそのこと、会わないでおこうかとも思ったが、
会いたいと思う気持ちの方が強かった。大好きな秋に会いたかった。
何としてでも早く終わらせて、家で体を清めてから、会いに行きたい。早く。
雪は、思いきって声を掛けた。
「脱ぎました」
雪の声に永井が顔をあげる。
「全部脱げっつっただろ?それも脱げよ」
永井は下着をはいたままの雪に不機嫌そうに言った。雪は仕方なしに下着に手を掛け、永井の目の前に全裸を晒した。
「そこに座って」
立ったままの雪に永井が言う。雪は言われるままにマットに腰を下ろした。ざらざらした感触が不快で堪らない。
不愉快を露わにして、落ち着かなさげにしている雪を見下ろして、永井は更に指示を出した。
「足、開いて。自分で膝割って見せてよ」
永井の言葉に雪の体が強張った。俯くと、黙って膝に手を掛け、乱暴に足を割り広げる。
こんな男の前で恥ずかしがるだけ、時間のムダだ。こう言い聞かせて、限界まで足を開く。
永井は机に肘を付いて、雪をじっくり見下ろした。雪は目を伏せたまま、顔を背けた。
「お前ってさあ、あんまりイかないじゃん?」
がたり、と椅子の音を立てて、立ち上がりながら永井が言う。雪がびくりと顔をあげた。 
雪の前にたった永井は、顔を上げた雪の顎を掴むと、舌先で歯列を割って、強引に口付ける。
永井は雪の柔らかな唇の感触を楽しむように甘く噛んでから、無理矢理舌をねじこんだ。
逃げまどう雪の舌を強引に絡め取って、きつく吸い上げる。雪の身体が微かに震えた。
薄目を開けて雪の顔を盗み見る。雪はきつく眉を寄せて目を閉じ、口づけに耐えている。 
永井は口づけたまま、雪をマットの上に押し倒した。思う様、雪の口中を貪り、糸を引いて唇を離す。
「お前、俺が突っ込んでやってるのにちっともイかないからな。今日はイくまで帰さない」
至近距離から雪の顔を見下ろし、永井は早口で言った。雪は永井の視線から顔を背ける。
(お前なんかに抱かれてイけるか)
心の中で悪態を吐く。永井との行為は、快感とは縁遠い。不快で、屈辱的で、精神的肉体的に苦痛を伴う。
そんな状況でイける訳も無かった。
永井は顔を背けた雪の首筋に舌を這わせた。おぞましさに鳥肌が立つ。こんな事をされる位なら、
強姦同然に突っ込まれた方がマシだ、と雪は思った。今までろくに愛撫らしい愛撫をしたことの無い永井の、
突然の変化を気味悪く思う。
永井の舌は、胸元に降りていた。舌で執拗に胸をなめ回しながら、片手の指先でもう片方を摘み上げる。
雪は快感ではなく、気持ち悪さに体を震わせて感触に耐えた。
こんなんでは到底イけない。雪は腕にはめた時計にちらりと目を落とした。今は5時。秋との約束は7時。あと、2時間。
雪は自分の胸の上で蠢く永井の頭を視界の端に捉えて、何度目かの溜息を吐いた。
(これだけはやりたくなかったけど…)
雪は思って目を閉じる。さっさと終わらせる為だ。
雪は意識の中で永井の愛撫を、水原にすり替えた。この胸を摘む指は、秋の指。
この胸を吸い上げる唇は、秋の唇。脇腹を撫でる手は、秋の大きな手。足にあたる熱い感触は、秋のモノ。
こう、自分に言い聞かせる。徐々に、体が反応していくのが分かった。いつもとは違う愛撫。少し荒々しい、秋の手。
「あんっ!」
足の間のモノを握り込まれて、雪は思わず甘い声をあげた。
水原の手だと思うだけで、こんなに感じる。
永井の手が、先程雪が放った白濁を手に取り、腹を撫でる。ぬるぬると下腹を這い回る手に、雪のモノは硬さを増していった。
いつもは何かと喋りながら雪を攻め立てる永井が、珍しく言葉少なで、それも雪のすり替えの手助けになった。
永井の手が、緩急を付けて雪のモノを扱きあげる。雪はいつしか、手の動きに合わせて腰を揺らめかせていた。
「………」
雪の変化に、驚いたように永井の手が止まる。「……も、もっと!」
今まで永井が聞いたことの無い程の甘い声が、雪の口から吐きだされ、永井の手に自分から腰を押しつけてきた。
言葉に誘われるように、永井の手が徐々に激しく動きだし、先走りを絡めた指が後ろへと滑る。
後ろの入り口を指先で何度も撫でられて、その度に雪はびくびくと体を跳ね上がらせた。
「……ふ…ぅ…んっ!んあっ、あん!」
雪の口からひっきりなしに甘い声が漏れはじめる。永井は雪の変貌ぶりに、自分が痛いほど高ぶるのを感じていた。
「っつ……んあっ!!」
2本纏めた指を永井が後ろに沈めた途端、雪は声をあげて精を放っていた。
胸元まで白濁を飛ばして、雪は荒く息を吐く。雪は乾いた唇を舌で湿して、再びきつく目を瞑った。
中に潜り込んだ指が、きつく中を抉る。
「……ひっ!!」
乱暴に中を掻き回される感触に、雪は小さく悲鳴をあげた。思った以上の快感。放ったばかりのモノが、再び反応していく。
いつだって水原は、壊れ物を扱うように雪に接した。
中に指を入れる時も、雪が傷つかないように、細心の注意を払って、ゆっくりと、やさしくそれをおこなう。
雪は大事にされているのを嬉しく思っていたが、時に物足りなさを感じていたのもまた事実だった。
(秋、もっと、もっと激しくして)
頭の中で呼びかける。
その呼びかけに答えるように、永井の指が一層奥を抉った。
「ああっ……!」
目の前がスパークする程の快感。
雪は思わず叫んでいた。
「も…っ、もっと!」
永井は驚いて手を止めると目の前の雪を見た。
うっすらと開いた目が、潤んでこちらを見上げていた。濡れた唇が艶めかしい。
永井は指を引き抜くと、乱暴に雪の足を抱え上げ一気に中に押し入った。
「ああああああ」
快感に雪の背が反る。
永井は雪の腰を抱え上げるようにして、何度も腰を叩きつけた。
雪の足が、ねだるように永井の腰に絡められる。
永井は繋がったまま、雪を抱え上げるようにして膝の上に抱き上げた。
「今日は随分素直じゃないか」
膝の上に乗せた雪を抱きしめて、耳に囁く。
雪は黙ったまま、熱に浮かされたように、永井の動きに合わせて腰を振っていた。
永井の言葉など、まるで耳に入っていない。
雪は縋り付くように永井の首に腕を回した。
「あ、あ、も、ダメ……っ」
根本まで永井のモノを飲み込んで、雪は体を震わせた。
「イけよ」
永井が軽く腰を突きあげる。
「あき、秋っっ!!!!」
雪は叫ぶように水原の名前を呼ぶと、身体を震わせて迸りを放った。
この瞬間、部屋の空気が変わったことに、雪はまったく気づかなかった。

→NEXT
 

←TOP