「香?俺」
「芝ちゃん!」

電話口から聞こえた声に、俺は思わず弾んだ声をあげた。
非通知で掛かってきた電話。
普段なら出ないけれど、なんとなく虫が知らせたのかもしれない。
おそるおそる出た電話の向こうは、大好きな恋人で、俺は携帯を握る手に力を込めた。

「元気か?」

電波が悪いのか、がさがさとノイズが入る。

「うん、元気…。芝ちゃんは?」

芝ちゃんが出かけてから、もう十日が経つ。
大仕事だから、一ヶ月は戻らないかも、と言われていた。

「俺?ボロボロ」

いつも元気な芝ちゃんの、疲れたような声に、ぎゅっと胸が痛む。

「もう、帰りたいよ」

珍しく聞く、芝ちゃんの弱音に、俺はいてもたってもいられない気分になって、立ちあがった。

「芝ちゃん…」
「香が恋しい。早く帰って会いたいよ」

あの芝ちゃんが、こんな事言うなんて…
俺は思わず涙ぐむと、芝ちゃんの顔を思い浮かべて、電話の向こうへと語りかけた。

「俺も…淋しいけど、我慢するから。いつでも芝ちゃんの事、思ってるから。仕事、頑張って」

どんなに大変でも、仕事を放り出すことは出来ないって知ってるから、会いたいとか、帰ってきてとか、そんな台詞は言えなかった。
いつもの芝ちゃんになら言えたかもしれないけど、今日の芝ちゃんはなんだか弱気になってるみたいだし…
いつだって元気で明るくて自信たっぷりな男なのに、よっぽど疲れてるんだろうなあ。
俺は、涙声を悟られないように、わざと明るい声を出した。

「でも、あんまり無理はしないでよ?帰ってきたらいっぱい遊んで欲しいし」

くくっと小さく笑う声がする。

「俺が帰ったら、一番最初に何して欲しい?」

少し、声がいつもの調子に戻っている。ちょっと元気になったみたいだ。
俺は、ほっと安心すると、電話なのを良いことに、普段言えない台詞を囁いてみた。

「ぎゅっと…抱きしめて」

途端に、顔がかっと熱くなる。

「それだけで良いのか?」

続きを促すような声に、赤くなった頬を押さえて、口を開く。

「キス、して」
「それで?」
「…抱いて」

こんな事、口に出して言った事などほとんどない。
芝ちゃんは、いつだって俺が望むことを先回りしてしてくれたから。
俺は、いつになくどきどきしながら、受話器を耳に押し当てていた。

「どんな風に、抱いて欲しい?」

柔らかい声が、誘うように耳に届く。
俺は、どさりとベッドに腰を下ろした。身体が熱くなるのが分かる。

「どんな風にって…」
「とろけるように、抱いてやろうか?」

甘すぎる声に、俺はこくりと喉を鳴らした。

「香のアソコがとろとろになるまで、うんと焦らして…」

どーして芝ちゃんて、こんな恥ずかしい台詞を平気で口に出すんだろ。
耳の後ろから首筋がぞくぞくしてきて、一気に腰が重くなる。
身体は、芝ちゃんを思い出していた。
耳に囁かれる芝ちゃんの言葉を。
肌を這う芝ちゃんの唇を。
アレを握る芝ちゃんの手を。
奥を探る芝ちゃんの指を。
内壁を押し入ってくる熱い昂りを。

「……はぁ」

俺は思わず溜息をもらしてぶるりと身体を震わせた。
いつの間にか、すっかり勃ち上がった前が、窮屈そうにズボンの前あわせを押し上げている。

「感じた?」

ほんの僅かにからかいを含んだ声。
俺は、素直に「うん」と頷いた。
もぞもぞとベッドの上に座り直す。

「でも、久しぶりだから、俺の方が我慢できないかもな」
「え?」
「焦らすどころか、帰るなり押し倒して無理矢理襲っちゃうかも」

耳の奥に響く低い笑い声に、背筋がぞわぞわした。
芝ちゃんはいつもすごく優しいけれど、時たま少し乱暴に俺を抱くこともあって…俺はそれが嫌いじゃない。

「い、いいよ」

無意識に言ってしまっていた。

「お、俺だってきっと我慢できない…。焦らされたりしたら、俺から上に乗っちゃうよ?」

冗談めかして言うつもりだったのに、声には随分本気が混じってしまって、それは芝ちゃんにもバレたみたいだ。

「へえ。お前から?」

少しびっくりしたような芝ちゃんの声に、思わず後悔する。
俺は、芝ちゃんとのセックスに関しては全くの受け身で、今まで自分から…なんてコトは一度も無かった。
芝ちゃんに気持ちよくなって貰いたい気持ちはあるけど、自分からあれこれすると、慣れた奴だと思われるんじゃないかっていう不安もあって、なんだかできなくて…。

「そんなことされるの、イヤ?」

自分から上に乗ってくるような淫乱な奴は嫌いだって言われたらどうしよう。
俺はたちまち不安になって、おそるおそる電話の向こうに問いかけた。

「イヤな訳ねえじゃん。むしろ、して欲しい」

速攻で帰ってきた返事にほっとする。

「芝ちゃんが帰ってくるの、楽しみに待ってる」

心を込めて言うと、芝ちゃんは笑って言った。

「おう。大人しく、待ってろよ」
「うん」
「帰ったらイヤってほど抱いてやるから、一人Hもすんじゃないぞ」

本気の声で言われた言葉に、思わず笑ってしまう。

「しないよ、そんな事」
「約束だぞ。しっかり溜めとけ」
「分かったよ。約束する」

下らない約束を交わして、電話越しにキスを送る。
ぷつり、と通話が切れた途端、たまらなく淋しくなって、俺はベッドに転がった。
芝ちゃんの声の余韻が、体中に満ちている。
俺は、ぎゅっと身体を縮めて、交わした会話の一つ一つを反芻した。

”とろけるように優しく抱こうか”
いやらしく囁かれた言葉を思い出した途端、かっと身体が熱くなる。

「は…」
俺は小さく吐息を漏らして、ぎゅっと小さく丸まった。
話している時は夢中で気づかなかったけれど、心臓がドキドキしてる。
無意識のうちに、俺の手は足の間へと伸びていた。
俺の股間は芝ちゃんと話している間中、ずっと緩く勃ちっぱなしで(だって芝ちゃんの声はすごく腰にクる)、俺はそっとズボンの上からその場所に触れた。
手が触れた途端に、むくりとまた嵩が増す。

「はあ…ぁ」

ダメだって。
約束したろ?一人Hはしないって。
頭の片隅で、そんな声が聞こえたけれど、俺はもう我慢出来ずに、ズボンをずり下ろしていた。
突き立ったモノを握り、息を詰めて扱く。
あっという間に溢れ出たモノで手が濡れた。

「はぁっ、あっ、あ…っ」

芝ちゃんの手、芝ちゃんの声を思い出しながら、自分の先走りで濡れた手を、身体に這わせ、乳首を摘み上げる。
芝ちゃんと付き合い始めてからは、ほとんどしなくなった一人Hだけど、昔はしょっちゅうやっていた。
久々にやってみると、結構刺激的で、俺は一人興奮しながら、濡れた指を今度は後ろへと滑らせた。

「んっ…ぅ、っく」

ぐちゅりと濡れた音を立てながら、後腔は指を飲み込んでいく。
俺は、十日前の事を思い出しながら、夢中で指を動かした。
仕事に発つ前、芝ちゃんはしばらく抱けなくなるのだから、と一晩中俺を抱いていた。
最後の方は、さすがに意識が朦朧としてよく覚えてないのだけど、あれだけ俺を抱いておいて、次の日元気に仕事に行く芝ちゃんの体力と精力はさすがだ。
最後の最後まで、芝ちゃんのモノは衰える事を知らず、俺を狂わせ泣かせ乱れさせた。

「芝ちゃ…んっ、あっ、はぁ、あぁっ」

指なんかじゃ物足りない。
芝ちゃんが欲しい…!

「芝ちゃん、芝ちゃん…」

瞑った瞼に、芝ちゃんの姿を思い浮かべながら、、淫らに前後の手を動かし続ける。

「あ…、も、イきそ…っ」

俺の唇が、こう口走ったその時。

「イかせないぜ」

頭の上で声がした。
ぎょっとして、目を開く。

「し…ば、ちゃん?」

目の前には、まごうかたなき芝ちゃんの顔。
俺はぽかんとして、懐かしいその顔を見上げた。

「お前というヤツは…早速約束破りやがって」

ぎしりとベッドを軋ませて、にやりと笑った芝ちゃんが横たわった俺の傍らに座る。

「前だけならまだしも、後ろまで?」

芝ちゃんは言葉と共に、俺自身の指が入ったままの後腔に、自分の指を差し入れた。

「あっ」
「もうグチョグチョじゃねえか…。指なんかで満足できんのか?」

耳元に、いやらしく囁かれた言葉。
イく寸前でお預けをくらった前が、ぴくりと震える。
俺は思わず首を振ると、目を見開いて芝ちゃんを見つめた。
 
「ね…」

握っていたモノから手を離し、濡れそぼった手を芝ちゃんの頬に伸ばす。
そっと触れた頬は、僅かにちくりとひげの感触がした。

「本物、なの?」
「夢かもな」

俺の言葉に小さく笑いながら、芝ちゃんが濡れた手を掴み、指に舌を這わせる。
夢か現実か知らないが、そのやり方は芝ちゃんそのもので。

「取り敢えず、抱いてやるよ。約束破ったオシオキは、その後だ」
俺は、ぽかんとしたまま、芝ちゃんが服を脱ぎ捨てるのを見上げていた。

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